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009 デート

 デート当日。

 ジェシカは、逸る思いを抑えられなかった結果、日が昇る前に待ち合わせ場所に到着していた。

 しかし、ローグトリアムを待つのは苦ではなかった。

 彼女を待つ時間は、筋肉を鍛えている時と同じくらい、いや、それ以上に楽しい時間だった。

 

 数時間後、約束の時間の少し前にローグトリアムは広場にやって来て、既にいるジェシカに目を丸くしていた。

 

「え?ジェシー?ちょっ、早すぎだよ!なんでもういるんだよ!!」


 そう言って、驚くローグトリアムの顔が可愛過ぎてジェシカは、白い歯を見せて言ったのだ。

 

「ローグちゃんに早く合いたかったからです!」


 その言葉を聞いたローグトリアムは、ため息まじりに言った。

 

「はぁ。早く来ても、約束の時間にならないと、結局会えないんだぞ?分かってんのかよ?」


「いいえ、ローグちゃんが約束の時間よりも早く来てくれたから、早く会えたわ!!嬉しい!!ローグちゃん大好き!!さっ、行きましょう!時間は有限よ!!」


 そう言って、ジェシカの何気ない言葉に顔を赤らめたローグトリアムは、下を向きながら小さな声で言ったのだ。

 

「ジェシーのバカ……。お前のほうが何倍も何億倍も可愛いよ。クソ……、俺がこんなんじゃなかったら、嫁にしたいっつーの」


 小さなつぶやきを聞き取ることの出来なかったジェシカは、首を傾げつつも自然にローグトリアムの手を取って歩き出していた。

 

 そして、二人で他愛のない話をしながら、屋台で買った物を食べるという普通のデートを楽しんだのだ。

 

 デート中、二人は自然と手を繋いで歩いていた。

 

 その日のローグトリアムは、チョコレート色の髪をポニーテールに結って、瞳の色とお揃いの赤いリボンを着けていた。

 服装も、食堂で働くときと違って、可愛らしい白に小さな花の刺繍がされたワンピースを着て、その細い肩には若草色のストールを掛けていた。

 一方、ジェシカはいつも通りの背中と脇の大きく開いた服を着ていたが、その日は何時もよりも布面積が小さく、色々とギリギリの格好をしていた。

 自分の筋肉を見てもらいたいと特注したが、アンリエットに止められて着る機会のなかった曰く付きのドレスだったが、初デートということで、気合を入れて着てきたのだった。

 大きく開いた背中が見えるように髪型はポニーテールにしていた。

 

 出店で買ったフルーツジュースを飲みつつ、サイド・トライセップスをキメながら今日の筋肉の出来をローグトリアムに披露するかのように、上腕三頭筋をアピールするジェシカだったが、ローグトリアムは、自分の羽織っていたストールをジェシカに羽織らせながら言ったのだ。

 

「ジェシー……、君が筋肉を大好きなのは十分分かったよ。でもな、ふ、服はちゃんと着てくれよ……。目のやり場に困る……。そんなに肌を出す服なんて着たら、他の男が君に欲情するとも限らない。俺と、二人きりの時はいいけど、他の男がいる所で、そんな無防備な格好するなよ!」


 そう言って、頬を真っ赤に染めたローグトリアムは、涙目で言ったのだ。

 背の低いローグトリアムに下から涙目で見つめられたジェシカは、胸がキュンとなるのと同時に、鼻の奥に熱いものを感じた次の瞬間、勢いよく鼻血を吹き出していた。

 

「ちょっ!ジェシー!えっ、た、大変!!鼻血が!」


 そう言って、慌てて取り出したハンカチでジェシカの鼻を抑えてくれるローグトリアムが愛しくて堪らないジェシカは、幸せに包まれながら胸キュンのし過ぎで倒れたのだった。


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