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66.二年生の学園祭


 さあ、いよいよ学園祭です!

「……問題はコレだね」

「そうですね……」

 二人で生徒会で作成した学園祭のパンフレットを見て検討します。

 ミス学園コンテスト、ミスコンがあるんですよ。それだけじゃなくて、ミスターコンテストも。バカ担当ピカールにライバル宣言された例のやつです。

 これ、去年もあったイベントですが、ヒロインが自分磨きをやりつつ、攻略対象を真面目に攻略していれば、ヒロインがミス学園に選ばれ、一番好感度の高いキャラがミスター学園に選ばれてベストカップルになるんだそうです。

 ミスとミスターに選ばれると、会場の舞台の上で、一緒にダンスを踊ることになるんですよね。去年は生徒会長、エレーナ・ストラーディス様と、シンデレラの王子様役をやった演劇部の部長でした。つまり当時まだ一年生だったヒロインさんは知名度で及ばなかった、ということになります。

 僕は……学園に入学してから、ヒロインさんとほとんど接点がありませんで、っていうかできるだけ避けてましたから、僕がミスターになることは無いと思うんですが。それに生徒による学園内の投票ですしね、いくら強制力があったとしても、学園全体には及ばないでしょう。

まあ、万一のことも考えておかなきゃいけないってことですね……。


 現在もヒロインさんは演劇部に入っていて、今年はその学園祭でやる演劇発表で、ヒロインをやるそうです。去年のシンデレラに続き、二年連続でね! 凄いなおい!

 これがなかなか曲者です。ヒロインに学園中の注目が集まりますから、ミス学園で優勝、あり得ると思います。


「まあこれ以上は僕らにできることは何もないよ。出たとこ勝負さ。とにかく学園祭の間は僕らはできるだけ離れないで、一緒にいよう」

「はい!」

 セレアうれしそうです。作戦がどうこう以前に、やっぱり僕ら一緒にいられるのが一番うれしいですからね。


 さて僕らのクラスの出し物ですが、去年に引き続き、もちろん執事、メイド喫茶です。好評でしたもんね。

「僕にも料理やらせてよ――――!」

「うるせえ! 王子様の料理なんてとんでもねえアレな奴が出てくるって相場が決まってるわ! 引っ込んでろ!」

 料理長のジャックに怒られます。ねえその偏見はどこから生まれるの?

「僕だって夏休みの間、修行したんだからね?」

 三週間レストランでアルバイトして、プロのコックから指導を受けましたからね? パイは無理でも、ハンバーグは売り物にしていいレベルになりましたよ?

「何の修行だよ……。うちの一番の売りはな、お前が執事をやるってことなんだからさ、客の期待を裏切んなよ」

「そうですよ――――!!」

「シン君がやってくれないと肝心の執事喫茶が……」

 はいはい。執事喫茶プロデューサー、パトリシアはじめ女子生徒たちにも怒られました。

 生徒会長の僕はその仕事が忙しいってことで、出番は三時間ほどにしてもらいました。そのかわり後半の執事をしてくれるのはジャックです。ジャック、攻略対象になるだけあって、そりゃあもうイケメンですからね。いつもシルファさんと仲がいいので露骨にモーションかけてくる女生徒はあまりいませんが、そのジャックが執事をやるとなりゃあ、これはチャンスだと寄ってくる女性客が期待できるってもんです。もちろん、セレアのメイドさんも人気ですし。

 さ、執事・メイド喫茶、オープンです!


「あ――――! シンくうぅううんん!」

「……お帰りなさいませ、お嬢様」

 来ると思った、ヒロインさん。

 去年は劇に集中していたのか、来ませんでしたが、今年はしっかり現れました。

 すんごい衣装です……。踊り子役だったっけ? 胸元ぱっくり、体にぴったりしたプロポーション丸出しの薄い生地に、へそ出し、股間ギリギリのフリルスカートにあらわな太もも。要するにバレリーナを可能な限りエロくしたという感じの衣装です。

 喫茶店に来ていた男子生徒から「おおおおっ」と歓声が上がり、女子生徒からは殺意丸出しの鋭い刺さるような目線が投げかけられます。

「ここでシン君を下僕として使役できると聞いて」

「誤解ですお嬢様。下僕ではありません、執事でございます。お嬢様らしく節度を持って命じていただきたいですな」

「私の家なんて貧乏男爵なんだから、執事なんていないしい。すっごい楽しみ!」

 そうですかね。フライドチキンの支店を他領にも出店させ、コンビニも今は24時間営業を始めてライバル不在状態と聞いておりますが? 大変儲かっていると評判ですよ?

「だったらこの店には来ないほうがいいかもしれません。執事に対する誤解が深まります。わたくしのような執事は現実には存在いたしませんので」

 パトリシアのプロデュースする執事喫茶なんかおかしいですから。まさに下僕喫茶です。


「席に案内して」

「ただいま満席でございます。日を改めてご来店下さい」

 店内の半数以上を占める女生徒たちの視線が凄いです。死んでも席を譲るものかという団結力が見て取れます。がしっとテーブルを掴むお嬢様までいらっしゃいます。

「今日しかやってないのにいいいいい!」

「では午後にでも」

「午後は私舞台があるし!」

「それはお気の毒です。いかんともしがたいですな」


 カツカツカツと店内に進むヒロインさん、四人テーブルを三人で座っている男子生徒の一団にあのかわいらしい笑顔で話しかけます。

「あの、相席してもいいですか!?」

「え、あ、どうぞどうぞ!」

 男子生徒、大喜びで迎え入れます。ぱっくり開いた胸元に釘付けですか。しょうがないなあ……。

 メイド服のセレアがテーブルに向かい、メニューを広げます。

「お帰りなさいませお嬢様。ごきげんよろしゅう。今日はなににいたしましょうか?」

「えええ? シン君じゃないのお!?」

「殿方のテーブル席はわたくしが担当しておりますわ。なんなりとお申し付けくださいませ」

 そう言ってスカートをつまみ上げ、足を後ろに引いて優雅に最上級のお辞儀をします。

 これまた男子生徒がくらくらしちゃうような素敵な笑顔です。すわ女の戦い勃発かと僕も手に汗握りますよ。テーブル席の男子生徒、ぽわわんとしちゃってますけど。さながら愛らしさのヒロインVS気品のセレアといったところでしょうか。

「……この、『シェフの気まぐれカルボナーラ』で」

「いけませんわお嬢様。これから舞台本番でしょう? もっと軽めの食事をお勧めいたしますわ」

「私はガッチリ食べないと力が出ないタイプなの!」

 ……さすがはフライドチキン店の娘ですな。胃袋が頑丈です。


「差し出がましいことを申し上げて申し訳ありませんでした。ではそのようにいたします。只今ご用意いたします」

 窓の外の厨房ではジャックが白いコック服を着て、スパゲティを次々とフライパンでクリームとチーズにからめています。スパゲティが宙に浮くたびに女生徒たちから歓声が上がるんですよね。なんなんですかね。

「シ――――ン! 食べさせてえ!」

 別のテーブル席から女性客のリクエストですね。今年もあーんサービスは継続ですか……。おかしな前例作ってくれやがった絶対女王、エレーナ・ストラーディス様(旧姓)に恨みごとです。

 実は僕、孤児院で、幼児相手にこれをさんざんやってますから上手なんですよね。少しもこぼさずにお口の中に食事を運ぶことができますよ。

「あーんでございますお嬢様」

「あうぅぅうう……」

 その様子をピンク頭にうらやましそうに見られているような気がしますが無視します。殿方席に割り込んだアンタが悪い。


「ちょ、ちょっと、なによ!」

前掛け(エプロン)でございますお嬢様。舞台本番を前に大切な衣装にシミでも付けてしまっては大変ですから」

 セレアがヒロインさんの首にエプロンを巻きますね。なんかパーティーだったか何だったかで、悪役令嬢がヒロインさんに料理をぶっかけてドレスを汚すってイヤガラセイベントがあるそうで、それの再現を狙ってきたようですが、そうはさせないセレア、さすがです。

 なるほど、セレアに何かミスさせて、自分の衣装を汚されて、いじめられたあって泣く予定だったのかもしれないなあ。捨て身ですねえヒロインさん。でもこの後の舞台どうすんの? 衣装、替えあるの?

 周りの女子の皆さんに、子供みたいに前掛けをされたヒロインさんが小さく笑われました。なんかざまあかな。


「では、何かありましたらお呼びください」

 これはもう出されたものを素直に食べるしか無いでしょうねヒロインさんも。イベント回避です。ジャックの手料理、ありがたく食ってください。


「せ、セレアさん」

「セレアとお呼びくださいご主人様」

 男子生徒が僕をチラチラ見ながら、恐る恐る、リクエストしております。

「セレア、僕にも食べさせて」

「はい、あーんでございますわご主人様」

 男子生徒、てれってれでセレアに食べさせてもらっております。

 ……ほんと、なんでもやるなあ君。頼もしいよ。



 去年よりちょっと早めに切り上げ。セレアと一緒にジャックのまかないスパゲティを急いで平らげます。

「後半頼むよ!」

「なんかイヤなんだけどなあ……。アレを俺にもやれって言うの?」

 ジャックが執事服に着替えてきました。ジャックにあーんは無理ですか。

 執事喫茶プロデューサー、パトリシアから接客指導がはいります。

「ジャック君はジャック君のやりたいようにやればいいの! 素で接客していいですからね!」

「なんなのその差。僕の時と違うじゃない」

「ツンデレ執事にも一定数萌えるお客様もいらっしゃいますので!」

「……ジャックにはツンしかないでしょ。デレが無いよ……」

「わかってないなあシン君は……。ドS執事でもいいんですよそこは」

 ごめんパトリシア、わかんなくていいよそんなもの。

 それよりも僕は、君が用意した衣装を着たシルファさんの巨乳メイドのほうが、「いいのかそれ?」って感じしますけど。胸の所だけやけにふわっふわの軟らかな布で覆われていて、上下左右に揺れるんですけど……。


「GJだパティ」

 いや、ジャックが親指立てて笑うんだったら別にいいや。



 その後、各クラスや各部の出し物を見て回ります。

 例によって、クラスの宣伝を兼ね、僕は執事服、セレアはメイド服です。どこに行っても注目されまくり。もう学園祭の風物詩ですか……。

 僕らが使用人の服着てるって、ギャップが凄いですよ。学園祭でないともう絶対に見られません。ぜひご来店ください。


 美術部、似顔絵を描いてくれるようです。

「ぜ、ぜ、ぜ、ぜひモデルになってください!」と鼻息荒く頼まれます。

「じゃあ十五分だけ」

 僕とセレアでダンスのポーズで組んでやらされました。他のお客様そっちのけで美術部員が全員スケッチします。それ似顔絵じゃないよねもう。写生会だよね。


 僕らのクラスのマネをして、他のクラスでも出し物をやるようになりましたが、焼き鳥、チキンバーガー、フライドチキンの店です。丸かぶりじゃないですか。だから生徒会に申請しに来た時、別のものにしろって忠告したのに調整つきませんでしたか。あいたたたたたた……。

 フライドチキンの店はヒロインさんのクラスです。人気です。なんてったってお店のスタッフが来てやってくれてますからね。クラスメイトやることないじゃん……。

 少しぐらいマズくたって変だって素人臭くたってそれはいいんだよ。クラスメイト全員で団結して取り組むことに意味があるんだからさ。そういうことするから、嫌われるんだよ。わかってないなあヒロインさんは。来年からは業者出入り禁止にしましょう。


 音楽部は演劇の後に発表会をやります。演劇部のBGMも担当しますのでその時見ればいいや。


 やっぱり一番地味なのが文芸部。展示会場の図書室、閑散としておりました。

「もうちょっと人を呼べるようなものを考えたいね……」

「そうですね……」

 受付でぽつんと座ってるハーティス君、物悲しいです。




次回「67.オペラ座の貴公子」

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― 新着の感想 ―
文芸部って学園祭ではそう言うもんでしょう。 来場者が楽しむんじゃなくて、ギリギリまで、何だったら製本を前日夜中までかけたやるのが楽しいんですよ。(元文芸部
[一言] 文芸部は学祭どうしても地味になるからなあ。なので舞台で読み聞かせさせた(部長権限
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