昔の記憶 4
ある貴族達の男女が親に隠れて相引きするために使われた場所だと言われている。
ひまわり畑と呼ばれる相引きの場所はアイトゥル国ができる遥か昔から咲いてあった。
黄金の海と呼ばれていた。
それでこの町の名の語源になったと。
ひまわりは二人の身長よりも高く海と称されるくらい大量に咲いてあるので、隠れて会うには最高の場所だった。
あるとき、二人はひまわり畑の中に何も咲いていない場所を見つけた。
そこで寝転がったり、抱き合ったりして会うたびその場所でずっと過ごした。
だが、幸せな時間というものはあっという間に終わりを告げる。
女の父親がさらに権力を地位を欲しがり隣国の王子と結婚させることにした。
女は父親に逆らうことができず、別れを言うこともなく隣国の王の元に嫁いだ。
男は女が隣国の王の元に嫁いだと聞かされたが、女が別れの言葉を何も言わずに去ったので、もしかしたらいつか自分の元に戻ってきてくれるのではないかと。
ずっと地面に座り続ける男の後ろ姿が哀れに思ったのか、男の姉は白い椅子をそこに作るよう命じ、待つのならせめてそこに座って待ちなさい、と。
「これが、もう一つの噂ね。最初から咲いていたとも言われているし、植えられてできたものとも言われているわ。まあ、言い伝えとも噂とも言われているような話だから、結局本当かどうかはわからないけどね」
話終えると喉が渇いたのかレモネードをゴクゴクと飲み干していく。
レオンはヴァイオレットの話を聞き終わると何ともいえないような顔をする。
「恋人なのに酷い」
本当か嘘かはわからないが、もしそれが本当だったらと思うと捨てられた二人が可哀想だと。
自分がもしそんことをされたら、相手を待つなんてできない。
人を簡単に捨てることができる人間が戻ってくるなんてあり得ない。
そんなことする人間に心なんてあるはずがない。
どれだけ待ったとしても。
会いたいと願っても。
レオンはそのことを知っているから、同情し同時に死ぬまで待ち続けた二人に怒りを覚えた。
「そうね」
「何で大切な人にそんなことができるんだ。俺には理解できないよ」
レオンにとって命の恩人であるサルビアとヴァイオレットを傷つけることなどできない。
普通は大切な存在にはそうなるのではないか。
どうしても二人のことが理解できない。
したいとも思わない。
「人は簡単に人を傷つけることができるし、裏切ることだってできるの。そういう生き物なのよ。人間は。残酷かもしれないけど、皆が皆、幸せになれるわけではないわ。どれだけ善行をしようと、どれだけ悪行をしようと人の行き着く先は全て同じなの」
ヴァイオレットの言葉に苦虫を噛み潰したような顔をする。
「この世界は善人だけじゃない。悪人もいる。寧ろ、悪人の方が多い。人は身勝手なの。自分が一番可愛い生き物なの。他人も優先できる人間なんてほんのごく僅か。限られた人間だけができることなの。でも、私はそれが悪いことだとは思わないわ。自分が幸せになる為に、生きていく為にしたことだもの。それを、否定することは私にはできないわ」
納得していないレオンの頭を撫でながら続ける。
「レオン。貴方がこの話を酷いとそう思うなら、そんな人間になってはいけない。自分がどんな人間になりたいかきちんと考えなさい。誰の為でもなく、自分の為に。なりたい自分が決まったらそれに向かって努力なさい。理想を口にしていいのは強者だけ。弱者にはその権利も資格もないの。それが、この世界の掟なの」
掟。
その言葉にレオンは二人に会う前の事を思い出し、その通りだと思った。
二人に拾われ、幸せな日々を過ごしていくうちに忘れてしまっていた。
自分もかつては自分勝手な人間だったということを。
自分は運が良かっただけ。
恵まれていただけ。
なりたい自分を決めろ、と言われてもピンとこない。
二人を守りたい。
恩返しがしたい。
町を復興させたい。
いつも笑顔でいて欲しい。
そう思っているが、これらを叶える為にはどういう人物になればいいか全く検討がつかない。
「俺は自分がどうなりたいのかがまだわからない。でも、愛する人達には幸せなって欲しい。そのためなら、きっとなんだってできる。裏切るような真似だけはしたくない。今は、それだけしか考えられない」
「それでいいのよ。もうすでに充分すぎるくらい立派よ」
レオンの頬を撫でる。
「いつかきっと、レオンにも愛してやまない人と出会えるわ」
「俺に?そんな人現れるかな?」
自分が誰かを好きになることが想像できない。
そもそも、愛が何かよくわからない。
サルビアとヴァイオレットのことは愛してはいるが、そういう愛ではないとわかっている。
レオンは身勝手な両親によって捨てられたため、愛に嫌悪感を抱いている。
そんな自分が誰かを愛せる日がくるとは到底思えなかった。
「ええ。現れるよ、必ず。そのときはちゃんと紹介してね。約束よ」
「現れたらね。そのときは紹介するよ。約束だ」
お互い想っていることは真逆だったが指切りをして約束を交わす。
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