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閑話「セレアのお料理教室」前編

「僕は婚約破棄なんてしませんからね」一迅社様より発売中! よろしくお願いいたします!


「料理を習いたい……」

 シンと夜中の教会でひっそりと結婚式を挙げたばかりの十歳のセレアはそう思った。自分のためにここまでしてくれたシンのために、なにかできることはないかを子供ながらに考えた結果であった。

 ゲームでは乙女ゲームらしく、食べ物に関するイベントがけっこう出てくる。様々なお菓子、お弁当。どれもデートやピクニックのイベントに欠かせないものだった。また、それがチョロいことに攻略対象によく効くのだ。そうやってヒロインがイケメンたちの胃袋をつかんで友好度、好感度を上げるイベントをセレアはさんざん見ていた。悪役令嬢だって、料理ができるようになって悪いわけがない。


 まずそのことをセレア付きメイドのベルに相談してみたのだが、「お嬢様は料理の経験がありますか?」と聞かれ言葉に詰まった。

 幼少より公爵令嬢として蝶よ花よとわがままいっぱいに育てられた、記憶を取り戻す前のセレアはもちろん料理などに全く興味はなく、また、令嬢として必要な教養でもなかったので誰も教えてくれたりはしなかった。せいぜい紅茶を入れる作法程度で、入退院を繰り返していた前世のセレアも、料理をしたことは全くなかったのである。


 セレアの父、ハースト・コレット公爵は現在領地に戻って不在であり、今この王都にある別邸の当主はコレット家長男のセレアの兄、セルヴィスが務めている。そのことを兄に相談してみると、意外にも賛成してくれた。

「セレアは亡くなったお母様のことをほとんど覚えていないだろう……。お母様はお菓子を作ったり、特別な日には家族の料理を作ってくれたり、料理をするのが好きだったよ。なにより家族がそれを喜んで食べるのを嬉しそうに見ていたのを覚えている」

 そう懐かしそうに話すセルヴィスがセレアはちょっと羨ましかった。セレアが知るこの世界の母の記憶は壁に掛けられた肖像画だけだった。

「貴族には料理をするのは召使に任せるものと考える人は多いが、お母様はそのようなこと気にするお方ではなかった。セレアが料理ができるようになれば亡くなったお母様も喜んでくれると思う。屋敷の料理長に頼んでおこう。楽しみにしているよ。なにかできたらぜひ私に食べさせてもらいたいよ。王子様なんかより先にね!」

 考えてみればもっともなことである。自分が作った料理を食べさせるのは一国の王子。ヘタなものを出すわけにはいかない。そのチェックを事前に兄がやるということである。これは責任重大だ。


 翌日より屋敷の料理長に指導を受けることになったセレア、午前中に王宮で妃教育を受け、午後にも習い事をしと、忙しいながら今まで休み時間になっていた時間を削ってのレッスンである。もちろん作業の邪魔にならないように十歳のセレアに合わせたコック服とエプロン、髪をまとめるスカーフも装備である。

「お嬢様、真剣に料理のお勉強をしたいのですな? 自分で一から作れるようになりたいのですな?」

「はい!」

「わかりました。それならわたくしもその意気に応えたいと思います。料理、それは火を御すること。人間はこの世界の生物で、唯一火を通した物しか食べられない生き物です。火が使えるようになってこそ、人間であり、人間の料理なのです。まずはかまどで火を起こすところから始めましょう」

「が……ガスコンロは?」

「何を言っておられます。ではまず火起こしからですぞ」


 そうだった。この世界では前世の知識などまったく役に立たないことのほうが多いのだ。この世界にはマッチもライターも、ガスコンロも存在しないのであった。

「よろしいですか? まずこのようにかまどに細かく割った(まき)(しば)火口(ほくち)を積みます。そしてこの火打石で着火です。さあ、火打石を使ってみてください」

 かち、かち、かち。火打石と鉄片を打ち合わせると火花が出た。

「うわあ、銭形平次のおかみさんみたい」

「……誰ですそれ。まだまだ火花が小さいですぞ! さあ、がっつり大きな火花が飛ぶまで、今日はその練習です!」

 夕食の準備でそろそろ忙しくなり始めた厨房の隅っこで、かち、かち、かちと火打石で火花を作る練習をするセレア、前途多難である。

「そろそろ火を起こさねば夕食に間に合いません、ではお嬢様、火口に点火をお願いします」

 十数回、セレアがかまどの前で火打石を打ち合わせると、火口に火花が飛んで、小さな炎が燃え上がった。

「さあ、それを消さないように、小枝にうまく炎を移して!」

 燃え上がった火口を小枝に……。小枝に……。火口に上がった小さな炎は、小枝に燃え移ることなく消えてしまった。がっかりのセレアである。

「はっはっは。いきなり上手にはいきませんな! 夕食を遅らせるわけにはいきませんので、私がやって見せますからよく見ていてくださいよ」

 料理長がちゃっちゃと火打石を打って、火口の炎を手慣れた様子で小枝に移し、たちまち燃え上がる薪のかけらに、これができるようにならなければ、この世界では料理ができるようにならないんだと改めてその大変さを感じる。


「炎は一つではありませんよ。このように薪が燃え上がっている状態から、やがて薪は炭になり、()きになります。鍋を煮てスープを作る、肉を焼く、炙る、とろ火で仕上げる、使う炎はすべて異なります。これを料理の手順を考えながら、すべて残らず使うのです。それこそが料理において火を御することであり、これができるようになってこそ料理人たるものなのです」

「む、難しそう……」

「世のご婦人はみんなこれを当たり前のように毎日三食やっているのですぞ。一人の例外もございません。貴族といえども料理を志す者なればやることは同じでございます。さ、今日はこの後は我々料理人がどのように火を使いこなすのかをじっくりご観察くださいませ」


 一週間後、火を起こせるようになったセレアの次の課題は、フライパンである。

「さあ、次はプレーンオムレツですぞ」

「……卵焼き?」

「卵焼きにはすべての料理の基礎が詰まっております。強火で、焦げ付きやすい卵を素早くむらなく焼き上げる。コックというものはこの修行だけで何年もかかるのです。お嬢様にはそこまで求めませぬが、まずこれで失敗を重ねてもらって、フライパンの基礎を学んでいただきます」

「……失敗すること前提なんですね」

「最初からこれをうまくできる者などおりません。さ、やっていただきますぞ」

 フライパンにバターを溶かし、回し入れ、解いた卵を入れてヘラで整え、やって見せてくれて、黄色い見事な形の、プレーンオムレツを作ってくれる。一瞬の休みもなく動かし続けるその繊細な手の動きはまさに芸術。一流のコックにかかればただの卵焼きも十分、御馳走になり得るのだ。


 さっそくやってみるセレアであるが、「お嬢様、時間切れでございます。さ、かき混ぜてしまってください!」と、仕上げの放棄を申し付けられてしまった。セレアが初めて作った料理は……、結局焦げ付いたスクランブルエッグであった。

「卵焼きに失敗してスクランブルエッグにしてしまうのは、まあ一つの手です。なぜ中断させたか、お気づきになりましたか?」

「……半熟になってないから?」

「そうです。外側は綺麗に焼けて、中身はふわふわのとろとろ、それがオムレツです。火が通って焼けてしまっては遅いのです。手際、手際こそがプレーンオムレツの神髄です。できるようになるまでやってもらいますぞ」

「すぐ焦げ付いちゃう!」

「焦げ付かないフライパンなどありません!」

 当然フライパンは全部鉄製であり、セレアの記憶の彼方にある焦げ付かないテフロンのフライパンなど、この世界にはないのであった。


 初めてセレアが作った料理、スクランブルエッグが夕食の食卓に並ぶと、兄のセルヴィスは爆笑した。いかにも子供がオムレツに失敗しスクランブルエッグにしてごまかしたのがバレバレである。

「塩がちと多い。コショウはこれでいい。焼き過ぎでカチカチだ。焦げ目があってはダメだねえ」


 それでも嬉しそうに全部食べてくれるセルヴィス。将来王子に出すのだから、妥協やお世辞は許されない。そのためにあえて苦言を言って憎まれ役を買って出ているのがセレアにもわかる。妹を想ってくれる兄のためにも頑張らなければとセレアは改善点を考えた。

「……全部ヘラでやるってのがだいたい無理。もっと細やかな仕事ができるようにならなくちゃ。菜箸があったらなあ……」

 前世で母親がいつも菜箸で料理をしていたのをセレアは覚えている。日本人としての記憶である。

「菜箸ぐらい作れそう。庭師のエドワードに相談してみよう」

 箸とはいっても木の木っ端で作れるはずである。竹があれば言うことないが。


「あの、エドワード、竹ってありますか?」

「ど、ど、どうしたんですお嬢様、いきなり」

 急に呼ばれた中年男の庭師、エドワードは恐縮しきりだ。そもそもお嬢様に声をかけてもらったことなどこの屋敷に雇われてから一度もなかった。庭師というのは、いつもいないものとして扱われるのが当然だった。

「で、竹?」

「竹。これぐらいの長さで」

「ふむふむ」

「細さはこれぐらいで」

「ほうほう」

「で、二本ほしいんです」

「なんに使うんで?」

「料理に」


 最初にエドワードが竹を削って作ってくれたのは細すぎた。どうやらバーベキューで串焼きに使う串と勘違いしたようである。

「串に使うんじゃなくて、箸に使いたいんです」

「ハシってなんです?」

 そうか、この世界箸がないのかとセレアは思った。言われてみないと気が付かないものである。セレアに見てもらいながらエドワードが削りあげた竹は、十歳の子供が使うのにちょうどよい長さと太さに仕上がった。



 夜寝る前に、前世を思い出して菜箸を使う練習をし、翌日の卵焼きのレッスンにそれを持ち込んだ。

「お嬢様、それは何です?」

「菜箸です。外国の調理器具なんですよ」

「……サイバシとな」

 これには料理長も驚きだ。

 卵を割ってボウルに入れ、それをかき混ぜる。以前は泡だて器を使っていたが、手早くやらないと卵に空気が混じってしまう。空気が混じらないように箸で切るように卵を溶く。次に熱したフライパンに箸でバターをつまみ入れる。以前はバターナイフに持ち替えていたからひと手間減ったわけだ。そしてバターが溶けて、焼けて変色してしまわないうちに素早く卵を流し入れ、半熟のうちに菜箸で形を整え折り畳んで、ひっくり返したりして、フライパンのカーブに沿ってとんとんとんとフライパンを揺らして、うまく形を整え、焼き色がつかないうちに皿に盛る。もちろんヘラに持ち替えるひと手間が減っている。


「お見事です! 素晴らしい! よくできましたお嬢様! そのサイバシの使い方がまた良い。お嬢様、いつの間にそのようなものを……」

「外国の絵本で見たことがありまして……」

 この世界に日本や中国があるのかは知らない。だがこの世界にだってこれと似たものはどこかにあるだろうと思ってごまかした。

 料理長もセレアから菜箸を借りて使ってみたが、初見でもちろんうまく使えるわけがない。

「……いや、これは驚くべきものですな。私も使えるようになりたいものです。すさまじい器用さが必要かもしれませんが」


 その夕食に並んだオムレツを見て兄のセルヴィスは驚いた。

「いやあ……毎日少しずつ上手になっているとは思ったが、急に腕前が上がったね。コツをつかんだかな?」

「はい、お兄様!」

 セルヴィスが認めてくれてセレアは嬉しそうに返事をした。

「ではオムレツはご卒業ということでよろしいですかな?」

 夕食に立ち会った料理長が当主のセルヴィスに問う。

「ああ、これなら殿下にお出しして恥ずかしいこともないだろう。次を楽しみにしているよ」

「ではオムレツご卒業記念にこれをお嬢様に差し上げます」

 そう言って料理長がセレアに渡したのは、黒光りする小さな古いフライパンだった。

「おいおい、セレアにあげるにしてはずいぶん古いフライパンではないか?」

 こういうのは普通新品だろうとセルヴィスは思った。

「いいえ、お兄様。鉄のフライパンは育てる物。長い時間をかけて鉄の表面を焦がし、油をなじませることで、焦げ付きにくく、錆びないフライパンになるのです。料理長が育てたこのフライパン、新品のフライパンの何倍もの価値があります!」

「そ、そうなのか?」

「それをお分かりになるとは! さすがはお嬢様でございます!」

 料理長が感激のあまりむせび泣く。

「お嬢様には料理の才能がございます! 何より理解が早く、舌が確かです。これは良い料理人になりますぞ!」

「いや、公爵令嬢に料理の才能なんて求められていないんだけど……」

 セルヴィスは料理長がやり過ぎたことにならないか、心配になった。



「次は肉でございます」

「肉……」

「貴族の料理、それはなんといっても肉でございます。そして、肉はただ焼けばよいというものではございません。これをしっかり身に着けてもらいます」

「いや、いきなり肉はちょっと……。まずは野菜とかお菓子とか」

「まず、わが厨房の(むろ)にご案内いたします」

 薄暗く肌寒い地下の室に、解体したばかりの牛や豚の肉が吊り下げられている光景にセレアは恐怖の声を上げそうになった。

「肉というものはこのように、家畜を殺し、その命をいただいているのです。たまには旦那様や若様が猟をなされて、シカやウサギ、鳥なども扱います。いつもおいしくいただいているお肉料理。それはこのように生きとし生けるものの命を奪って人間が糧としていること、お忘れなきように願います」

「……はい」

「さて、実は殺して解体した肉はすぐには食べられません」

「そうなんですか?」

「新鮮な肉は、煮ても焼いても固くぱさぱさになるばかりで味がしないのです。このように冷暗所にて数日熟成させることで、味の良い柔らかなお肉に変わります」

「腐っちゃうんじゃないですか?」

「もちろん腐りますぞ。北方の国のように凍った冷蔵所などありませんからな。でもそれは表面だけです。このようにすでに肉の表面が黒ずんでおりますな。これから腐るというぎりぎりの所です。こういう肉が食べごろなのです」

「うう……、お腹壊しそう」

「そこで、掃除(そうじょ)が必要なのです。では、参りましょう」

 大きな牛の骨付きのもも肉を持って、料理長が厨房に戻るのをセレアもついてく。

「それでは、この肉のかたまりから、食べられる部分を切り出します。表面の黒ずんだ肉をそぎ落として、赤身だけにいたします。食べられるところだけを切り分ける。これを掃除といいます」

「そぎ落とした肉は捨てちゃうの?」

「旦那様の猟犬のご飯になります」

「そんなの食べさせられて、なんだかかわいそう」

「犬たちには立派なごちそうですよ。さ、やってみましょう」


 セレアにも使えるように短めの牛刀を持たされて、セレアが肉のそぎ落としにかかる。冷蔵庫があれば、こんな作業は必要ないかもしれないのに……、と前世の記憶が思い出される。

「肉の塊は、数本の筋肉に分かれております。これはかたまりごとに引き剥がすことができます。ナイフの先端を当てて肉ごとに分けてください」

「は……はい」

「筋肉の表面には薄くて白い皮があります。これもできるだけ薄くそぎ落とします」

「はい……」

「初めてにしてはなかなかお上手です、お嬢様」

「はい……」

 今まで肉は肉だけとしか認識していなかったセレアにとって、これは生きていた動物の死体なんだと、当たり前のことに気づかされてからのこの作業は正直言って苦痛であった。

「肉料理の王様はなんといってもステーキです。ステーキこそ、肉本来の味を十二分に楽しめる肉料理の王道です。そしてステーキをおいしく焼き上げることが料理人の最も大切な仕事なのです!」

 肉ばかり食べて野菜を取らずにビタミン不足で早死にする貴族もいるというのに、この料理長も悪い意味で頑固である。


「庶民では肉は貴重です。切り刻んで煮たり焼いたり致しますが、このように大きなかたまり肉でステーキにするのは貴族階級だけに許された贅沢でありますな。いつもはロースですが、今日は掃除の練習がありましたのでこのもも肉を使いましょう」

 実はセレアはステーキは好きではない。十歳の子供舌ということもあるだろうが、いわゆる「血の滴るレアステーキ」というやつが食べられなくて泣いたことがある。父や兄から溺愛されていたセレアは、「セレアにはまだ早かったか」とそれ以来ステーキを出されたことがなかった。

 前世の記憶を思い出してからというもの、生焼け状態のレアというやつにセレアは納得がいかなかった。今でも変わらず苦手なのだ。

 そんなことにはおかまいなしに、「これは料理のレッスンですからな、セレア様も十一歳になられたことですし、そろそろ料理の王道に触れてもらわねば」と、料理長が熱したフライパンでステーキを焼き始める。


 強火で表面を焼き、焼き色がついたところでひっくり返し……。


「さ、ではご試食願います」

 出されたそれは、子供のころに泣いて嫌がった「血の滴るステーキ」そのものであった。子供のころは血だと思っていたのは実は肉汁なのだが、ナイフで切ると表面だけが焼けていて、中の肉は赤く生のまま、冷たいまま。

「柔らかくて最高の状態ですぞ。さ、冷めないうちに塩とコショウでお召し上がりください」

 ……柔らかい。柔らかいのだが、くっちゃくっちゃと噛み切れず、セレアには全くおいしく思えない。前世で食べた焼き肉のほうが断然おいしく思い出される。口の中にあふれる生臭さに吐きそうになった。なぜこれをおいしいと思えるのか?

 この世界の人たちは味覚になにか重大な欠陥、あるいは(くつがえ)せない思い込みがあるのではないかとセレアは思う。


 王宮でのお妃教育の後の午後のお茶、セレアは思い切ってそのことを婚約者である第一王子のシンに聞いてみた。

「王宮でステーキはウェルでしか出てこないよ」

 シンはあっさりとレアステーキを否定する。

「生肉はおなかを壊す人もいる。肉は火が通ってないと危険もあるんだ。だから万一のことも無いように王族が食べられるのはちゃんと火が通った肉だけ。ウェルダンほど固く焼くわけでもなく、ミディアムほど赤みが残るわけでもなく、その中間のウェル。だから僕はレアステーキを食べたことがめったにない」

「食べないほうがいいです。あんなもの料理とは言えないと思います」

「言うねえセレアも……。それも前世の記憶ってやつ?」


 日本のようなアジア圏では焼き肉といえば薄切り肉である。肉は切り分ける前はかたまりなのだから、そのままステーキにして焼く発想がなかったはずはない。ではなぜわざわざ細切れ、薄切りにして焼いて食べるのか? そのほうがおいしいと、東洋の人は全員そう考えたということになる。


 箸か? 

 東洋には箸があった。だから箸でつまめる大きさに肉を切って、箸でつまんで焼いて、箸で焼き立てをそのまま口に運ぶ。西洋には箸がないから、フォークで刺して口に運べるだけの肉の厚みが必要で、それがそのままステーキ信仰になっているのではないか?

 それにステーキでは火を囲んで焼き立てを食べるわけにはいかない。料理が冷めないうちに厨房から食卓に運ぶために、あの厚さが必要なのでは?


 うーんと考え込んでいると、「セレアが肉の焼き方にこだわるとはねえ。おいしい肉の食べ方を研究中?」とシンが笑う。

「そうじゃないんです。ステーキが好きになれないだけで……」

 食い意地が張った女の子みたいに思われるのはいくら何でも恥ずかしい。セレアはあわてて否定する。


「城下でデートしていて、いつもセレアに毒見してもらってから渡してもらってるでしょ。僕はセレアがおいしいって言ったものが不味かったことがないよ。僕はセレアの味覚を誰よりも信用してるね」

 なんかすごく嬉しいことをシンが言ってくれて、セレアはちょっと赤くなる。

「もしかして、そのうち、セレアが焼いた肉を食べさせてもらえるとか、あるのかなあ!」

「いやそれは……。お約束できませんが」

 王子様になにか作ってあげようというセレアの作戦はまだ秘密であった。



 後半へ続く!


メイドのベルさん。

作者の作画指定はこんなんでした。

挿絵(By みてみん)

プロのイラストレーターさんはすごいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽い感じのお料理教室を想像していたら、なんと薪焚き!。 良い意味で、期待を裏切られました。 オチで、シン君のあれが分かって。 ちょい笑わされました。 [気になる点] 『冷蔵技術がない』…
[良い点] 凄い……これが、料理……凄いです、料理頑張りたくなりました! 料理、頑張ります!(キラキラ)
[良い点] 火打ち石、私は某暴れん坊な将軍のめ組の女将(初代)を思い出した。
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