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26.ダンスタイム


 次はコンサートです。今日は著名な宮廷作曲家のシュトラウツが市民向けにコンサートをやってくれるそうで、僕もセレアも楽しみにしてました。

「ダンス曲かよ……。くだらねー」

 お前本当に腹立つやつだな。ダンスは貴族のたしなみでしょうが。

「ま、お前らみたいな平民にはめったに聞けない曲だろうからな。ありがたく聞いておけ」

 人に連れてきてもらっておいてなんなんでしょうこの態度。

「……ねえシルファさん、こいつダンス踊れるの?」

「はあ……、踊ってくれたことは無いですが」

「苦手なんだ」

「うるせえ」


 宮廷音楽家のシュトラウツはワルツを得意としていまして、宮廷でのパーティーでよく演奏の指揮をしてくれます。王侯貴族しか耳にすることのできない本格的な楽団での演奏を今日は一般市民に公開でやってくれるそうで、貴重な機会です。

 市民が音楽を聴くのは、せいぜいオルゴールか、大道芸人、歌劇の劇場ぐらいですから、こうして多くの市民に曲を聞いてもらうことで、音楽の楽しみを知ってもらえるでしょう。


 いやあ、素晴らしい演奏でした。やっぱりオーケストラの生演奏はいいですね! 市民と一緒に桟敷席(さじきせき)ですが、ジャックが「なんで俺がこんな席……」とブツブツ面倒でして。

 貴賓席なんて予約なしで取れるわけないでしょうが。勝手なやつです。あんな高くて遠い席より、こうして正面の近くで聞ける桟敷席のほうが僕は好きですけどね。


 コンサートが終わって、薄暗くなりかけた街を歩きます。

「いやー、よかったね!」

「はい! 素晴らしかったです!」

 セレアの手を取って歩く僕らの足も自然にスキップしてしまいます。


「たったらん、ら、らんらんらー。たったらん、ら、らんらんらー」

「きゃあ! あはははは!」

 セレアの背に右手を回して、つないだ左手を上げて、くるくるターン!

 そのまま踊りながら街をスキップして、ひらひらひら。

「……お前らほんっと仲いいな。なんなんだよ……」

 ジャックがあきれてますね。せっかくいい気分になってんだから邪魔しないでよ。

「コンサート素敵でした。私も踊りたくなりました」

 シルファさんがニコニコして言いますね。

 ふんふんふんって、鼻歌歌いながらセレアと一曲ワルツを踊り、くるくるって回してから抱き止めます。

「……う、うまいなお前」

「こんなの誰でもできるでしょ。みんな収穫祭でも踊るし、ダンスは庶民のささやかな娯楽だよ。貴族だけのものじゃないってば」

「うるせえ」


「さ、シルファさん、こんなところで出会ったのも何かの縁です。わたくしのような者では相手に不足があるとは思いますが、ぜひ一曲、ごいっしょに」

 そう言って、正式な礼でシルファさんにもダンスを申し込みます。

「お、おい……」

 焦るジャックにかまわず、シルファさんの手を取って、鼻歌、歌って、踊ります。

「あらあらあら……」

 ついてきてくれるベルさんも、シュバルツさんもシュリーガンもあきれちゃいますか。ま、子供のやることですから大目に見て。


 とまどってるシルファさんですが、少しリードしてあげるだけできれいに合わせて歩道の上で踊ってくれます。ワルツですからね、はい、アン・ドゥ・トロワ、アン・ドゥ・トロワ!

「なにやってんだよお前! 俺の婚約者だぞ!」

 シルファさんをくるくるって回して、手を広げて頭を下げます。

「お粗末様でした」

「このやろう……」

「ダンスパーティーなら申し込まれたら誰だってみんなと踊るでしょ。なに腹立ててんの」

「シルファはな、お前なんかが踊っていい相手じゃないんだぞ!」

「だったらちゃんと捕まえておきなよ。他の男に取られないように」


 ジャックが僕をにらみますねえ。ま、勝手にして下さい。

「シン様、ちょっとやりすぎですよ」

「ごめん……」

 セレアに怒られちゃいます。

「なんだお前、彼女には逆らえないのかよ」

「レディファーストです」

「スカしてんなあ。でも大したヤツだよ」

「どうも」

「お前、俺の友達になれ」

 なんなんですかねえコイツ。言うことがいちいち腹立つなあ。


「イヤだよ。命令されてなる友達ってなんだよ。友達ってそういうもんじゃないでしょ?」

「……そうか。それもそうだな」

「まあいいや。セレアも一緒でよかったら。どうですかシルファさん」

「はい、嬉しいです!」

 シルファさんにもいいお返事を頂けました。セレアとも仲良くなってましたもんね、シルファさん。

「次はいつ会える?」

「そうだなあ。明後日から王都で物産市やるから、それでも一緒に見て回ろうか。そこのシュバルツさんに言ってよ。そうしたらシュバルツさんからうちの兄ちゃんに伝わるから、僕にもセレアにもつごうがつくさ」

「お前俺が友達になってやるんだからありがたく思えよ?」

「はいはい」


 そうして、街角でジャック、シルファさん、シュバルツさんと別れ、セレアとベルさんをコレット家別邸に送るためにシュリーガンと四人で街灯の街を歩きます。

「いやあ面白かったですな。あいつらあとでシン様が王子だと知ったら、死にたくなるでしょうけどね」ってシュリーガンが笑います。

「面白いと思うなら内緒にしといてよ? お前すぐなんでもしゃべっちゃうから。シュバルツさんにも口止めしたんだからさ」

「うふふふ!」

 セレアも楽しそうです。


 僕とセレアには共通の悩みがあります。

 友達がいないんですよね……、僕たち。

 知り合う男の子も女の子も、みーんな僕らを王子、婚約者の公爵令嬢って知ってます。

 お茶会もしますし、パーティーで歓談もします。でも本当の友達ってわけじゃなくて、身分を知った上でのわきまえたお付き合いです。

 身分関係なしにツッコミあえる友達っていないんです。まあシュリーガンやベルさんとは今はそんな関係ですけど、この二人は大人ですし。

 ま、セレアとシルファさんはいい友達になれそうです。僕もアイツに付き合ってあげるとしますかね。


「アイツってさ、いつまでいるの?」

「王室の諸侯会議が終わるまでは、ワイルズ子爵も滞在していると思います。一週間ぐらいですかね」とベルさんが教えてくれます。

「その間だけかあ」

「会議が終われば、二人とも領地に帰っちゃうでしょうし。シルファさんはブラーゼス男爵の御令嬢だそうで、ワイルズ子爵領の隣だったと思います」

「あ、帰る前にパーティーがあるよ! そういえば!」

 僕も出なきゃいかんです。うわあ、そこで顔合わせることになるかあ! バレちゃいますね!


「それまでのお付き合いってことになるんすかね」

 そうなっちゃうかあ。

「……まあいいや。また会えるし、その後のことはその後で」

「そうですな。殿下にもそういう友人、いたほうがいいっすね」

 大きなお世話だよ。友達いないことは自覚してるよ僕だって……。



 早速二日後のお誘いでセレアと一緒に出かけます。

 今城下では、諸国の領主が集まっていますので、各領地の特産品を集めた物産市が行われています。国中の名物、工芸品、鉱産品に新型の機械、鉢植えされた野菜などが町中で展示、即売されています。商人たちも集まってあちこちで商談がされ、年に一度の大規模な産業祭りといったところでしょうか。もちろん僕らも視察する予定でしたし、まあちょうどいいでしょう。前回みたいにダブルデートってことで見に行きましょうか。


「よう、また会ったな」

「確かそっちから誘ってきたような」

「お前王都に住んでんだから詳しいだろ。案内しろって言ってんだよ」

「自分が田舎モンだってことは認めるんだ……」

 例によって憎まれ口のたたき合いをする僕らの横で、セレアとシルファさんが再会を喜んで手をタッチしあっています。楽しそうですね。

 人混みが凄いですが、そんな中でもシュリーガンとベルさんとシュバルツさんがちゃんと傍にいます。今日はあんまり邪魔しないように言ってありますが。


「お前はホント面白いな、度胸あるよ」

「そりゃどうも。で、今日はどうしたいの?」

「そりゃあお前、順に全部見ていくに決まってるだろ」

「それは賛成だね」

「賛成ですわ!」

「はい、ごいっしょします」

 シルファさんもセレアも喜んで賛成してくれますね。

「……お前今日も彼女とデートかよ。ヒマなんだな。仕事何してんだよ」

「セレアと一緒に病院と孤児院の使いっ走りをしているよ」

 本当は王子ですけど、まあ今の公務のメインはそれですね。


「病院と孤児院か……。今年の諸侯会議で、国王陛下からの命で、全ての領地に病院と孤児院を設置することが決まったよ。俺の領でもだ」

 これ大変でしたよ。僕らと関係者で資料まとめて、最終的に病院のほうは運営のマニュアル一冊作りました。厚生大臣に四回もダメ出し食らって再提出を繰り返し、納得いくものができるまで三か月かかりました。

「いいことじゃない」

「父上は金がかかるって頭を抱えてたけどな」

「病人が減り、死亡者が少なくなり、寿命も延びて人口も増える。孤児たちも教育を受けて優秀な労働者になる。街からは浮浪児や浮浪者がいなくなる。長い目で見ればお得でしょ?」

「お前大臣みたいなこと言うなあ」

「病院と孤児院で働いていればそれぐらいわかるさ」

「あー、そうだったな。ってお前もしかして元、孤児なのか?」

「いやさすがにそれはないけどさ……」

「兄貴が近衛騎士とか言ってたけどぜんぜん似てなかっただろ」

「大きなお世話だよ」

「……お前も苦労してんのな」

 セレアとシルファさんは機織物(はたおりもの)で華やかな染め物の前でキャッキャウフフしております。やっぱり女の子はおしゃれに興味があるようで。


「ジャックって呼んでいいんだっけ?」

「特別に許す」

「はいはい。ジャックの領地の特産ってなんなのさ」

「乳製品だ。チーズとかバターとかはだいたい俺んとこの産物が国内に流通してるな」

「ほー」

「しかしこうして見ると王都ってなんでもあるな……」

「そりゃ国中の特産品が全部集まってくるからね。今日は特別だし」

「ぼやぼやしてっと今日中に全部回り切れねえ。急ぐぞ!」


 各領地の特産品を集めた物産市、あちこち見て回って、僕も面白かったです。ほんといろんな産物があって、これとこれを組み合わせたらもっといい商売になるとか、これ投資して大規模にやったらいいとか、この機械は導入してどんどん普及させたいとか、ジャックと二人であーだこーだ。どれも興味深いですね。

「なんでお前そんな学あるの?」って不思議がられちゃいました。ちょっとやりすぎましたか。




次回「27.気まずい再会」

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