求む。嫌いな幼馴染から逃げる方法 続
お久しぶりです。
誤字脱字等、御座いましたら言って頂けますと嬉しいです。
素人作品ですので暖かい目で読んでいただけたらと思います。
今日は、親友兼幼馴染みの家で定期的に開催されるお茶会の日である。
お茶会と言っても、硬っ苦しいものではなく、単なる愚痴大会だ。(主に私の)
私はこの日を楽しみにしていたためウキウキしながら出掛けた。
この時の私は知りもしなかった。まさかあんな事になろうとは…。
親友の家であるプルメリア家に無事に着き、いつもの中庭に向かったら、何故だかシャーロットの隣に彼女の弟であるルイもいたのである。
彼は何かにつけて突っかかって来るため、非常に面倒臭い存在だ。あまり関わりたくないと言ってもいい。
前にも、わざわざ玄関で待ち構えていて「帰れ、ブス」などの暴言を吐かれたことがある。あ、別にブスとか言われても傷付きはしない。事実だし。
因みに彼はシャーロットに頭を思いっきり扇子で叩かれ使用人に連行されて行った。
シャーロットの顔に青筋がたっていたので、後にこっぴどく怒られたことだろう。ざまぁみろ。
まぁ、会うといつもこんな感じなのだが、今日は大人しすぎて怖い。まだ、一度も暴言やらを吐かれてないとかほんと怖い。
いや、別に吐かれたいわけではないが。
私たちがドレスがどうだの他人の恋愛話なので盛り上がっている時でも、終始静かだ。怖い。
それにいて楽しいのか?とも思う。
初めのうちは、気になりすぎてチラチラ見ていたが、睨まれたので気にすることをやめた。気にするだけ無駄である。
下手に突っ込んで、何か言われたら面倒臭すぎるので、黙っておくのが吉だ。
流石にルイがいる前で、あまり婚約者の愚痴を言うのもどうかと思ったのでやめておいた。その分、ほかの話が出来たので、まあ結果的には良かった。
なんでも、シャーロットがこの後、王宮に行く用事があると言うので、今日は早めのお開きとなった。
シャーロットは何を隠そう王子の婚約者だ。
プルメリア家は、古くから続く由緒正しい公爵家なので、王子の婚約者になるのも頷ける。たかが、伯爵令嬢でしかない私とは大違いだ。
剣を使い、婚約者に勝負を挑むような女だが、私はこれでも伯爵令嬢なのである。
我が家、カリステプス家は、騎士の一家であり果ては使用人までもが戦えるというちょっと変わった家だ。
そんな家で育ちながらも、婚約者には一度も勝ててないし、兄たちにはボロボロに負けているので私の腕前はまだまだである。
そう言えば、今日は2番目の兄が王宮の隣にある騎士の訓練所で稽古をやっている日だったな。
久しぶりに手合わせしてもらうのもいいかも知れない。
どうせ家に帰ってもすることないし、いい運動になるしな。
「ねぇ、シャーロット。私も一緒に行ってもいいかな?」
「私は構わないけれど。いいの?王宮には彼がいるわよ?」
シャーロットはちょっと驚いた顔でそう言った。
まぁ、私から彼が王宮いる日に行きたいなんて言ったことないしな。
「会わなきゃ、大丈夫でしょ。」
私はこの時そう楽観視していた。世の中そんなに甘くないと言うのに。
王宮は、縁がないはずなのに婚約者の関係で、王子から呼び出しを食らうため行き慣れていたりする。
そんな理由で行き慣れていると思うとちょっと悲しくなるが、一度無視したら偉めに会ったので素直に応じるようにしている。
シャーロットと楽しくお喋りしていたら王宮なんてあっという間に着いてしまった。
いつもは嫌々行くため長く感じられるから余計にそう思うのかも知れない。
馬車から降りようと思ったら目の前にルイの手が伸びてきたので驚いた。
そうそう、何故だか全くもって不明なのだがルイも着いてきたのである。
しばらく唖然と手と顔を交互に見ていたら睨まれた。
「手を貸してくれるのですって。珍しい事もあるのね〜。」
先に降りたシャーロットがクスクス笑っていた。
ああ、これ手を貸そうとしてくれたのか。意味がわからなすぎてその考えには至らなかったし、思い付きもしなかった。
思わぬ優しさにちょっと嬉しくなってしまった。
まるで全然懐かなかった犬が撫でさせてくれたような気持ちだ。
「ありがとう。」
笑顔でお礼を言ったら、赤い顔をしてそっぽを向かれた。
具合でも悪いのだろうか?
シャーロットとは宮殿に入る所で別れ、私は騎士の訓練所へと向かう。
ルイはよく分からないがこちらについてきた。
騎士の訓練に興味でもあるのだろうか?
訓練所に近づくに連れて、剣と剣がぶつかり合う音や怒号なんかが聞こえてくる。
慣れ親しんでるというのもあってか、この音は好きだ。わくわくする。
ふと、前に見知った人を見つけた。
ふわふわと癖のある黒髪に、ルビーのような真っ赤な瞳を持つ、騎士団の服に身を包んだ彼は何を隠そう私の兄である。
我が家の次男であり、名はルフス。
兄弟の中でも1、2を争う脳筋であり、騎士団の第2隊隊長を務めている。
デスクワークが苦手であり逃げ出すことで有名だ。我が兄ながら本当に恥ずかしい。
毎回捕まえるために翻弄している副隊長には申し訳ない限りである。
「よう。今日はどうした?珍しいな。」
片手をあげながら人好きのする笑顔で近づいてきた兄はそう言った。
「ルーが今日、訓練する日だって言ってたから見に来たのよ。」
「そうか。まぁ、ゆっくり見学していけよ。…………アイツが来るまで……。」
最後にボソリと呟かれた言葉は聞き取れなかったが、どうせ大した事は言っていないだろう。
「ええ、そうさせてもらうわ。ありがとう。」
笑顔でルーと別れ、ウキウキしながら歩いていた私は気づきもしなかった。
憐れなものを見るような目で見られていたことに…。
訓練所に着いた、私たちは二階の観覧席へと向かう。
本当は訓練に参加したかったのだが、今日はドレスなのをすっかり忘れていた。ドレスで参加してもいいのだが、帰ったらきっと侍女にこっぴどく怒られるのでやめておく。
今日は、大人しく観覧席で見学しとくか。
観覧席は身分はきちんと証明出来さえすれば誰でも入る事が出来る。
そのため、お目当ての騎士などがいるご令嬢達がしょっちゅう入り浸っている事で有名だ。
今日も何組かそんなご令嬢達がいた。
それにしてもルイはなぜ着いてきたのか。
「ねぇ、ルイ。なんで一緒に来たの?」
振り返って、ルイに問えば睨まれた。
何も悪いことしてなくない?聞いただけだよ?
「別にお前には関係ないだろ。」
いや、そうだけどね。
ずっと無言で意味も分からずに着いてこられたら、ちょっと怖い訳ですよ。
え?怖くないですか?怖いですよね?
私に聞く権利くらいあると思うんですけど…。
「ソウデスネ。」
片言になってしまうのは仕方ないと思って欲しい。
いつからこんなに可愛くない奴になったのか…。
昔は素直で可愛かったのに。なんだか、涙が出そうだ。
ルイのことは気にしても仕方が無いので、訓練を見ることに集中した。
集中している私は気づかなかった。ルイが私のことを惚けるような顔で見つめていたなんて…。
「こちらにいらっしゃったんですね。お探ししましたよ。」
おそらく1時間くらい頃だろうか。
夢中で見ていたので正確な時間は分からないが、婚約者の使者がやってきた。
なぜ見つかったのか。恐ろしい。
本人が来ないということは忙しいか王子にでも足止めを食らっているのだろう。
いいぞ。王子!もっとやれ!
本当は死ぬほど行きたくはないのだが、逃げたら逃げたで多方面に多大なる迷惑がかかるのだ。
1度やった事があるのだが、王子や果ては騎士団まで出てきて散々な目にあった。
まぁ、今回は逃げるつもりは無いが。
だって使者さんの顔にありありと逃げないでくれって書いてある。
なんだかちょっと可哀想に思ってしまったのだ。
「俺も一緒にいく。」
ん?なんだって??
はっ!いけない。人前なのだから淑女の仮面を被らないと。
「私は構わないけれど…。」
ちらりと使者さんの方を見る。
彼は大変困った顔をしてらした。
なんか面倒事を増やしてすみません。私のせいじゃないです。
使者さんは、少し考えるような仕草をした末に。
「分かりました。ではご一緒にどうぞ。」
きっとここでグダグダやって遅くなる方が、怖いと思ったのだろう。
それにしてもルイと婚約者は死ぬほど仲が悪かったと思っていたのだが、違うのか?
会えば絶対喧嘩になるのに。
まぁ、その分、私が放置されて相手しなくても良くなるので有難いが。
使者さんの後に続いて廊下を歩いていた、その時だった。
「きゃッ!!」
悲鳴とともに私の身体はバランスを崩し、地面に突撃しようとしていた。
大方ドレスの裾でも踏んだか、何かに躓きでもしたのだろう。
てか、私女子みたいな声出せたんだ。そっちの方が驚きだわ。
衝撃と痛みに耐えるために目を瞑ったのだが、何時まで経っても衝撃と痛みはやってこなかった。
はて?と思い、目を開けるとルイの腕の中にいたのである。
抱きとめられていた。
「何やってるんだ。」
何が起こったのか全然分からずにただの呆然とルイの顔を眺める。
「何だよ。」
「あ、いえ。ごめんなさい。ありがとう。」
しどろもどろになってしまうのは許して欲しい。
だって助けられるとは思ってなかったんだもの。
ぶっきらぼうな優しさが嬉しくて、なんだか恥ずかしくてちょっと笑ってしまった。
案の定、ルイには不機嫌顔で睨まれたけど。
もう大丈夫だから離してもらおうと思ったその時だった。
バンッと荒々しい音を立てて近くの扉が開き、婚約者が出てきたのだ。
それから一瞬驚いたようなに目を見開き、無表情に戻った。
全く持って非常に不味い状態にある。
転んだがために私とルイは抱き合ってるように見える。
「何をしているのですか。」
地を這う様なドスの効いた声と同時に周りの気温が下がり出す。
周りにいた人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
それが賢明だろう。なんなら私だって逃げたい。
自分に殺気が向いていないのは分かるが、怖いものは怖い。
目の前には魔王だ。今の私の状態は蛇に睨まれた蛙。
魔王登場の驚きでルイにしがみついてしまったがために、更にお怒りの様子だ。
でも考えてみてくれ。いきなり魔王とエンカウントしたら誰だってこうなる。腰を抜かさなかっただけマシだ。
いつもは心の準備を整えてたから会うので衝撃が大きすぎたのだ。
そんな事よりも今が非常に不味いのは変わらない。
訳を話して、さっさとルイにも離してもらわねば。
こちらの命がやばい。
「あのね。転びそうになった所をルイに助けて貰ったのよ。ね。ルイ!もう大丈夫だから離してちょうだい。」
ルイの方を向いて、離してもらおうとぐいぐい押したのだが、全然駄目だった。
ビクリともしない。
何故だが、逆に拘束する力を強められてしまった。
いやほんと離して?状況見えてる?
「そうですか。取り敢えず、ルイ・プルメリア。ヴィオラを離しなさい。」
訳を知ったことによりちょっとだけ、魔王の雰囲気が和らいだ気がする。
ほんのちょっぴりだけだが。
「嫌だと言ったら?」
ルイは不敵に笑ってそう答えた。
いや、何、火に油を注いでるの?馬鹿なの?
彼は一瞬鬼のような形相でルイを睨み、静かに近づくと腕の中から私を奪い取った。
そのまま流れるように片腕に座らせる形で抱かれる。
いや、私はものでは無いのだが?
あと、頬にキスしてくるのやめろ。鬱陶しい。
奪われた側のルイはと言うと、何が起こったのか分からないような顔をしていた。
因みに冷静そうに見えるかもしれないが私にも何が起こったのかよく分からなかった。
気づいたらルイではなく婚約者の腕の中にいた。
そんなルイのことを婚約者は鼻で笑っていた。
「ヴィオラは僕のものです。残念でしたね。」
いや、お前のものになった覚えなどない。
後、鼻で笑うとか性格悪すぎだろ。
早く婚約破棄して他人になりたい。
「なっ!うるせぇ。この性悪腹黒野郎!!」
さっきの言葉でどうも我に返ったらしいルイはそう言って婚約者を睨んだ。
言われている婚約者はと言うと、何処吹く風である。
「そんな事、知っていますが。何か?それよりも貴方を呼んだ覚えはありませんよ。」
「邪魔するために来たんだよ。バーカ。」
「そうですか。でしたらもう用は済んだでしょう。お帰り下さい。」
「ああ、帰ってやるよ!ヴィオラと一緒にな!!」
「何を言うかと思えば。ヴィオラは僕の婚約者ですよ?僕と一緒に帰るに決まってるじゃないですか。あと、大事な婚約者の時間を邪魔するのはやめてください。」
「何だと!」
ギャーギャーといつもの如く言い争いをはじめてしまった。(主にギャーギャー騒いでるのはルイだが。)
全く。21歳の大人が15歳の子供と喧嘩なんて大人気なさすぎる。
こうなると2人は長い上に誰かが止めるまで止まらないのだが、私が仲裁役に入る気などさらさら無い。
ここは王宮。もう少しすれば騒ぎを聞きつけた王子が止めに来てくれるだろう。
あー、お腹すいたし眠いな。
どうも記憶がここからないあたり眠ってしまったようだ。
目が覚めたら夜で、帰りの馬車の中だった。
「目が覚めたのですね。送っていきますからまだ寝ていても大丈夫ですよ。」
記憶が途切れる前と変わらず私は婚約者の腕の中。
頭をぐりぐり擦り付けてくるのやめて欲しい。
目が覚めたばかりなのに気分は最悪だ。
ふと、前を見ると、げっそりとした顔の王子が婚約者に説教をしていた。
いや、説教というか半分愚痴だ。
お前のせいで婚約者との時間が減っただとか、要らぬ面倒事が増えただとか。
色々押し付けてる私が言うのも何だが、王子も苦労してるな…。
ちょっと可哀想になってきた。
それにしても説教されてるはずなのに1度たりとも王子の方見ないし話も聞いてないな。
お前のせいなんだから話ぐらい来てやれよと思ったが面倒なので黙っておく。
それにしてもいつになったらこの男との婚約は破棄できるのか。
私のハッピーライフはいつ訪れるのだろう…。
考えるのやめてもうひと眠りしよ。おやすみなさい。
ここまで読んでくださった方有難うございます。
この御時世ですので、皆様お身体にはお気をつけ下さい。
また、投稿した時はよろしくお願いします。