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36.追加イベント


 教室の前に行くとクラス編成表が張り出されていました。

「よお」

「ジャック、ひさしぶり」

「セレアさんも久しぶり。俺らみんな同じクラスだよ」

 そう言ってジャックが表を指さして笑いますね。セレアもシルファさんも同じAクラスです。

 新入生百二十名。二十四名に分けて五クラスになってまして、大注目のヒロインさんですが……。


 Bクラスでした。いやあよかった同じクラスでなくて。関わらなくてもよさそうですし。

 いや目の届かないところに置いておくのもある意味ちょっと不安ですか。まあなるようになるでしょう。

「二人がいてくれて安心だよ。これからよろしく頼むよ」

「ああ、しかし名演説だったよ。アレは良かったな! 俺、学園ではシンのこと、『殿下』とか呼ばないといけないかと思ってたよ……。」

「僕だってイヤだよジャックからそんな呼ばれ方するの」

「だな」

 はっはっはって二人で笑います。

「シン様、ご機嫌よろしゅう」

 シルファさんもスカートをつまんで、挨拶してくれます。

「ひさしぶり。でも『シン様』もその挨拶も学園ではそろそろやめてほしいなあ」

「私はこのほうが楽ですわ」

「ジャックにもいちいちやってんの?」

「二人の時はやりません」

「じゃあ僕にもそれで頼むよ」


「セレアさん! 同じクラス!」

「同じクラスですね!」

 シルファさんとセレアが肩を抱き合って喜んでます。そのやりとりをクラスメイトが驚愕の表情で見てますね。僕はクラス全員と、こういう付き合いをしたいんです。それが伝わればいいんですが。


 僕の席は教室の真ん中。セレアは窓際の前。シルファさんは窓際の後ろ。ジャックは僕の後ろ。バラバラになっちゃった。

 担任の先生は中年女性でした。きわめて無難に、今後のことを説明してくれます。

 僕らの一日のスケジュールですが、朝にホームルームがあり、連絡事項などを伝えます。生徒は全員この教室になります。午前中はこの教室で必修科目を受け、午後は選択科目で、自分の受けたい授業のある教室に移動する移動教室です。それが終わった人、授業が無い人はそれぞれ勝手に帰ることになります。

「遅れて申し訳ありません!」

 がらっと教室の戸が開けられて、運動着に着替えたヒロインさん登場!

 あーもう、どうしてヒロインってこう無自覚に目立つことになるんでしょうね!

 アンタ隣のクラスでしょうが! なんで教室間違えて入ってくるんですか!


「おや、まだ生徒がいたのですか……。あなた、お名前は?」

 先生がギロッとにらみます。

「リンス・ブローバーです! みなさん、よろしくお願いしまーす!」

 さっそく養女入りした男爵家の家名を名乗り、クラスのみんなにお辞儀します。


「……あなた、隣のクラスですよ? Bクラスです」

 先生が学生名簿をめくって、冷静に答えます。

「え、えええ! いっけなーい! 間違えちゃった! てへっ」

 そう言ってこつんと自分の頭を拳で叩き、ぺろって舌を出します。

 何でしょう、猛烈にイラっとしました。クラスの男子はぽわわーんと、女子は半目になっておりますが。


「あ――――!」

 突然、大声を出して、僕を指さしますね!

 うわあああああ関わってくるなよ! 関係者だと思われたくないよ!

「さっき、私を運んでくれた人!」

 僕の机の前に駆けてきて、ぺこりと頭を下げます。

「さっきは保健室に運んでくれて、ありがとうございました!」

 君、気絶してたんじゃなかったっけ。なんでわかるのそんなこと。

「抱っこして運んでくれるなんて……。紳士ですね、嬉しかったです。私、リンス・ブローバー。お名前お聞かせいただいてよろしいですか?」


「名乗るほどの者じゃございません……。抱っこはしてないよ。担架で運んだだけ」

「たんか?」

「担架」

「……」


 クラスから失笑が漏れますね。いやあアレはマヌケだったよ。

「リンスさん?」

 先生、もう青筋立てて教卓を指でトントントンと叩いています。

「早く自分の教室に戻りなさい」

 有無を言わさぬ物言いに、さすがにマズいと思ったのか、クラスを見回して、退散していきます。

「失礼しました! あ、あの、ありがとうございました! またあとで!」

 教室の戸に駆けて行って、ぴょこんと頭を下げて、とびっきりの笑顔で僕にちょっと小さく手を振って、戸を閉めます。


 ……何だったの今の。


 男子生徒はうわっあんなかわいい娘初めて見た! って顔してますけど、女子は全員半目です……。一つ一つのしぐさのあざとさは隠しようが無いようで……。

「……なにあの子、殿下のことも知らないの?」

「ありえないんだけど……」

 さっそく女子に嫌われまくってしまったようです。

 っていうか、誰かあのピンクの髪突っ込んでよ。

 そっちのほうがあり得ないでしょあんな髪の毛の色。



 まあそんなわけで引き続き、科目の説明ですね。

 今日は入学式だけですので、この説明が終わったら解散です。

 クラスの半分ぐらいが帰ったところで、ジャックが僕の前の席に後ろを向いてどかっと座ります。

「シン、部活なにやる?」

「……やらないよ。ヒマ無いし、どこに入ってもモメそうだし」

「忙しいな王子。俺は剣術部だな」

「はいはい」

「この選択科目どうしようかねえ……」

 そう言ってぼりぼり頭を掻きますねジャック。


「シルファさんと相談しなよ。ジャックにお勧めはダンスだね」

「うえ――――」

「苦手なものこそがんばるべき」

「真面目だねえシン」


 セレアとシルファさんも来ました。

 それを合図のように残っていたクラスの半分ぐらいがいっせいに僕らの周りを取り囲みます。

「シン様はなにを受けられるのですか!?」

「シン様? 音楽にご興味はおありでしょうか!」

「シン様、あの、ぜひダンスの授業をごいっしょに……」

 女子はともかく、男子もさあ、そう遠くから取り巻くんじゃなくて、気軽に声かけてほしいです。

「お願いだから『シン様』はやめてよ。やりにくかったら『シン君』でもいいからさ。頼むよ」

「……」

 みんな固まっちゃいました。

「セレアはどうする?」

 そう聞くと、口の前に指を一本立ててにっこりと笑います。

 そうだね。内緒にしておいたほうがいいね。


「セレア様!?」

「あの、セレア様はどのように……」

「ご興味のあるものがあったらお教えください!」

「あの、みなさんも私に『セレア様』はやめていただきたいです。私もシン様と同じで、お友達の方々にそのような呼ばれ方はされたくありませんし……」

「セレアさんがシンを、『シン様』って呼ぶのはいいんかい」

 ジャックが突っ込んできます。うん、いいツッコミ。欲しかったツッコミです。

「当たり前でしょ。セレアは僕の婚約者で、友達ってわけじゃないんだから。はいはいはい、そんなわけで今後、僕を『様』付けで呼ぶ人は僕は友達だとは思いませんってことで。よろしくねみんな」

 セレアにシン君って呼んでって言ってもいまさらやってくれないでしょう。

 だったら、最初っからまわりのみんなに、それはそういうもんなんだってこうやって周知させちゃったほうがいいです。

 みんな、上品に笑ってくれましたね。よかった。


「あ――――! いた――――!」


 この空気読まないキンキラ声はアレですな……。入学イベント、まだ続きがあるんかい。

 僕を取り囲んだクラスメイトをかき分けてあのピンク頭が顔を出します。入学初日からよそのクラスにずんずん入ってくるこの度胸凄いですね。なかなかできることじゃないと思いますよ?

「さっきは失礼しました! どうしてもお礼が言いたくて」

「どういたしまして。それはもういいよ……。気を付けて帰ってね」

「ありがとうございました! 私ったら、雨が降りそうなのに傘も持ってなくて、びしょぬれになっちゃって、それで倒れちゃったみたいで、本当に申し訳ありませんでした」

 聞いてもいないことを喋りまくるこの押しの強さも健在です。

「物凄い回復力だね。すぐ医者に診てもらったほうがいいよ。その免疫力いろいろ調べてくれると思うよ。じゃ、気を付けてね」

「あの……。これも何かの縁ですし、ぜひお名前を」

「名乗るほどの者じゃございません……。ではご機嫌よろしゅう」


 周りの女子がさすがに呆れます。

「あなた、シン様を知らないの?」

「様やめて」

「このお方はね、もったいなくもこの国の第一王子、シン・ミッドランド様よ。そんなことも知らない人が学園に入学してくるなんて信じられないわ!」

 御令嬢の一人がそんな紹介をしてくれますけど、いろいろ言った後ですんで僕のほうが恥ずかしくなっちゃいます。

「だからそういうのやめて。僕は気にしないからさ」


「王子様だったんですか! 知りませんで、失礼いたしました!」

 目を見開いてびっくりしたあと、ぴょこんと頭を下げて最敬礼。

 絶対知ってたくせに……。

「ダメだなあ私……。いっつもドジばっかりで、天然なんです……」

 しゅんってしちゃうヒロインさんに、女子が全員、うえーって顔してますよ。なんですか天然って。セレアも天然キャラがどうとか言ってましたけど……。


「とにかく学園内ではそういうことでお願いします。さ、セレア、帰ろう」

「はい」

「セレア……、セレア・コレット……様?」

 ヒロインさん、改めてセレアを見てびっくりしますね。

「セレアと申します。様付けはいりませんのでセレアとお呼びください」

 セレアが頭を下げてお辞儀をします。

 顔を上げたセレアを穴が開くほどじろじろと見て驚愕していますね。君の最大のライバルになる悪役令嬢ですからね。保健室で会ってたんじゃないんですか? まあ気絶してたからそうちゃんと見てたりはしてないか。


「……縦ロールじゃない!」

 ごめん。ちょっとなに言ってんのかわかんない。




 なんだかんだでやっと解放されて二人で迎えの馬車に乗ります。

「いやあ凄かったねヒロインさん……」

「はい……。入学イベントも一通り全部やりましたし、お約束にてへぺろに自称天然発言。たった一日で全部ぶち込んできましたね。手ごわいです」

「ねえセレア、『天然』ってなに?」

「うーん、説明が難しいです。本来『天然ボケ』っていうのが元で、普通の人と価値観がズレている、場違いな発言しちゃう、物事の優先順位がおかしい人のことを言うんですが……」

「それを自分で言う人をどう思う?」

 怪談劇(ホラー)みたいなすごい顔して胸の前でバッテン作ってます。セレアのやることは時々元ネタが僕には不明なので困ります。

「あり得ませんね。本物の『天然』ってのは、自分では自分が天然だってことは絶対にわかりませんから」


 ……なんだかなあ。要するに自分を可愛く見せるあざとい演技ってことですか。


「てへぺろってなに?」

 セレアがてへって目をぎゅっとつぶって、自分の頭をこつんとやり、舌をぺろっと出しました。

 物凄い破壊力です「てへぺろ」。ちょっと信じられませんでしたね、この僕がセレアを叩きたくなるなんて。




次回「37.バカ担当」

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[気になる点] 王族は名前が短くなるのなら、サランじゃなくてサラのほうが良くないですか?
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