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39.フローラ学園生徒会


「さてみなさん、学園生活も二週間を過ぎました。そろそろ学園にもなじんで、クラスでも人となりがわかった頃と思います」

 先生が朝のホームルームを開いています。もう二週間かあ。のろのろしてますねえこの学園。既に一年の選択科目も提出済で、今日から本格的に選択科目の授業が開始されることになります。


「そこで、今日は学園を生徒で自主運営するための委員を決めてもらいます。ではまず学級委員長。立候補はいますか?」

 しーんとしていますね。顔を見合わせる感じです。

「では推薦」

「はい、シン・ミッドランド君を推薦します!」

 女子が一人挙手してそう言うと、みんなわーって拍手します。

 僕かい。……まあそうなるか。他の貴族としてはクラスに王子がいるのにでしゃばれませんよね。これはしょうがないと思います。


「ミッドランド君、引き受けてくれますか?」

「いいですよ」

「ありがとう。じゃ、前に出て挨拶を。それから各委員を決めてください」


 席を立って教壇の上に立ちます。

「推薦ありがとう。みなさん僕がいると大変やりにくいだろうと入学前から心配していましたが、それでも、僕の希望通り、普通に受け入れてくれて感謝します。これから一緒に頑張りましょう」

 そう言ってみんなの前で頭を下げます。

「いやあ、そりゃせっかく王子様がいるんだから、これはやってもらわないと」

「ぼくらのクラスの発言力も増すってもんだし?」

 ヤジが飛んでクラスのみんなが笑います。こんな冗談が飛ばせるような雰囲気になってくれるまで苦労しました。ジャックのおかげもだいぶあります。持つべきものは友達ですね。

「おいおいおい、僕はそういうの一番やっちゃいけない立場なんだからさ、期待されても困るよ?」

 さ、笑ってないで仕事仕事。

「えーと、学級委員長ってのは要するに雑用係。困ったことは何でも言ってね。生徒会との連絡係、事実上生徒会委員も兼ねてますね。あと、各委員ですね。保健委員、図書委員、美化委員、風紀委員、文化委員、体育委員……。以上ですね」

 黒板に先生から渡されたプリントを見ながら書いていきます。

「では保健委員、立候補をお願いします」

「はい」

 おー、サンディーって子がやってくれるみたいです。

「ありがとうございます。他に自薦、推薦は……、ありませんか? ではサンディー、お願いします」

「はい!」

「次、図書委員」

「はい」

 セレアが手を上げました。本好きですもんね。膨大な蔵書のある図書館すごく気に入っていたようです。

「ありがとう。他に自薦、推薦は……無しと。じゃ、セレア頼むよ」

「はい」

 そうやって次々と係を決めていきます。

「はい、ありがとうございましたミッドランド君。では今、委員に決まった人は放課後、それぞれの委員会に出席してください。ではホームルームを終わります」



 放課後になりました。いよいよフローラ学園、生徒会のメンバーと初顔合わせです。

 入学式で在校生代表挨拶をした生徒会長、学園の絶対女王、公爵令嬢、エレーナ・ストラーディス様とご対面です。二年生の時から会長で、三年生になった今も二期連続で生徒会長をお務めだそうで。在校生挨拶では、「伝統と格式を守り、貴族たる立場をわきまえ、フローラ学園の名に恥じぬよううんぬん」とやった上で、僕の型破りな新入生挨拶をにらみつけるように見ていました。相当な抵抗勢力となることが考えられます。


 ぞろぞろと生徒会室の前に人が集まって来ました。

 上級生の方、そして、新入生のみなさん。それぞれクラスで委員長として選ばれた方たちです。

「やあシン君、やっぱり、来たね!」

 ピカール……。お前委員長かよ。どうせ立候補したんだろう?

「……ふん」

 パウエルもいました。脳筋担当。

 意外でしたね。委員長になれるような人望ある人物には見えませんでしたが。

 あとのふたクラスは、ちょっと覚えがないかな。上級生の方たちに続いて、生徒会室に入ります。


 ……生徒会室、豪華です。

 調度品が凝ってます。まるでサロンのごとし。この人たち仕事してんの?

 事務所みたいにちゃんと生徒会活動する場って感じは全然しません。もっとこう、生徒会室って、書類や印刷物、発行する生徒会報の資料、スケジュールがびっしり書かれた黒板とかのイメージありましたけど。

 要するに役人の事務所然とした雰囲気が全くなく、上流階級の社交場という感じです。こんなんなっちゃってんの生徒会って。


「みなさん、着席なさって」

 遠慮なく末席に座らせてもらいます。

 みんないちいち頭を下げてから着席します。もちろん僕は睨まれてますよ。

「生徒会へようこそ。生徒会長をしているエレーナ・ストラーディスです。以後お見知りおきを」

 着席したまま、生徒会長が挨拶します。

「シン・ミッドランド殿下。御入学おめでとうございます。わが校が王族を迎えるのは実に七年ぶり。サラン姫殿下以来でしょうか。生徒会を代表して歓迎いたします。今後のご活躍を期待いたしますわ殿下。どうぞよろしく」

 早速僕を名指しですか。王族の威光を笠に着たい、こっち側に入れというプレッシャーがビンビンですね。


「……ありがとうございます。ただ、フローラ学園の門をくぐった以上、僕も他の生徒と同じ、一生徒に過ぎません。これからも特別扱い無く、他の学生諸君同様にご指導、ご鞭撻(べんたつ)いただければ幸いに存じます」

「殿下におきましては、大変ユニークな新入生代表挨拶をいただきまして、生徒会一同、感銘を受けましたわ」

「『殿下』ではなく、ミッドランド君とでもお呼びください。会長」

「おたわむれを……。そのような無礼、学園の格式と伝統が許しませんわ?」

「無礼ではありません。学園の門の上に国王陛下のお言葉が書いてあります。『この門をくぐる者はすべての身分を捨てよ』と。既に僕は王子という身分を捨ててここにいます。どうぞお気になさらずに」

 ぴしっと生徒会室の空気が凍りますね。なんなんでしょうねこの感じ。

 どこの有閑マダムですか会長。セレアの言う、「悪役令嬢」みたいです。


「それを許さぬ伝統が、この学園にはあるのですよ?」

「そんな伝統、いつの間にできたんですかね?」

「王家たるものがその身分と地位を捨てるのですか?」

「まあ、学生の間ぐらいはね」

「それは矛盾ですわね。王家の一員たるものが自ら身分を捨てるようでは王政そのものの存在する意味がなくなりますわ?」

「貴族然とした学園の生徒会が、国王陛下の意向に従えないとおっしゃることもまた、矛盾では?」

「面白いことをおっしゃること」

 そう言ってにやりと笑います会長。


「僕のことはどうでもいいです。さ、始めてください」

「始めろとは?」

「仕事ですよ。生徒会としての業務です。さあ、なにから始めますか? 議題を進行してください。そのために呼んだんですよね?」

「今日は顔合わせだけですわ?」

 ぬるいなあ生徒会。ホントに仕事してんの?

 国政の場の御前会議で何度も国王や大臣たちと喧々諤々やりあってきた僕には馬鹿馬鹿しくて付き合ってられませんね……。孤児院や病院関係でダメ出しされて何度もやり直させられたことだってあるんですよ。十一歳から十五歳まで、大人の世界に放り込まれてね。


「今年度の生徒会活動スケジュールぐらいは、教えてもらえないですかね」

「出来上がってきたらお教えいたしますわ。まだ指示したばかりですの」

「誰にやらせているんです?」

「教員に」

「それって生徒会が存在する意味があるんですかね?」

「全校生徒を代表してそれを承認する義務が私どもにはありますわ」

「それまで生徒会の皆さんはなにをしているんでしょうか」

「待つのも仕事のうちですわ。急かせては良いものができませんでしょう……」

 なんにもしないのアンタたち?


「失礼しました。身をわきまえぬ無礼な発言の数々、お詫びを申し上げます」

 僕もだんまりを決め込んでやりましょうか。

「……殿下は生徒会にいろいろとご不満がおありでしょうか?」

「まだ入ったばっかりでわかりませんね」

「それは後々、勉強していただきましょう」

「まあわかったこともありますが」

「なにがお判りになったというのですか?」


 この中には国政のスタッフたる資質がある者がいないということがわかりましたね。フローラ学園の卒業生からは、今後、大臣は選出されないでしょう。僕がしません。生徒会程度の仕事もできない人間がどうやって国を治めます?

 この生徒会は学生のうちから、組織の運営を主体的に行い、リーダーシップを学ばせるという生徒会本来の教育目的を全く果たしていないじゃないですか。


「……その話は、諸先輩方がご卒業なされてからにいたしましょう。入学したばかりの下級生が申し上げねばならぬことなどなにもありませんよ。まずは見習いから始めようと思います。ではその顔合わせの続きをどうぞ」

 ダメだ。こんなやつらさっさと卒業してもらったほうがいいです。

 学園のために全く役に立っていません。先が思いやられます。


「はい……。では隣の方」

「はい! ピカール・バルジャンです。父はピエール・バルジャン伯爵。シルヴァリア領を任されております」

「ピカール様はご長男でいらっしゃいますわね。いつぞやは大変お世話になりましたわ。よろしくお願いいたしますねピカール様」

「はい。お美しいご尊顔、久々に拝見いたしまして光栄の極みにございます。以後学園でも昵懇に願います、エレーナ様」

「御足労ありがとうございましたわ。では次の方……」


 なんだこの生徒会。いちいち身分を語らせ、生徒会長におべんちゃらを言うんかい。

 全員にお茶とお菓子がふるまわれます。いそいそとお茶を汲んでいるのはどうも生徒会とは無関係そうな一般生徒。生徒を小間使い扱いかい!

 ダメすぎるってこの生徒会……。

 結局僕は生徒会の具体的な仕事内容については何も聞かされず、お茶にもお菓子にも全く手を付けずに生徒会を後にしました。



 帰りの馬車の待ち合い室を兼ねる休息所で、セレアに声をかけます。

「やあセレア、図書委員会はどうだった?」

「良かったですよ! みなさん本が大好きで、上級生には文芸部員の方が多かったです」

 図書室は和やかな同好の士が集う場所ですか。いいなあ。

さ、二人で街路の歩道を歩いて、公爵別邸まで帰りますよ。


「基本は当番を決めて図書室の貸し出しの司書を放課後にやるんですけど、せっかくですし図書室の利用率を増やすアイデアを次の委員会で持ち寄ることになりました。先輩の図書委員の方々はみんな文芸部員なものですから、私も文芸部にお誘いを受けまして、入ろうかなって思っています」

 ……くっ、うらやましい。僕なんか貴族社会の一番どろっどろなところで、ほぼ全員を敵に回して来たところですよ。前途多難です。


「いいね。セレアはお話を作ったり、孤児院で紙芝居をやったりしてたもんね。文芸部員のみんなも大歓迎してくれると思うよ」

「入部してもいいですか?」

「もちろん!」

 セレアにも、お妃教育ばっかりじゃなくて、友達いっぱい作って学園生活楽しんでほしいです。

「文芸部員のみんなにも、童話を創作してもらって、孤児院でボランティアで読み聞かせや紙芝居ができたらいいなって思っちゃいました」

「素晴らしいよ! それ、ぜひ実現して!」

「はい!」

 セレア、嬉しそうですね。そんなセレア見ていると、僕も嬉しくなっちゃいます。


「それで、あの……」

「ん?」

「図書委員の中に、文芸部員でもあるんですけど、ヒロインさんの攻略対象がいて……」

 あーあーあー、インテリ担当、いましたね。

「どんなやつだった?」

「ちょっと小柄で、ハンサムで、眼鏡くんで、ナイーブな方でした。ハーティス・ケプラーという方です。ケプラー伯爵様の三男ですね」

「あー、パーティーで会ったことあるよ。最初見た時女の子かと思っちゃったよ」

「それはちょっと失礼かと……。でも改めて実物の本人に会うと、確かにテンプレですねえ……」

 ほんわか癒し系担当でしたか。女の子でも安心してお近づきになれるタイプです。もちろんめっちゃ美男子です。

 攻略対象者って凄いよね。みんなタイプは違いますがとんでもなく美男子ですよ。あの粗暴なパウエルでさえ、見た目はめっちゃイケメンですから。


「ハーティス君、もうヒロインさんに攻略されてた?」

「そんなこと聞けません!」

 ぷんってされちゃいました。女の子って難しいや。




次回「40.バスガス爆発」

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