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4.ここで引いちゃあ男じゃない


「……言いにくいことなんだけど、それ全部君のもうそうじゃ」

「違うと思います」

「うーん……」

 ここで「証拠はあるのか!」って、問いつめるのはかわいそうですよね。十四歳病だって言っちゃうようなもんですから。


「シン様もきっと心当たりがあると思うんです」

「たとえばどんな?」

「シン様、七歳の時に、お城の隠し通路を抜けて、おひとりで城外に遊びに行きましたよね?」

 ある。あります! それやったことあります!

 でもお城の隠し通路なんて、戦争になって、城壁がやぶられて、敵兵がお城の中にまで入ってきた時に使うようなもので、王族以外には知られていません。トップシークレットです。この子が知るわけありません!


「そのとき、城下町で、猫をいじめていた子供たちがいたはずです」

「……いた。いたよ」

「その猫をかばった女の子が、男の子たちにいっしょにいじめられていて」

「まさか君がその時の女の子!?」

「ちがいます。私みたいな黒髪じゃなかったはずです」

「……ぜんぜん覚えてない。でもたしかに黒髪じゃなかったと思う……」

「シン様はそのとき、『女の子をいじめるなんて恥ずかしいと思わないのか!』って言って女の子をかばって」

「あーあーあー、あったかも」

「でもやられちゃうんです。すぐに衛兵たちが駆けつけて助けてくれるんですけど」

「……うっ」

 はずかしー。かっこわるいね僕。でもたしかにそういう記憶ありますよ。

 そのあとすっごく怒られましたけど。


「シン様はそのとき、笑って、女の子に言うんです」

「な、なんて」

「『僕、君のナイトになれたかな』って」


 うあああああああああああああ!!

 やめてやめてやめて!

 言った! 言いました! 言っちゃったよ僕!

 七歳とは言え、よくそんなセリフ女の子に言いましたね僕!

「なんで知ってるの!」

「ゲームのオープニングのイベントです。はじめるときに毎回出るんです」

「毎回見られてるんですかそれ!」

「ふつうは一回見たらとばしちゃいますけど」

 そういう問題じゃなくってね。


「なんなのそれ。っていうかそれ絶対僕しか知らないことだよ? 衛兵だってそんなの聞いてないはずだよ。こっそりささやいたんだからさ。相手は平民の子だったし、君がそんなの知ってるわけないよ……」

「乙女ゲーのオープニングで、主人公とメインキャラの幼少期の出会いイベントは定番ですから」

「ちょっとなに言ってんのかわかんない」

「その時の女の子が、学園に入学してくる主人公なんです」


 頭を抱える僕を、ひややかにお嬢様が見ております……。

 その子の入学、断固阻止したくなってきました。


「その猫、『クロ』っていう名前の黒猫でした?」

「うん、それは覚えてる」

「それ絶対、転生ヒロインの飼い猫です。私と同じで、同じゲームやってた記憶のある、異世界の日本人です。間違いないです」

「なんで?」

「私のいた国の言葉、日本語で、『クロ』っていうのは、黒い色のことですから」

 ……そうだったんだ。


「……」

「お信じになりますか?」

「……否定できなくなりました」


 コンコン。

 いいタイミングで、いや、悪いタイミングなのかな? ドアがノックされます。

「どうぞ」

「失礼します」

 メイドのベルさんが入ってきました。

 お茶とお菓子を持ってきてくれましたね。

 ポットにお湯を入れて、カップにお茶を注いでくれます。

 その間、無言。


 ……いや、何を話したらよいものか。

「誰かに言いましたか?」

 ふるふるふる。彼女が首を横に振ります。

 そりゃあ言えないよね。

「婚約をお断りする以上、シン様には話さなければならないことと思って話しました」

 がちゃん。食器の音がします。ベルさんの手が滑ったようです。

 何を話したんだこのお嬢様、って顔してます。

 仲良く話してたんじゃないのか。誤解は解けたんじゃないのか。婚約の話、決まったんじゃないのかって顔です。そりゃそうだよね。


「わかりました」

 僕は大きくうなずきます。

「後日、正式に婚約の申し込みをさせていただきます」

 セレア嬢の顔が驚きの口あんぐりです。

 なんで? なんで? って顔で僕を見るセレア嬢。


「ありがとうございますベルさん。さあ、お茶をいただきましょう」

 フルーツケーキをつまみ、お茶を飲みます。

「おいしいです、このお茶」

「ありがとうございますシン様。で、その、お嬢様との婚約の件って」

「楽しい時間を過ごさせていただきました。お話の間、セレアさんは僕に一度もウソをつかず、話すことが全て真実でした。僕の妻にふさわしい方です。これからもずっと一緒にいてほしいと思いました。もっとたくさん、話を聞きたい」


 うそおっ、って形にセレア嬢の口が開きます。


「まだ床にふせっている中、お時間をいただいてありがとうございました。おだいじにセレアさん。いや、セレア」

 そうして席を立ちます。

 ベッドの横にひざまずいて、彼女の手を取り、その手にキスします。

 セレア、真っ赤です。


「また会いましょう。遊びに来ますよ。これからは何度でも」



 ドアを開けると、コレット家のみなさんが集まってました。なんの集まりですか。執事さん、メイドの皆さんから当主のハースト公爵までいらっしゃいます。いや今までの話、全部聞かれてたりしないよね。コレット邸、そんなに壁やドアが薄いってことはないと思いますけどね、信用してますよ?


「お嬢様と面会を許していただいてお礼を申し上げます。僕は今ここに、シン・ミッドランドの名において、セレア・コレット様に婚約の申し込みをいたしましたこと、ご報告させていただきます。正式な申し込みはいずれ。御家をおさわがせして申し訳ありませんでした。それでは失礼させていただきます」

 一礼して、護衛のシュリーガンが待っているサロンに向かって歩きます。

 背後から「やった――――!」「大逆転だ――!!」「おめでとうございます!!」という大歓声が上がります。

 うん、外堀からガンガン埋めていきましょう。



 サロンに行くと、シュリーガンがお茶にお菓子やってます。あいかわらず図々しいなコイツ。

「ベルさんにお茶とお菓子をいただきましたよ。いやーうまいわ」

 そりゃよかったなオイ。主人より先にお茶もらえて。

「なんか騒いでますな。なにやらかしたんです王子」

「うん、セレア嬢、いや、セレアに婚約の申し込みをしたよ」

「そりゃあめでたい! いやあこれで王家も公爵家も安泰ですな!」

 お前はこれからもベルさんに会えるからでしょ。そこだよね絶対、喜んでる理由って。

「騒ぎに巻き込まれないうちに帰るよ。さっそく国王陛下に御報告しなきゃ」

「こ、これ食ってから」

「早く食え」



 王宮にもどってから、国王陛下である父上と、母上にご報告をいたしました。

 うんうんとよろこんでくれています。

「お前が決めることではあるが、断ったり、断られたりしたらかなり面倒だったな。よくやった」

 とっくに決まってることなんで、僕がどうこう言ったからって結果が変わるわけじゃ、そうそうないんだとは思うんですけど、やっぱり誰からの反対も無くすんなり決まるのが一番ですもんね。

「まだご令嬢から了承をいただいたわけではないんですが」

「心配いらん。断るわけがない。これで決まりだ」


 事実上彼女に選ぶ権利はないんだってことです。

 僕、かなり非情なことを決めてしまったような気がします。

 あの時、彼女が過去の記憶を思い出さないでたおれたりしないで、そのままお茶を一緒に飲んでいたら、どうだったでしょう?

 やっぱりこうなったんだと思います。

 あの場で断ったら? 僕が断っても、この話どんどん進んだと思います。どっちでも同じなんですね……。


 彼女を幸せにするか、悲しませるか、それ結局は全部、僕しだいってことです。

 がんばらないといけませんね!



 誤字報告いつもありがとうございます。

 幼少期の頃は、子供らしさの演出として、特に難しくない熟語でも漢字をひらがな表記にしている部分が多数ありますのでご了解くだされば幸いです。



次回「5.作戦をたてなきゃいけませんね」

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