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49.学園祭前夜


「王子サマ――――!」

「学園で王子様呼び禁止!」

 あーあーあーあー……廊下でヒロインさんに呼び止められちゃいました。なんなんだ……。

「あの、私、演劇部に入ってるんですけどぉ」

「へー、頑張ってね」

「それで、学園祭の演劇発表で私にも役が付きまして」

「そりゃすごいねリンボさん」

 ここのところ顔見てないと思ったら、それで忙しかったか。いいことです。

「リンスです! どーしても覚える気無いですよね」

 覚えちゃったら出会いフラグ立っちゃいそうで怖いんですよね。覚えないようにしています。


「ぜひ見に来てほしいんです!」

「暇があればね。今年は僕のクラスも出し物やるから」

「へー、何するんですか?」

「喫茶店……」

 しかしてその実態は「執事・メイド喫茶」という謎の企画。僕も文化委員のパトリシア嬢より接客の特訓受けることになっています。クラスの女子はセレアも含めてみんなメイドをやりますが、なぜか執事は僕一人。

「メイドはいっぱいいても執事は普通一人でしょう!」というのがパトリシア嬢の持論でありまして……。いや、それどうなんだ。

 ピンク頭には、「まあ、とにかくそれは約束できないんで期待しないで」って言っときました。


 紅茶は執事とメイドが作りますが、料理についてはなぜかジャックと男子四名が作ります。あのジャックが料理をねえ……。軽食の菓子についてはケーキでもなんでも、注文して取り寄せたものを盛り合わせて出すだけですし簡単なんですが。


 そんなわけで料理好きな男子五人による喫茶店のメニューも充実してきましたよ。ジャックが腕をふるってパスタを作って、みんなに試食してもらっています。評判いいですよ!

「なんでジャックこんなことできんの!?」って訊くと、「あのなあお前、人間ってのは唯一、料理したものしか食えない動物なんだよ。それが人間だ。料理ができるってのは、人間だったら誰でも持ってなきゃ、いざというとき生きていけなくなるスキルなんだよ」と諭されました。ジャックの領地では男でも料理ぐらいできないと一人前の男扱いされないそうで。

 ごもっともです。僕もなにか料理ぐらいはできるようになったほうがいいですかね……。なんでも習っている僕ですが、これだけは正式に習ったことがないんですよ。王宮の厨房にはよく遊びに行ったことがあり、野菜の皮むきならできますけど。


「せ、セレア……」

「セレアさん……?」

 セレアがスパゲティにじゃぶじゃぶケチャップをかけて炒めております。うえええええ! 気持ち悪い! ってクラスのみんなから悲鳴が上がります!

「粉チーズをかけて……完成!」

 スパゲティが真っ赤なんですけど。スパゲティにあるまじき姿です。

「おいしいんですよ。さ、みんなで試食してください」

 みんな恐る恐る食べてます。これもセレアの前世知識でしょうか。

「おいしい……」

「美味しいけど……」

「うまい。たしかにうまい。でもこれは邪道だ! ダメだ! こんな料理広がってはたまらん。俺は絶対反対だ!」

 ジャックが強固に反対します。うん、僕も反対。これはダメだよセレア……。

「あのねえセレア、たとえ美味しくてもやっちゃダメってことはあるんだよ。そこは諦めようよ」

 珍しくがっかり顔のセレアが見られて僕は満足ですが。


「いらっしゃいませお嬢様」

「違います! そこは『おかえりなさいませお嬢様』です! どうして覚えてくれないんですか!」

 パトリシアに執事喫茶の接客指導を受けております……。抵抗しても無駄なんですね。そうしないと僕、物覚えが悪い王子ってことになりそうです。

「いいですかシン君、執事というのはですね、常にお嬢様とともにあり、お嬢様を溺愛し、お嬢様のわがままを何でも聞いてあげなければいけないんです!」

「違うよパティ、執事というのはいわば教育係。お嬢様に非あらばそれを咎め、お嬢様に非礼あらばそれを正し、立派なレディになるための……」

「しゃらあああああああっぷ!」

 なぜ反論が許されないんですか僕。


「いいですか、ソレではダメです。ここは乙女の夢をかなえるための執事喫茶。シン君には『乙女のための執事道』を完璧に演じていただきます。わかりましたね?」

「パティ、君の家の執事ってどんなんだったの?」

「執事なんていませんよ。うちは貧乏男爵ですから」

「なぜそれで執事道を語ろうと思った?」

「だからこそです。乙女の妄想力舐めてはいけません」

「妄想だって認めちゃうんだ……」

「わかってないですシンくんは……」

 わからないほうがいいような気がします。


「……固いんですよねシン君は。ホント真面目なんだから。王子としてはそのほうが安心できるんですけど。うーん、じゃあ、私をセレアさんだと思ってもう一度」

「おかえりなさいませお嬢様!」

「そうっ! それです!」

 それからは女子の皆さんの間で、僕も「やればできる王子」と、評判が上がりましたよ。

 僕ってそういう評価だったんですか……。


 僕に続いて、セレアのウェイトレス、いや、メイドの接客指導もパティの担当です。

「じゃあ、セレアさん、もう一度お願いします」

「てへっ! ぺろっ」

「……パティ、僕からお願い。もう本当にお願い。それセレアにさせるのだけはやめにして」

 パトリシアさんとは一度ちゃんと話し合ってみないとダメかもしれませんね。


 王宮から執事服、メイド服も借りてきました。本物を使いますよ。

 これぐらいはさせてもらいます。王子としての権力を使ってるみたいですけど、おかしなものを着せられたり、セレアに着せたりするよりマシです。



 そうそう、あと一つ。セレアに「文芸部はなにやるの?」って聞いてみました。

「あのカルタをお披露目しようかと思いまして、来場者に自由参加してもらってゲーム大会です」

「そうかあ、それは見たいな」

「午後の演劇部の劇は文芸部員が全員見に行きますから、その後ですね。シン様にも参加してほしいです」

 セレアが演劇部の劇、見に行くなら、僕も見ないといけなくなったみたいです。ヒロインさんが出る劇ね。なんか強制力を感じます……。


「やあ! シン君!」

 くるくる回りながらピカール登場。一度ぐらいは普通に登場してほしいです。

「今年ははじめてのきみとの直接対決だ! 楽しみにしているよ!」

「……なにを対決するの?」

「決まってるじゃないか、ミス学園と共に行われる、ミスター学園さ! ぼくもきみも有力候補。長年の因縁に決着をつけよう!」

 そんなものまで開催されるんですか。お馬鹿な学園ですねえ……。

 長年の因縁ってなんなんでしょうね。入学してから僕ら半年しか経ってないじゃないですか。

「……そんなの二年生か三年生が取るでしょ。一年生の僕らが出る幕ないよ」

「いや、知名度抜群の王子たるきみ、学園の貴公子として今や知らぬ者のないぼく。今年はこの二人の一騎打ちになる。間違いない」

「そんなの君に譲るよ……」

「おやおや、今から負けを認めるのかい?」

「ちなみにミス候補は?」

「決まっている。学園の絶対女王、生徒会長のエレーナ様がぶっちぎりさ。彼女をエスコートし、優勝のダンスを踊るのはぼくさ! じゃあ、楽しみにしているよ!」

 一方的に宣言されて踊るような足取りで去っていきました。

 なんなんだ。


 とにかく、セレアが言うには学園祭は、「ラブいイベント盛りだくさん」で、僕らとしては緊張してそれを迎えることになります。

 なにかあったら大変ですから、ヘタにフラグを立てられないようにしなくっちゃ。当日は慎重に行動しないと。いちばん大切なことは、「ヒロインさんにかかわらないこと」。この一言に付きます。


 教室を片付けて、机や椅子を並べ直し、テーブルクロスを張って、一輪挿しに花を飾り、メニューを作って、教室の窓の外では石造りのコンロが設営され、炭火が運び込まれて火を入れられる準備は万端です。窓の外を厨房に見立てて、喫茶店が完成しました!

 さあ、来るなら来い。どんなイベントも全部華麗にかわしてみせてやりましょう!




次回「50.一年生の学園祭」

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