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6.攻略本ができました


「その子がいじめられるたびに、僕が助けに登場するんだよね」

「シン様だけじゃありませんよ。攻略対象それぞれにイベントが用意されてて、発生条件もいろいろです」

 うん、その『攻略対象』って言い方好きになれませんけど、もういいです。

「具体的には助けなきゃいいわけか。事前に知っていればさけられそう」

「そこはゲームの強制力がありますから、わからないです」

「強制力って、そんなに強力かなあ?」

「現に私はシン様と婚約させられてしまいました。さけられませんでした」

 そういう言い方やめて。悲しくなります。

「そこは貴族に生まれた以上しょうがないとあきらめてください。自由に恋して結婚なんて平民だけに許されたぜいたくですよ。ゲームとは関係ありません」

「そうでした。失礼しました」

 ぺこり、彼女が頭を下げます。


「で、ヒロインにとってのベストエンドでは、僕に断罪された君は、爵位を失い、家からも追放されて一生修道院暮らし」

「はい」

「バッドエンドでは?」

「嫉妬に狂った私が彼女をナイフで殺そうとして、衛兵にその場で殺されます。ヒロインはその時の傷を理由に王子と結婚はできませんが」

「いやそれぐらい君が自分で回避できそう。斬らなきゃいいんだから」

「そのイベントが無いと、普通に王子未婚エンドになりますね。ビターエンドです。身分の差を乗り越えることができなかった二人は、生涯独身で過ごすんです」

「うわー悲しい。君は?」

「他国に嫁にやられてしまって、その国で革命が起きて断頭台」

「うわあ……。一切かかわらなかった場合は?」

「ヒロインが王子様に目もくれず他の攻略対象とくっついた場合はいろいろあるんですけど、それでもヒロインのいじめの首謀者としてやっぱり断罪されてしまいます。王子の婚約者としてふさわしくないってことで婚約破棄させられてしまい、王子様もすっかり私のことがきらいになってしまって、結局は追放されるか、自殺するかしてしまいます。心を病んで病気になって死ぬ場合も」

「最悪――――!」

 どう転んでも悲惨な結果しか無いんですね!

 悪役だからって、そんなエンディングしか用意されてないって、ひどいですね。


「ヒロインにはバッドエンド無いの!?」

「ヒロインが誰とも恋仲になれなかった場合、成績がよかった場合は王立学院に入って勉強を続け、後に学園の教師になります」

「普通の場合は?」

「在籍中得意にしていた科目やアルバイト先の職業につきますよ。料理が上手だったら料理店とか」

「悪かったら?」

「孤児院の世話係か、下級貴族の屋敷でメイドです。退学させられた時も同じです」

「そこそこ幸せだねえ……」

「まったくです。私もそっちのほうがやりたいぐらいです」

 いやそこはもうちょっと頑張って君は王妃をやろうよ。


「しかし君も十歳でよくそんなゲームやってたねえ」

「看護師さんにそういうのが大好きなお姉さんがいて、いつもそのゲームで一緒に遊んでくれてたんです。『このルートも面白いよ!』とか、『この人ともつきあってみて、意外な一面が見れてキュンキュンしちゃうわ!』とか教えてくれて。入院生活が長かったせいもあって、私、結局全ルートやっちゃいました」


 ……重い病気でいずれは亡くなってしまう十歳の女の子。恋も知らずに死んでしまうのはあまりにもかわいそうですもんね。そりゃあ、看護師さんも仕事抜きであれこれ世話してあげたくなるかもしれませんね……。


「……私、やっぱり、王子様の事、大好きでした」

「それって僕が学園に入学して十五歳になったときの話だよね」

「優しくて、紳士で、平民の私とも分け隔てなく接してくれて、頭がよくていつも成績トップで、剣も強くて、いつも私を助けてくれて……」

「なにその完璧超人」

「でも、ときおり見せる寂しそうなおすがたがせつなくて、私にだけ見せてくれる笑顔がすっごく優しくて」

「僕そんな人間にならないといけないんですか。プレッシャーです。なんで僕そんなにさびしそうなの」

「親に無理やり決められた婚約者がイヤで、キャーキャー寄ってくる女避けにはなるからって婚約者と形だけお付き合いはしてるんですけど、本当に誰かを好きになんてなったことがない、恋を知らない寂しい人なんです……」

「そこに付け込んでくるわけですなヒロインは」

「だいなしです王子様。私、ゲームではヒロインだったんですから」

 そう言って彼女がくすくす笑います。


 笑顔、初めて見たかもしれません。

 かわいいです。普通の女の子です。

 僕も一緒に笑います。


「本当のシン様って、全然違いますね。なんていうか、こう、カッコつけたところが全然なくて」

「僕のお嫁さんになる人に、カッコいい僕なんか好きになってもらったって全然うれしくないよ。僕は僕なんだからさ」

「シン様は、よくヒロインに『君は君なんだから』って言ってました」

「あーあーあー。言いそう。いや、たぶん僕それ言っちゃうと思う」

「……私、今のシン様の事、好きになれるかもしれません」

「嫌いだった!? 僕の事嫌いだったの!? この話だと、ゲームの中の君、僕にベタ惚れだったよね!?」

「そうじゃないんです。この世界で、自分がヒロインじゃないってわかって、破滅エンドしかない悪役令嬢の今はシン様が怖かった……」

「怖くないよー、君をそんな目にあわせたりしないよー。僕だってそうと知ったら、ヒロインのことなんか好きになるわけないよ。これからもなんでも教えてね」

「はい!」


「それでさ、あと、この攻略対象のルートのことなんだけどさ……」


 凄いです。ここまで設定できてると怖いぐらいです。

 一部をのぞき、どの子もどの人も僕が知ってる実在の人物です。

 彼女が知ってるはずがない人物についてまで詳細に。


 ほんのちょっとのことで、ストーリーがどんどん分岐するんですね。本を読んでいて、読者が主人公に「こうしろ」って言うと、主人公がそうすることによってストーリーがどんどん変わっていくって感じです。

 いやあ、しかしほとんど『予言の書』と言っていいものです。

 ホントだったらね。

 このゲーム考えた人はすごいです。彼女一人のもうそうで作られたものじゃ絶対にありません。異世界があるのか、ゲームの世界ってものがあるのか、そんなことはわかりません。でも、大いなる第三者の力は絶対、存在するってことになります。

 それが神様なのか天使なのかは知りませんけど、もし、この通りのことが起こったら、そのたびに僕は確信を深めていくことになります。


 さすがに日が傾いてきました。

 一日では全部まとめきれません。今日はこれぐらいにしておきましょうか。


「これからも思い出したことがあったらどんどん書き加えてね。僕はこっちの王子ルートだけ持って帰って見直して、気が付いたことはあとで聞くから」

「はい」

「また来るよ」

「お待ちしてます」

「近いうちにお(きさき)教育が始まるから、君も王宮に来てもらうことになるんで、その時にもまた会えるし」

「はい。楽しみです」

「楽しみなの? 僕、礼儀作法とか今でも面倒なんだけど」

「私は病弱で学校とかほとんど通えなくて、勉強ができませんでしたからうれしいです」

「公爵令嬢として習い事とか一通りしてるはずじゃ」

「それはそうなんですけど、そのころの私はお勉強がきらいでしたから」

 そっか。わがままでごうまんなお嬢様って話でしたけど、すっかりまじめでいいお嬢さんになった気がします。僕はこっちのほうがだんぜん好きですね。


「あと君は……」

「セレアって呼んでください」

「セレア」

 にっこりして、ぽっと赤くなるセレア嬢。かわいいです。


「セレアも、対抗策考えておいて。破滅を回避する方法ね」

「はい!」


 そして、彼女の前に片膝ついて手を取って、手にキスをして、立ち上がります。

 セレア、もう真っ赤です。

「さっきセレアは、僕が誰も好きになったことがない、恋を知らないさびしい男だって言ってたよね」

「……ごめんなさい」

「だったら、もう心配いらないよ。僕はもう恋を知らない男じゃないし、君がいてくれるからさびしくもない。僕は絶対にセレアのことを守ってみせる。じゃあ、またね」



 シュリーガン、どこ捜してもいませんで、お屋敷の方に聞いてみたら、厨房でメイドのベルさんと一緒にジャガイモの皮むいてました。

「帰るよ、シュリーガン」

「も、もうちょっと」

「しょうがないなあ。僕も手伝うよ」

 シュリーガンの隣に座って、僕もキッチンナイフを手にさっさとジャガイモの皮むきを手伝います。

「ありがとうございます殿下」

 つくづく凄いなこのメイド!

 普通止めるでしょ! 王子にそんなことやらせるなんてとんでもないとか言ってさっさとシュリーガン追い出すでしょこういう場合!

 読めないなあベルさんて……。


 てなわけで、僕もボウルいっぱいのジャガイモを二十個も皮むきしてから、お屋敷を失礼することになりました。

 執事さんに次の訪問のことを伝えておきます。

「今後はお出迎え、お見送りは結構です。もう僕この家の家族ですから、では失礼します」

「はい、あの、殿下……」

「なんでしょう」

「殿下に出逢われてから、お嬢様はすっかり変わられました。わがままが消え、私ども使用人のことも思いやってくださるようになり、とっても優しい子になりました。殿下のおかげです。使用人一同よりも、お礼を申し上げます」

 なんかうれしいですね。それ、僕の手柄じゃありませんけどね。




次回「7.初めての公務」

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― 新着の感想 ―
[一言] これは神作の予感
[一言] 人生のほぼ全てを病院で過ごした享年10歳の前世では知識チート出来ませんね。惜しい。
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