012 失恋
ジェシカは、筋肉に目覚めてから頭で考えることをやめていた。
つまり、頭の中まで筋肉で埋め尽くされたとも言う。
何を思ったのか、走り去ったと思ったジェシカは、戻ってきてエゼクに言ったのだ。
「エゼク教官!!決着を着けましょう!!ダブルデートです!!」
そう言って、ドヤ顔でエゼクに提案してきたのだ。
その間も、フロント・ダブル・バイセップスをキメて筋肉をアピールすることは止めなかった。
両腕の上腕二頭筋を見せつけながら、エゼクの返答を待ち続けるジェシカに、諦めたようにため息混じりにエゼクは言った。
「はぁ。なんで、そんな事……。ダブルデートって……お前……」
「三人でデートをして、ローグちゃんに選んでもらうんです!!さぁ、教官!!レッツデート!!」
「待て待て、お前と違って、俺はあの子に気持ちを伝えていないんだぞ?」
「ふふふ!!なら良い機会です。この際、エゼク教官も愛の告白をしちゃいましょう!!そうしましょう!!ああぁ、楽しみですね!!決行は明後日としましょう!!」
そう言ってジェシカは、今度こそ全力で走り去ってしまったのだ。
そして、その勢いに任せて、食堂にいるローグトリアムにデートの申込みをしたのだった。
「明後日、ローグちゃんと私とエゼク教官とでデートをしましょう!!」
「えっ?」
「ふふふ。私とローグちゃんとエゼク教官とのデート、楽しみですね!!」
「なっ?!ジェシー、待って!!」
そう言って、呆気にとられるローグトリアムの答えも聞かずに言うことだけ言ったジェシカは飛び出していた。
その日から、デートに向けて筋肉をさらに鍛えだしたのは言うまでもなかった。
一方、エゼクはと言うと……。
夜、いつものように散歩に出かけた先で、もじもじとしながらローグトリアムに切り出していた。
「あの……、明後日一緒に出掛けないか?俺と、その……、デートをして欲しい」
エゼクの自信のなさそうなその物言いに、ローグトリアムは可笑しそうにしながらも否定の言葉を口にしていた。
「エゼクさんは、格好いいんだからもっと自信を持ってください……。でも、デートは出来ません……。私……」
その言葉を聞いたエゼクは、肩を落として謝罪の言葉を口にしていた。
「すまない。突然こんな事言われても困るよな……。やっぱり、リアムは、ジェシカが好きだったんだな……。でも、俺は君を好きになってしまったんだ。もう、俺達は会わない方がいいな……。今まで付き合わせて悪かった……」
「えっ?待ってください。ジェシカ?えっ?どういうことですか?」
「いいんだ……。忘れてくれ……」
そう言って、何か話したそうにしているローグトリアムの言葉を遮り、公園を肩を落として去るエゼクだった。