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27.気まずい再会


 セレアが買ってきたハンバーガーの袋とお茶のカップを受け取ります。

 袋を覗いてみるとちゃんと少しずつかじってあるんですよ。毒見してくれてるんです。嬉しいですよねこういう心遣い。


 カフェテラスも席が満席でして、しかたないので僕らは聖堂につながる石段にみんなと一緒になって座って昼食です。ジャックはどこからか買ってきた串焼き肉とサンドイッチばくばく食ってますが。

 女の子たちは二人で珍しい焼き菓子だのキャンデーだのお菓子に夢中なようで。

 ジャックがそれを見て、ぼそっと言います。

「……お前さあ、親が勝手に決めた婚約者がいて、将来の結婚相手がもう決まっちゃってるって、どう思う?」

「うらやましいご身分だと思うね」

「これだからガキは……。人の苦労も知らないでさ」

 ふーとため息をつくジャックに笑いそうになります。

「子爵様の御子息ともあろう方が、どんな苦労してるのか興味あるなあ」

 そう言われて、ジャックが頭を掻きますね。


「わりい、その日の食うものにも困るような子供がまだまだいっぱいいるってのによ、俺の苦労なんて確かにお笑いだな……」

「僕は孤児や病院の子供たちをいっぱい面倒見てきたからね」

「すまん」

 そう言ってセレアを見ます。

「シン、お前、あの彼女のことが好きか?」

「大好きだよ」

「……そう言えるお前の事スゲエと思うわ。将来結婚しようとか考えてる?」

「もちろんそうするよ」

 実はもうしちゃってますけどね。


「……俺、ちょっとそういうの、いいなって思っちゃうな」

 ほー、けっこうロマンチストなんだジャック様。


「普通に出会って、普通に恋して、普通に恋愛したりとか、そういう経験ナシでいきなり結婚しちゃうって、なんか人生損してるような気がしねえか?」

「片思いにもんもんとしたり、告白して恥をかいたり、振られて落ち込んだりしなくていいから人生得してるんじゃないかと思うけど?」

「なんだそのドライな恋愛観……。お前は彼女とラブラブだからそんなことが言えんだよ!」

 そう言って僕の頭を小突いてきます。まー、確かに、シュリーガンだったら「爆発しろやあああああああ!」って叫んでるかも。


「あーわかった。要するに恥ずかしいんだ。照れくさくてダメなんでしょ」

「……それもある。だけどな、この先もっといい女とか、かわいい女に出会えるかもしれないじゃないか!」

「男ってやーねー。ハーレム願望でもあるのかしら?」

「いきなりなんなんだよお前……。気持ち悪いわ」

 ダンスの先生の口調、出ちゃいました。

「あっはっはっは。でもさあ何が不満なわけ? シルファさん可愛いし、なによりジャック、ちゃんと好かれてるじゃない。いい子だと思うけど?」

「まあお前の地味そうな彼女よりはな」

「……もういっぺん言ってみろや」

 そう言ってジャックの頭を小突きます。

「わりい、今の失言。ごめん、いやマジごめん」

 ジャックが頭を掻いて謝ります。


「セレアさん、素直そうで、一見地味だけどかわいいよな。優しそうだし、お前が惚れるのもわかるわ」

「一見地味は余計だよ。手出さないでよ?」

「出さないって……。その、なんちゅうか、シルファもいい子なのはわかるんだけどよ、その、付き合ってて、子爵と男爵、貴族どうしの付き合いって感じって、どーしてもそうなっちゃうんだよな」

「ほー」

「壁があるって言うか、一歩踏み込んでこないというか、婚約者だから仕方なくそうしてるんじゃないかって、俺は思っちゃうんだよ……」

 ……なるほどねえ。


「ハルファに輿入れしたサラン殿下、知ってる?」

「知ってる知ってる。王女様。大国ハルファの王子様と結婚したとか」

「結婚して二年だけど、今はもう子供が一人いて、二人目がお腹にいるの」

「へえ――――! ラブラブだな!」

 姉上の、「ハルファの国をミッドランドの血で染めてやる」計画、着々と進行中です。

「サラン殿下は結婚するまで相手の顔も覚えてなかったそうだよ」

「ウソだろ……」

 ジャック、驚愕ですね。


「政略結婚か、恋愛結婚かなんて大した問題じゃないよ。大事なのは出会ってからってこと。恋愛ってのは一人でするんじゃないの。二人で根気よく育てていかなきゃ。もう少し彼女のこと、大事にして、好きになろうよ。結婚するまでまだ何年もあるんだからさ」

「……それもいいな」

「だいたい今いる婚約者にも好きになってもらえない男が、婚約者よりもっとかわいい女の子に出会ったからって好きになってもらえるもんかい。僕はそう思うね」

「ちげえねえや」


 お昼を食べ終わってから、ジャックがシルファさんに手を差し出します。

「あの……、はぐれると面倒だからさ、手」

「……はい!」

 シルファさん、びっくりしてましたけど、恥ずかしそうに手を出してつなぎ、ジャックが引っ張ってシルファさんを立たせました。



「お前さあ、うちの領来ないか? 雇ってやるよ。うちで勉強すればきっといい役人になる。俺の右腕にしてやるぞ」

 夕方、ジャックに別れ際にそんなことを言われました。

「ヤダよ。僕は王都に仕事もあるし、セレアと別れる気もないし」

「そりゃそうか。惜しいなあ……。ま、俺のこと覚えといてくれ」

「はいはい。どうせまた会うことになるんでしょ」

「きっとだぞ」

 そう言って握手します。



 翌日の、諸侯会議の打ち上げパーティーで、また会いました。

 いやあバツが悪い悪い……。国王陛下の前に、セレアをエスコートして会場に入りましたが、ジャックとシルファさん二人、口あんぐりでこっち見てましたね。

 一通り関係者との挨拶が終わって、二人の元に行くと、もう最敬礼で頭下げてきます。

「こ、この、このほどは、まこと、殿下とは知りませんで! 失礼の数々! なんとお詫びしてよいものか!」

「やめてよ。そんなのわかるわけないんだし、いつもの通りでいいよ」

「わ、わ、わたくしもセレアさん……セレア様のこと気付きませんで、重ね重ねの失礼を」

「頭を上げてください。黙ってた私たちが悪いんです。ごめんなさい」

「ちょっとちょっとちょっと、まずベランダに行こうよ。目立ちすぎるって!」


 二人を引っ張って、ベランダに行きます。

「ほら、気にしないで。僕ら友達でしょ」

「……気付くべきでした。後から思い出してみればヒントはいくらでもあったんです。考えてみれば殿下は最初から最後までずっと王子として発言していました。おかしいと思うべきでした」

「わたくしもです……」

「いいからさ。いまさらそういう喋り方やめて。さ、公私は分ける!」


 二人、ようやく顔を上げてくれます。

「これからもシンでいいし、お前でもてめえでも何でもいいよ。(おおやけ)の場でなけりゃ今まで通りで頼むよジャック。同い年じゃない」

「シルファさんも。これまで通り、私のことはセレアでお願いします」

「は、はあ……」

 まあすぐには無理かな。


「二人、フローラ学園に来るよね」

「はい」

「だったら学園では僕らと仲良くしてよ。今から頼んどくよ」

「はい」

「ハイじゃなくて! そこは『いいぜ』で!」

「わかった……。じゃねえ、いいぜ」

「そうそう」

 そう言ってみんなで笑います。二人、ちょっと顔がこわばってますが。


「……殿下は、なんで俺の事許してくれるんで?」

「君、最初は僕の事平民だって威張ってたけど、だんだん僕のこと友達だと認めてくれたじゃない」

「あれは、俺よりずっとデキる奴だと思ったもんで、それで……」

「僕も同じだよ。君たちは身分なんて気にしないでつきあえる友達になれるって、僕は思ったんだ」

「私もそう思います。シルファさんは私の事ずっと同じ女の子だと思って話してくれました。平民の子だって見下さずに」

「……わたくし、殿下の婚約者だとも知らず、いろいろ相談しちゃって……」

 シルファさんが真っ赤です。

「なに相談したの?」

「乙女同士の秘密ですっ!」

 セレアにむくれられちゃって、それ以上追及できませんでした。どうせ、どうやったらジャックともっと仲良くなれるかとか、そんなことでしょ?

 ……あ、そうすると、僕のはずかしい話もいっぱいしちゃったんじゃないのセレア……。


 音楽が変わります。

「さ、ダンスタイムだよ! 行こう!」


 ベランダを出て、セレアの手を引いて、ダンスホールの中に進みます。

 大勢の諸侯、子息子女たちと一緒に、シュトラウツの指揮するワルツに乗って、優雅に、二人で踊ります。もう僕らもちゃんとした大人ダンスですよ。会場からほーっと、感嘆の声がします。

 僕が世界一、セレアを美しく、優雅に見せるリードができるダンスパートナーです。こればっかりは譲れませんて。

 特別なドレスじゃない。シックで目立たず、控えめな少女のセレアですが、この時ばかりは会場の視線を独り占めするパーティーの主人公。そういうダンスを踊らなくっちゃ。ほら、ムーンウォークでつぃーつぃーつぃーつぃーっと!

 会場から、おおおお? ってどよめきが上がりますよ。こういうのは手品と同じなんで、やってみせるのは一日に一回だけってのがコツです。


 そうそう、セレアのスカートもちょっとだけ短くして靴まで見えるスカートにしましたから。御夫人のスカートは普通、ヘタなステップでもバレないように靴が見えないようになっているものです。これが見えるスカートをはくってのは、よっぽどダンスに自信が無いとはけないもんです。


 一曲終わって、他の子供たちと一緒に拍手を受けて会場の皆様にご挨拶。

 二人で壁の花になっているジャックとシルファさんの元に行きます。


「シルファさん、二曲目、ぜひわたくしと」

「そんな……殿下となんて」

「淑女たるもの、紳士に恥をかかせてはいけませんよ?」

「はい……」

 そう言ってシルファさんの手を取ります。


「さあ、ジャック様、乙女に恥をかかせるものではありませんよ?」

「いや俺マジ下手で……」

「気にしませんわ、いらして」

 セレアもジャックの手を引いて中央に進みます。


 すいすいすい、くるくるくる。

 ずんたったー、ずんたったー。あははは!

 セレアにリードされてジャックも何とか様になってますね!


 ダンスはね、ヘタだってカッコ悪くたって、全然かまわないさ!

 楽しければそれでいいんだよ。わかったかい?


 さ、ジャック、シルファさんとも踊ってよ。




次回「28.共同研究者」

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