プロローグその2(終)
「ぜぇ...ぜぇ...。やっ、やっと着いた...。」
(方向音痴でもないのに王室に着くまで1時間弱かかるって
どういう事だっつーの...)
1時間という膨大な時間を経てオリバは現在無駄に主張が激しい王室の扉の前に立っている。
(...にしても、すげぇなこの扉。2mはあるんじゃないか?)
「ふぅー...やっぱ緊張するもんだな。」
実際オリバの全身の筋肉はプルプルと震えている。別に彼は筋肉がついていないわけではない。
(...よし筋肉も落ち着いてくれたわけだし...入るか) コンコン
『オリバか』
「はい。(やっべぇぇ!また筋肉が震え始めやがった!)」
中からは野太く威厳のある声が聞こえ、落ち着いていたはずの筋肉の震えが再発する。
『入っていいぞ』
「あ、ありがとうございます...。」
オリバは震える筋肉を抑えつつ大きな扉を開ける。
中にはやはり眩しすぎる位の輝きを持つ装飾がこれでもかと全方位に置いてあり、その奥に一人、ルピー王がドンと構えるように無駄に大きいソファに座っていた。
「まぁ座るがいい...そう緊張するな。」
やはりルピー王はオリバが緊張している事がわかっていたようだ。
「お、お久しぶりですね。る、ルピー王。」
「久しいなオリバ。お前と会うのは、我の即位20周年の時にやった式典ぶりだったか...?」
「は、はい、そう...です...けど。」
緊張という忌々しい呪いのせいでまともに頭が回らないオリバは、返事も弱々しくなっていてどこか頼りない。
「...大黒が、奴らに取られたらしいじゃないか」
「...っ!も、申し訳ございません!これは自分の部下がわるk...いえ私自身の采配のミスが原因で、」
「いや、お前やお前の部下が悪いわけじゃない。」
「え...?」
「これを見ろ。」
ルピー王はオリバを制止すると一つの紙を取り出し、オリバに渡した。
「我の部下にロンリー大帝国について調べさせた。その調査結果がその紙に記載されている。」
「別にいまさら調べる事なんて...ってこれは!?」
「気づいたか、オリバ。奴ら、我らと正面からやり合うつもりはないらしい。」
そう言ってルピー王は自国がピンチにも関わらず、平然とした表情を浮かべた。
この「黒土」には黒土の繁栄を成し遂げるべく様々な物を開発している善の存在、「人間」と、野生的本能で行動し、ある時は人間を襲うこともある負の存在、「怪物(仮称)」が生息している。ルピー王が言うに、「ロンリー大帝国(善)と怪物(負)がなんらかの利害が一致したのかは分からないが、協力体制を築いた」らしい。
「...ルピー王。」
「なんだ?」
「つまり、これからはロンリーの軍人と怪物を同時に相手にしなければならないわけですね?」
「...そういう事になるな」
そう、ただでさえロンリー大帝国との戦いで精一杯なのに、怪物が参戦してくるというのだ。軍人としてはたまったものではない。
「あの、正直に申していいですか?」
「構わんがいきなり改まってどうした?」
ハァー...とオリバから息が漏れる。今から言う言葉を言うにあたって相当な勇気がいるからだ。そして緊張を滅し、勇気を得た軍人はこう言い放った。
「もういっそのこと、降伏しませんか?」
軍人にあるまじき発言だった。
「ちょ、ちょっと待て!いい、いきなり何を言い出すのだ!」
「いや、ロンリーだけで負けそうなのにそこに怪物が加わるんですよ?少しは軍人のことも考えてくださいよー。勝てない戦争に挑んでも、待ち望んでいるのは国民の死なんですから。」
「た、確かに国民を失うのは辛いが...」
「でしょ?じゃあ早く降伏の手続きを...」
なんて野郎だとオリバ自身思うが、これは王のためであり、国民のためであり、なにより、あまり戦いたくないオリバ自身のためなのだ。
だが、そんな国のために働けない輩には天罰が下るものである。「これでようやく戦争が終わり、山奥の実家で暮らせるぜやったー!」とオリバ(将来ニート希望)が思っていた矢先、その気持ちを裏切るかごとく、王は言った。
「...それでも、こんな絶望的状況下でも、勝てる策はある。」
「へ?」
ニート野郎の間抜けな返事を無視し、王はある名前を呼んだ。
「ペタ。」
すると王の側に小さな魔方陣が浮かび、そこから、ぬいぐるみがニュッと出てくる。
『なんだ?』
「プッ...プラッシュドール!?あれは確か100年前に滅んだはず!?」
「そう、プラッシュドール。過去に滅んだ文明の利器でなんとかならないかと思ってな...一応量産はしたのだが、」
「無理です!貴方と違って、私たち国民はプラッシュドールと契約を交わし、従わせることができません!」
ルピー王を始めとした王族はプラッシュドールを従わせる事ができる。しかし、それ以外の全ての国民は従わせる事ができないのだ。しかし、王はそれを言う事を分かっていたかのように、こう続けた。
「...できるのだよ。王族以外で契約ができる特別な人間が。」
「ピンチで頭がおかしくなったんですか!契約ができるのは貴方たち王族だけなんですよ!」
『黙って聞け軍人。』
「うわっ!?ゆゆ、幽霊が喋った!?」
『プラッシュドールだッ!いいから落ち着いて話を聞け!』
~2分後~
「ふぅ...で、いるんですか?王族以外でプラッシュドールと契約できる人間が。」
「まぁ...いるのだが、なにせ”召喚”するのがとても面倒でな。」
「面倒って...って”召喚”?」
召喚。オリバにとってあまり馴染みのない言葉であった。
『確かに我らプラッシュドールと契約ができる素質を持つ人材は見つかった。だが、そいつはとんでもないところにいる事が分かった。』
「とんでもないところ...?そこはどこですか幽霊。」
『プラッシュドールだッ!...はぁ、そいつのいるところは...”地球”だ。』
「え?地球ってそんなの当たり前じゃ...」
なぜペタがわざわざ「地球」と言ったのか、オリバは分からなかった。が、直後すぐに答えがペタから発せられた。
『すまない。言い方を間違えた。地球と言っても、”もう一つの”地球だ。』
「”もう一つ”...!?それは一体どういう意味ですか!?」
「そのままの意味だオリバよ。にわかに信じがたいが、あるのだ、もう一つの地球がな。」
『でだ。その素質のある人間をコッチに召喚して戦わせる...ってわけだが、さっき王が言っていた量産型のプラッシュドールに行かせる。』
「へぇー...でもプラッシュドールって宇宙空間を移動できるんですか?」
「スワーム大共和国は”技術だけは”どこの国よりも発展していてな...既に宇宙空間を楽に動けるスーツを開発したのだ。」
「じゃあなんでロンリー大帝国に負け」
『空気を読め軍人。いくらなんでもそれは言ってはならん。』
キッとペタに睨まれて、言葉に詰まった情けない軍人だったが、改まって違う質問を投げかけた。
「ゴホン...で、その素質のある人間の名前って何ですか?」
「...?あ、あぁそういえば言ってなかったな。その人間の名は...」
『千布浩介だ。』
「そこは王に言わせてあげましょうよ幽霊。ほら王がいいところを持ってかれて泣きそうになってますって。」
「な、泣いてないっ!」
『だからプラッシュドールだっつってんだろ!!』
ガチギレしている幽霊と泣いている王が、殴りかかってきたので、オリバは即座に逃げ出した。
ルピー王... スワーム大共和国の王。大戦争で不利な状況に陥ってしまったため、戦況打開のために地球の特殊な人間を連れてこようと考える。
ペタ...ルピー王に仕えるプラッシュドール。彼の実力は謎に包まれている。
黒土...もう一つの地球的な存在。地球とは違うスポーツや文化がある。
大戦争...正式名称「ドゥームスディ戦争」。スワーム大共和国とロンリー大帝国との数十年に渡って続いている超大規模な戦争。