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53.クリスマスパーティー


 二学期の最後の行事、武闘会が終わって、冬休みになります。

 国王主催の、王宮でのクリスマスパーティー。学園主催の、クリスマスパーティー、どっちに出るかって話ですけど……。


「僕らは断然、こっちだよね!」

「そうですね!」

 ふわふわの白い羊毛モールのついた、赤い服と帽子かぶって、付け髭をして、馬車に乗ります。なんでこのかっこなのかまったくわかりません。同じく赤い、似たようなデザインの服を着たセレアに言わせると、クリスマスはコレなんだそうです。わざわざ用意してくれたんだから、文句言わずに着てあげるのが夫婦円満のコツってやつです。

 街は女神ラナテス様を称える像や飾りつけでにぎやかですよ。

「ほーっほっほっほう――! 子供たち、一年いい子にしてたかな!?」

 プレゼントを満載した馬車で、孤児院に乗りつけます!

「いい子にしてたに決まってるじゃねーか、シンにいちゃん……」

「しんにーちゃんはわかるけどさあ、セレアねーちゃんまでなにそのかっこ」

 僕ならわかるってどういうこと? 僕そんなふうに孤児院の子供たちに思われてんの? だいたいこれセレアの提案なんですけど?


 子供たちにプレゼントを渡していきます。みんな大喜びですよ!

 女の子にはぬいぐるみ、絵本、お絵描き道具。年長組には裁縫道具、料理道具も。男の子にはゲーム盤、フットボール、年長組にはちょっと難しめの本や、大工の道具なども。誰でも使えるように大量の文房具も備品として孤児院に納めます。

 大きなケーキ、それに肉!

 じゃんじゃん焼いて、みんなで大騒ぎしながら食べます。食べた後は、さっそくみんなで新しいゲーム盤で一緒になって遊びます。

「兄ちゃんつええええ!」

「子供相手に本気出すなよ……」

「いやいやいや、君たち子供はね、目標となる高みというものをまず知らないと、自分がどんな大人になりたいかイメージできなくなるでしょ? 子供にも負ける大人見て、そんな大人になりたいと思う?」

「シン様、それは大人げないというんですよ……」

 ぐはあ。セレアに怒られてしまいました。


 寝る前にみんなでお風呂です。

 大浴場には大きなつい立てが設けられ、今は男女別に分けられています。孤児院の年齢層も上がってきましたからね。もう奉公先が決まっている子供たちも多く、来年には職人の親方の元へとか、巣立っていくような子供たちもいますからね。

「にいちゃん、もうヤッた? セレアねーちゃんとヤッ……がぼっごぼぼぼぼ!」

 首根っこ捕まえてお湯の中に沈めます。

 児童虐待とかどうでもいいです。



 子供たちを寝かせるのを年長組のみんなに任せ、急ぎ、王宮へ戻ります。

 控室でさっさと着替え、パーティー会場へ。

 王子として、やっぱり顔を出さないわけにはいきません。忙しいです。

 ダンスタイムに間に合いましたので、もう大人の人たちと一緒に、セレアと踊ります。毎年ここでしか会えない人がたくさんいます。多くの人とあいさつし、お世辞やおべんちゃらを言われ、それに失礼が無いようににこやかに対応します。言質を取られないように言葉の端々にも気を付けてね。大変ですよ。


「殿下!」

 スパルーツさんと、ジェーンさんも来てました!

 スパルーツさんは借り物みたいに体に合っていないスーツに、ジェーンさんは古臭くてやぼったいドレスを着ています。せっかく美男美女のカップルなのに、学者さんってこれだから……。まあそういうところがおかしくて、僕はこの二人が大好きなんですが。

「やあいらっしゃい! 来てくれて嬉しいです」

「……招待状が届いたときは驚きました」

「我が国にとって今年最大の功労者ですよお二方は。招待しないわけがありません。これからは毎年です。覚悟しておいてください」

「はあ……、僕ら、こんな華やかな場は苦手なんですけど……」

「慣れましょう。これから世界中にお二人の医学を広めてゆくのですから」

「そんな、とんでもない」

「とんでもないことはありません。世界に広める価値があるのです。胸を張って下さい」


「スパルーツ・ルーイス、並びにグロスター村のジェーン。前へ!」

 いきなり名前を呼ばれ、二人、驚きます。

 静かになった会場、二人の前に国王陛下までの道ができます。

 二人、固まってしまいました。仕方ないなあ……。

 僕がジェーンさんの手を取り、セレアがスパルーツさんの手を取って、国王陛下の前までエスコートします。

 僕たちが陛下の前で深くお辞儀をして、あわてて二人も頭を下げます。

 手を放して、僕たちは横に並ぶ人たちのところまで下がります。


「面を上げよ」

 厚生大臣が国王のそばで書面を読み上げます。

「血清による免疫治療の確立、並びに、種痘による天然痘の予防接種の確立という大いなる偉業を成し遂げた二人に、今年度の目覚ましい成果を上げた国民に与えられる『名誉功労章』を授与する」

 どおおおお――――と地鳴りのように拍手が湧きます!

 二人、ぽかーんとしております。

 国王陛下がその二人に、気さくに壇上を降りて歩み寄ります。

「二人ともよくやった。自らの危険も顧みず国民に尽くしてくれて感謝する。今後の活躍も期待する」

 国王陛下が大臣が差し出す勲章を、二人の胸につけてあげます。

 大拍手ですよ。


「ここに並ぶ貴族領主の皆の者にも聞いてもらいたい」

 陛下が会場を見回します。

「種痘をいまだ疑い、その接種を認めておらぬ者もここには多いであろう。余は国策として、天然痘の撲滅に本気で尽力するつもりである。ここに改めて申し伝える。諸君ら全ての領民に種痘を義務付ける。一人の例外も認めぬ。領地に帰り、急ぎこの政策を実施せよ。この会場の外にも種痘所を設けておる。今夜、このパーティーに出席した者で、まだ種痘を受けておらぬ者は全員そこで接種を受けてもらう」

 おおお……とかよろめく貴婦人の方多数。

「それまで帰さぬ。ま、あきらめよ」

 そう言って笑います。

 強引ですねえ、国王陛下。ま、それぐらいやらないと普及しないのも事実です。


「さ、お二人、忙しくなりますよ?」

「え……」

 スパルーツさんとジェーンさんが目をぱちくりします。

「あなたたちがやるんですよ。この会場のみんなに、接種を!」

「うわあああああ……」


 パーティーも終わりに近くなり、帰宅する貴族の皆さんがお二人の前に列を作ります。学院のスタッフの人も来ていて、衛兵が種痘跡を確認し、未実施の方を手分けして接種をしてました。

 スパルーツさんはヒロインさんの攻略対象になるほどの美男子ですんでね、御夫人の列ができましたよ。皆さん今流行の肩を出したドレスを着ていらっしゃいますので、手早いです。

 アルコールの綿で肩を拭き、二股になった接種針をちくっと刺して、その痕をガーゼを当てて包帯を一周巻いて終わりです。

 感染症予防のために接種針は何本も用意され、一回ごとにちゃんとアルコール洗浄、乾燥することも忘れません。


 パーティーが終わってから、父上である国王陛下に尋ねてみました。

「陛下は、もう種痘を受けられました?」

「いいや、まだだ。この先も余は種痘を受けるつもりはない」


 ……意外な言葉が返ってきました。

「なぜでしょう?」

「何事にも万が一と言うことはある。王家の中にも、最後まで種痘を受けなかった者も一人は必要であろう」

「ご自身が天然痘にかかられても?」

 そう問うと陛下が笑いますね。


「種痘を受けなかったばかりに、天然痘にかかって死んだ。そんな愚かな王もいたという歴史もまた、使いようによっては役に立つではないか」


 ……やっぱり凄いですね父上は。誰よりも国民のために体を張っているのが、実は父上なのかもしれません。僕にはまだまだかないませんね。



 翌日、雪が降りました。

 ラステール王国観測史上、実に十二年ぶりの雪です。

 寒い寒いとは思っていましたけどねえ、まさか雪が降るとはねえ。

 街は雪景色。きれいです。


 朝食にセレアが現れないので、探してみると、王宮の庭で雪だるまを作ってましたよ! コート着て、帽子かぶって、手袋して、完全防備で。すごくうれしそうに!

「なにやってんのセレア」

「おはようございますシン様。雪が降ったら雪だるま、これはもう決まり事です!」

 うーんなんだかなあ……。

 ゴロゴロ雪のかたまりを転がしてほんと楽しそう。セレアは、貴族令嬢としても、体が弱くて入院ばかりしていて外出できなかった前世でも、こんなことして遊ぶことが許されなかったのかもしれません。


「なに作るの?」

「国王陛下!」

「うわーハイリスクぅ!!」


 しょうがない。僕も一緒に作りますか。なにかあったら一緒に怒られてあげましょう。

「もっと毛をフサフサに……」

「シン様、それはダメです。かえって失礼になります。ちゃんと作りましょう」

「目とか入れてみようか」

「異物を入れるとそこから溶け出します。こういうのは全部混じり物なしの雪で作るのが一番いいんです!」

 朝食も忘れて二人であーだこーだやってるうちに、結構立派な胸像ができてしまいました。


「できたかな?」

 うわっ陛下ああああああぁあああ!

 コートを着て、国王陛下が雪の中、立っていらっしゃいました。


「……うわっはっはっはっはっ! よくできておる! さすがだ、セレア嬢!」

 陛下わざわざ見に来て大笑い。どういう義父(おや)バカですか陛下。

「ありがとうございます。このような幼稚なイタズラ、お見逃しいただき恐悦至極に存じ上げます」

 セレアがスカートをつまんで、優雅にお辞儀します。

「さ、そろそろ中に入って温まりなさい。風邪でも引いたらどうする」

「そうですね、失礼しました」

 そそくさとセレアの手を引いて、王宮に戻ります。


「くっくっく、うわっはっはっは!」

 父上、いつまで笑ってるつもりですか。




次回「54.ドレス、破れる」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「種痘を受けなかったばかりに、天然痘にかかって死んだ。そんな愚かな王もいたという歴史もまた、使いようによっては役に立つではないか」 か、かっこいー!!
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