55.生徒総会
三学期の学園行事、年度末も近いので生徒総会が開催されます。
前二年開催されていませんでした。僕があれだけいろいろやらかしましたので、まあやらないわけにいかないでしょう。講堂で全校生徒を集めて、壇上には生徒会役員の皆様、学園の絶対女王、エレーナ・ストラーディス様がご君臨なさっておいでです。
で、やるのはまず会計の修正報告から。
過去三年分の、つまりエレーナ様が入学なさってからの三年分の修正報告ですよ。エレーナ様が生徒会長になったのは二年生の時。だったら二年分だけ修正報告すればよさそうなものですが、先輩の残した負の遺産でしょうか。使い込んだ雑費の分を全部無かったことにするためですね。
驚くべきことに雑費はゼロ。本来雑費に充てられていた使途不明金は、いつのまにか補填され、翌年の繰越金扱いです。
二年度前は金貨十五枚、昨年度が金貨三十二枚。いったい何に使っていたのやら。
もちろん今年度の雑費もゼロとなりますので、金貨五十三枚を生徒会役員のポケットマネーから、こっそり補填したことになります。ご愁傷様。
まあ、そこはもう突っ込むのはやめてあげましょう。そこまで会計さんが汗だらだらで早口で説明し、顧問の先生がにこやかに監査報告してこれを承認して、修正報告は終わりです。先生も立場弱かったんですねえ……。
まあ生徒の半分ぐらいは「そういうことか」と思ったかもしれません。でも絶対女王が会長ですから、わざわざ質問に立ってそれを追求する人もいませんか。
これでもう生徒会費を生徒会の優雅なお茶会に流用するなんて悪しき習慣は今後はもうないということで、会場の拍手でこれを承認します。
ま、もしこれが修正されることなく、知らん顔で通そうとしたならば、僕が遠慮なく追求したことになりますが。
その後は、一般会計報告です。
学園内には部活が演劇部、美術部、文芸部、音楽部、剣術部の五つしかなく、これらの部活が使う備品代などたかが知れている感じです。演劇部が一番予算を使っているんですよ。舞台の大道具、小道具とか衣装とか金がかかっていますから。
もう少し公平に生徒会予算が使われるようにしたいところです。
生徒会が一番お金を使うのは学園祭になります。演劇部にお金が使われているわけです。これはそもそも催し物をするクラスが少ないですので、公平にならないんですよね。僕らのクラスがやった執事・メイド喫茶、儲けがなくギリギリ赤字にならない程度でした。なので生徒会の予算は使っていません。
今年度の繰越金で予算に余裕がありますので、来年は全クラスで催し物ができるぐらい活発にしたいです。
すべての収支報告が終了し、活動報告がなされ、生徒の拍手によって承認され、これで生徒会長のお仕事は全部終了。来月には卒業なさるエレーナ様が、最後に壇上で、全校生徒に頭を下げ、拍手されて退任されました。よかったよかった。
「来年度の生徒会長ですが……」
慣例なら二年生の生徒会役員の中からエレーナ様が推薦なさると思いますが……。
「シン・ミッドランド君を推薦いたしますわ」
うおおおおお――――と会場が盛り上がります!
そうくるか……。ま、たぶんそうくるって予測はしてましたよ正直。
僕にさんざんやりこめられた意趣返しもあるのでしょう。一年生の僕が推薦されましたので、自動的に僕が二年生、三年生と二期連続務めることになってしまいます。
それ以上に、セレアのゲーム知識でも、僕は二年生からすでに生徒会長ってことになってましたんで、もう受け入れるしかないですねこれは。
呼ばれて壇上に上がります。拍手が凄いです。
会長が差し伸べた手を握り握手します。
「わたくしたちが散々苦労させられたんですもの。同じ目に遭ってもらいますわ、未来の国王陛下。生徒会の運営程度、軽くこなしてくださいますよね?」
「そりゃあね。お茶飲んでるだけなら誰でもできますからね」
エレーナ様の頬がヒクヒクと引きつります。
「期待しておりますわ」
「謹んでお受けいたしたいと思います」
最上位の礼をとり、講堂に向き直って、全校生徒の皆さんにも頭を下げます。
勉強も、公務も、生徒会も、僕寝てるヒマもなさそうです。
生徒会長に任命されて、生徒総会後に、生徒会室に呼ばれます。
「さあ、お手並み拝見ですわ」
生徒会長のエレーナ様から、生徒会室のカギと、会計さんから生徒会室の金庫のカギを受け取ります。
「お受けいたします。さてその他の生徒会役員ですが……」
「生徒会役員は、会長が自ら学内の生徒を指名してやっていただくことになりますわ。ご自分の目で、よき人材を選んでいただきたいものです」
「では会計さん、レミー・アトキンソンさんでしたか。二年生でしたよね。副会長をお願いします」
「は、はい!」
レミーさん、びっくりです。他の役員さんも驚きのようですね。まさか僕が旧役員の中からメンバーを選ぶとは思っていなかったようでした。
「……殿下はご自分のスタッフをすでにご用意していらっしゃるものと思いましたわ?」
「僕には取り巻きはいませんので、生徒会役員経験がある方は大歓迎です」
あの矛盾だらけの使途不明金のつじつまを何とか合わせた会計さん、三年生ばかりの生徒会役員の中でよくやりました。ぜひスタッフに欲しいです。
「他に二年生の役員は……いませんでしたね。三年生の皆さん、今年でご卒業でしょう。今まで生徒会活動、ありがとうございました」
「ふんっ!」
副会長も書記さんも、面白くなさそうです。
「ではこれで失礼いたしますわ」
「お役目ご苦労でした」
三年生の生徒会役員の皆さんが退席していきます。
「さ、では生徒会の会計を見直しましょうか」
「……はい」
レミーさんと金庫を開けて、生徒会費の残金を確認します。生徒総会の会計修正報告通り、金貨五十三枚分の繰越金があります。小銭が無くて金貨だけってのがもう、アレですねえ。
「これどうしたんです? どなたが用意しました?」
「エレーナ様が『わたくしの責任です』とおっしゃって、全額補填してくださいました……」
「そうでしたか。生徒会役員全員でサロンで飲み食いしてたのですから、役員全員で公平に負担したかと思いました」
そこは公爵家御令嬢の、いや、会長の矜持というやつなのかもしれません。
「あの、このことはご内密に……」
「もう全校生徒にバレているでしょう。使途不明の雑費が突然、繰越金に化けては、不正使用を補填したのだと思わない生徒もいないでしょう」
「……もう許してください」
「はいはい。では再度計算をやり直してみます」
「これを全部ですか!」
「もちろん」
それから帳簿を全部ひっくり返し、計算をやり直してみました。
まあ銀貨数枚分ぐらい間違っていたようですが、それぐらいは見逃してあげましょう。
「で……殿下」
「殿下はやめてもらいます。シン君でどうぞ」
「シン君、計算めちゃめちゃ早いですね!」
まあこれぐらいはね。別に驚かれるようなことでもないでしょう。僕もセレアに九九を習いましたし、リストにして収支の計算とか業務一般、普通にできますので。
「御前会議で鍛えられましたから。十一歳のころからずっと法の立案、資料作成、なんでもやってますよ」
「うわあ……。凄すぎます」
「レミーさん、副会長として信頼できる御友人の方を二年生から一人、会計に任命してください。お任せします」
「よろしいのですか?」
「ええ、やっぱり生徒会役員には三年生になる人がいないとね。僕、上級生に知り合い少ないし、あんまりよく思われていないから」
「書記は……?」
「僕の友人に頼んでみます」
図書室に行くとまだ文芸部員の皆さんがいました。
卒業する三年生の卒業文集の原稿をまとめているんですよ。編さんとか校正とか編集の仕事を任されています。セレアも一緒になってやってます。
来月にはもう卒業式なんですよね……。
「あ、いらっしゃい会長」
「……今後はそう呼ばれちゃうのかな。まあ殿下や王子様よりはマシかも」
みんな笑いますね。
「でもみんなは今まで通りシン君で頼むよ」
「はいはい」
みんなにしてみれば王子をシン君呼びはハードル高いか。会長呼びは、否定しないようにしましょう。
「ハーティス君、頼みがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「生徒会で書記やってくれないかな」
ハーティス君がうーんって顔しますね。
「……実はセレアさんから、きっとシン君がそう頼んでくるから、引き受けてあげてほしいって言われていたんですよね。いいですよ。お力になれるなら」
うわあお見通しか。さすがセレア。僕の考えてることなんて筒抜けです。
しかしサラッと引き受けてしまうハーティス君、さすがです。
「ありがとう。助かるよ」
「副会長と会計の方は?」
「それは三年生になる会計さんに頼んだ。生徒会にも三年のスタッフがいないとね」
「それがいいですね。二年生が会長じゃあ、三年生は面白くないでしょうから、バランスを取らなければいけませんし」
「じゃ、そういうことで頼むよ!」
あとで、レミーさんが同級生を連れてきて、ご紹介してくださいました。
現二年生です。オリビアさんと言いましてレミーさんの御友人です。
「厄介ごとを引き受けてくれてありがとうございます。会計に任命させていただきたいとおもいます。これから一年、よろしくお願いします」
「もったいないお言葉をいただき恐縮でございます。微力ながらお力添えをお許しいただければ幸いと存じます、殿下」
「ここでは殿下はやめて、王子様も無しで。後輩なんだから『シン君』でいいよ。どうしても呼びにくかったら、『会長』でもいいし」
「はい!」
「新学期が始まったら活動開始。また放課後に生徒会室に集まってください。よろしく」
さ、僕の生徒会役員が決定しました。今後一年はこのメンバーで頑張ることになります。エレーナ様に負けないようにしませんとね。
次回「56.卒業パーティー」