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第6話:デカ小豆

 魔法使いの服装に着替えた私は、エマと一緒に王都の外に向かって歩いていく。


 すると、大勢の人で賑わう市場が見えてきた。


 日本のようなスーパーマーケットはないみたいで、青空の下で新鮮な野菜や果物を並べて販売している。


 その販売されている商品を見た私は、自然と胸が高鳴っていた。


 見慣れたはずのニンジンが四角かったり、真ん丸のピーマンがあったり、三角形のタマネギがあったりして、見ているだけでも面白い。


 どれも新鮮なものばかりで、とても色艶がしっかりとしていて綺麗だった。


「同じような野菜でも、けっこう形が違うね。こうやって見ていると、知らない食べ物みたいに思えるよ」

「勇者も初めはそう言ってた。でも、食べるとそうでもないんだって」

「見た目が違うだけで、味はほとんど同じってことかな」

「そんな感じ。生で食べる分には、こっちの世界の方が野菜も果物もおいしいって言ってた」

「へえ~、そうなんだ。ちょっと興味があるかも」

「市場で買い物する予定だから、気になるものがあったら買うよ」

「うん、ありがとう」


 エマと一緒に市場を歩いて、いろいろな店を見ていると、果物を中心に販売しているところで立ち止まった。


「ここの果物を買いたい」


 そう言ったエマが果物の厳選を始める中、驚きが絶えない私の目には、信じられない光景が映し出されていた。


 まず最初に気になったのは、拳くらい大きい苺だ。


 菓子店を家族経営している身としては、ついつい仕事のことを考えてしまう。


 これほどサイズが大きいものだと、ショートケーキの飾りやイチゴ大福には使えない。


 小さくカットしたものをスポンジケーキの間に挟んだり、苺ソースにしたり、そのまま食べたりした方がいいだろう。


 逆に、こっちに置いてある一口サイズのマンゴーは、アレンジしやすいかもしれない。


 異世界産のマンゴーを丸ごと使ったマンゴー大福なんて……、作りやすそうだから、ちょっと挑戦してみたいかも。


 菓子店を営む私にとって、異世界の果物屋さんは宝物庫みたいで、目移りばかりしていた。


 そんな中、異彩なオーラを放つ食材が視界に入ってくる。


 真っ黒な皮に覆われた丸いもので、スイカよりもひと回りほど大きかった。


「エマ、これはなに?」

「ん? それはデカ小豆(あずき)

「いや、でかすぎ。名前の割には、めっちゃ重そうじゃん」


 小さい豆と書いてアズキと読むのに、まさか異世界だとスイカよりも大きいサイズだったなんて。


 このデカ小豆で和菓子に使う餡を作ったら、いったいどんな味がするんだろうか……。


 うーん、気になる。果物の存在も引っかかるけど、デカ小豆が気になって仕方がない。


「じゃあ、デカ小豆を買ってもらってもいい?」

「えっ? ……うん、別にいいよ」


 それを買うんだ、と言いたげなエマは、明らかに戸惑っていた。


 色とりどりの果物が目立つ中、異彩なオーラを放つデカ小豆を買おうとしているのだから、エマの気持ちもわかる。


 でも、和菓子を食べてくれれば、きっとエマも納得してくれるだろう。


 エマも買いたいものが決まったみたいで、果物屋さんのおじさんに手を挙げて呼んでいた。


「八角みかんを十個と、デカ小豆を一個もらう」

「あいよ、まいどあり」


 異世界の通貨で銀貨を三枚を支払い、お会計を済ませてくれる。


 さっきも服を買ってもらったけど、異世界の相場がわからない。


 でも、日本より野菜や果物の相場が安いのであれば、異世界の店を仕入れ先に検討するのも一つの手だと思った。


 近年は仕入れ先がどこも値上げばかりで、うちの店にも影響は大きい。このまま普通に経営していては、次第に赤字になって、貯金が尽きてしまう。


 そうなる前に、異世界産の食材を使った商品を開発して、販売することを視野に入れるべきだ。


 他店では絶対に真似できないオリジナル商品になるのだから。


 ましてや、収納魔法で持ち運んでくれるエマがいれば、現地調達が楽にできるため、運送費がかからない!


 ノエルさんとエマの分まで生活費を稼ごうと思ったら、二人にも協力してもらった方がいい。


 これは、早いうちにエマを和菓子の世界へ引き込むしかないな。


 幸いなことに、エマは日本の食文化に興味があるみたいだから、あま~い餡の沼にどっぷりと浸かってもらおうか。フフフ……。


「胡桃、なんか悪い顔をしてるよ?」

「そんなことないよ。エマはどんなお菓子が好みなのかなーって考えてただけだから」


 果たして、饅頭か、どら焼きか、いちご大福か……と、不適な笑みを浮かべつつ、私はエマと一緒に街の外へ向かっていくのだった。

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