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21.ファースト・コンタクト


 ひさしぶりに街に出ます。今日は一人です。

 もちろん僕から少し離れて、シュリーガンが護衛をしてくれています。

 王子が誘拐されちゃうなんてことはありませんけどね。僕も平民の、子供の労働者のかっこうをしてますから、さらって金になるような子供には見えんでしょ。


 十一歳の僕が街を歩いてたって、本当は別に危険なことなんてないんです。街に子供たちはいっぱいいますから。主に労働力としてですが。

 治安は良好なんです。市内に人さらい、子供の誘拐なんて事件はここ数年はありません。陛下の治世がうまく行っている証拠です。姉上の残してくれた孤児院経営によって、街に浮浪児は激減しましたし。


 その一方で、学校に行けず、働いている子供がいっぱいいるっていう現実、これも今後、なんとかしていかなければならない大きな課題でしょう。

 セレアの言うように、義務教育を制度化して、子供を全員学校に通わせる。今後数十年かけてやらなければならない政策ですね。裕福な平民が通える私立学校はありますが、学校ごとの教育レベルに差がありすぎるのが現状です。


 オープンしたコンビニ、閑散としています。

 商品の種類が少なく、高めなので、わざわざそんな店で買う人もいませんか。

 まだまだ脅威にはなり得ないようです。


 ……いや、まっぴるまに来てもしょうがないか。この店の売りは「早朝から深夜まで」ですからね。早朝や深夜、他のお店が閉店している時間帯に来ないと、その本当の流行り具合はわからないのかもしれません。

 おそらく発案者であろう、あの子はお店にいませんでした。

 開店の様子、視察ぐらいには来るかと思っていましたが、あの子も忙しいのかもしれません。


 本屋さんに行って、ちょっと恥ずかしいけど恋愛小説を買います。

 僕ねえ、どうもそのへんが、ぼくねんじんぽくってですね、いまいち女の子の気持ちとか読み取れない部分がありまして、それは自覚してます。

 もっとセレアと仲良くなって、イチャイチャしたいんですよ正直言うと。でもどーしたらいいのかよくわかんないんですよね。そこはガキだって言われてもしょうがないです。これはシュリーガンに聞いてもダメですから。アイツ全然モテませんし。


 今人気らしい本を一冊買いました。

 あらすじを見ると、平民の女の子が男爵の落とし子だってことがわかって貴族の学園に入って、そこで、元、平民って差別を受けていじめられながらもたくましく学園生活を送り、伯爵の御子息のハートを射止めちゃうって、なんかどっかで聞いたような話です。

……こんなの面白いのかなあ?


 新しくできた支店のフライドチキン店はおおはやりです。

 こちらも、どうやらあの子はいないようです。お店に入りきれないので、外にテーブルや椅子を置き、ちょっとしたカフェテラスになってます。

 カウンターで注文すると、持ってきてくれるみたいです。僕もフライドチキンと、果実ジュースを注文して席で待ちます。


 うわあ、あま――――い!

 いや本がです!

 パラパラめくると、「愛してるよ……」とか「君の美しい瞳に夜空の星たちが嫉妬している」とか、「君しか見えない……」とか、「優しく抱きしめられてそっと口づけられて」とか、うわあ……って感じのセリフがいっぱいです。

 なんなんですか。こういうのがいいんですか? 僕、セレアにこんなセリフ言わないとダメですか。

「君のことは絶対に僕が守るよ」とか、頭抱えます。僕もセレアに言ったことがある覚えのあるセリフが出てくると、やめてくれ――――! って思いますわ。


「お待たせしました!」

 はっとして前を見ると、あの子です!

 ちっちゃいバスケットに注文したチキンとポテトと、ジュースのカップを持って、あの子が立ってました! 透き通るようなピンクの髪! 白い肌、大きな青い瞳と、凄まじく可愛い顔立ち!


 ……いや、ある程度心の準備はできていましたが、ここで出会うとは。

「……あれ? 君店員じゃないよね。制服着てないし」

 とりあえずとぼけます。

「お店の者です、どうぞご心配なく。どうしたんですか?」

「え、どうしたって?」

「なんか様子がおかしかったので。あはははは!」

 一人で恋愛小説読んでもんもんとしている僕、相当おかしかったかもしれません。大反省です。

 しかし前に出会った時みたいに、急激に彼女に心ひかれる、ということはもう無いですね。ゲームの強制力ってやつは今は感じません。女神様ありがとうございます。セレアと結婚しておいてよかったです。


 僕と同じテーブルで、前の椅子に勝手に座って、自分の分のバスケットとカップも置きます。どうやら僕と一緒に食べるつもりみたいです。

「私もちょうどお昼にしようと思いまして、ついでですし一緒に食べましょう」

 なーんて言って、ものっすごい可愛い笑顔で笑います。ヒロイン(りょく)恐るべし。両肘ついて顔に手を当てて、ちょっと顔を傾けてあざといポーズで僕を見ます。

「あ、その本、今大評判の恋愛小説ですよね! 私も読みました!」

 うあああああああ。これは恥ずかしい!

「いやこれはさ、これから読み始めようってとこで、まだ最初のページも読んでないよ。ちょっとパラパラめくってただけ」

「許されない身分差の恋物語、素敵だと思いました……」なんてうっとり夢見がちな、たまらなくかわいい顔で言いますね。このくるくる変わる多彩な表情が見てて魅力的ではありますが、こうも笑顔の大サービスはどうかと思いますね。ちょっとサービス過剰かな。僕はもうセレアぐらい、控えめなほうが好きになってますからね。


「貴族ってかわいそうだと思います」

「どうして?」

「本当の愛を知らないまま、結婚することになるからです。親に決められた結婚、家と家の政略結婚、そこに愛はないんじゃないかと」

 失礼だな君。政略結婚でも、ちゃんと愛し合ってる御夫婦はいっぱいいますよ。僕とセレアだってそうなんですからね、なんでもいっしょにしないでよ。


「本当に恋した人と、愛を育んで結ばれる結婚のほうが幸せですよねー!」

「……僕もそう思うよ」

「やっぱり!? そう思います!?」

「うん」

「貴族の方にもそういう考えの人がいたらうれしいですよね!」

 何言ってんのこの子?


「……そんなこと言われても、僕にはわかんないよ」

「そうですか? そんな私と大して年も変わらないのに、そんな大人向けの本を読んでるなんて、けっこういい所のお坊ちゃんだったりして!」

 あっそうか、そうなるか。僕みたいな子供が読み書きできるって、この国じゃまだ珍しいかな。


「……君もこれ読んだって言ってたじゃない」

「辞書を引いて、勉強しながらですけどね」

「僕もそうさ」

「そうですかねー……」

 くそ、鋭いな。やっぱり僕が王子だってこと知ってて話しかけてきたとしか思えませんね。このやろう……。

「食べないんですか? おいしいですよー! 当店自慢のフライドチキン!」

 そう言ってむしゃむしゃ、かわいらしく食べます。ジュースの麦わら、咥えて吸い込んで。

「なにこの麦わら」

「ストローです。これで吸い込んで飲むんです。知らないんですか?」

「……僕は普通に飲むよ」

 ジュースを飲むのに、麦わらをツッコんで、それで吸い上げるとか、意味あるのそれ? ちゃんとカップを口に当てて飲めばいいじゃないですかそんなの。

「本当は氷を入れたいんです。冷たくすると美味しいですから」

 氷なんて冬しか手に入らないよ。手に入るころにはもう冷たいものなんて誰も飲みたくないと思うよ? 氷を作る方法かあ。氷を使う魔法使いもいるけどね、そんな人、こんな大衆店でバイトで雇えないでしょ。とてもな話、今は無理じゃないのソレ。


 そうしてると、いきなり空いてる席にどかっとシュリーガンが座り込みます!

「お待たせ、弟よ。ほい、お前の分」

 そうして開いた紙袋とジュースを僕に寄こし、僕の分は自分に寄せちゃいます。

 ああそうか、毒見が必要なんでしたっけね僕は。


 あの子、もっのすごく怖い顔の男がいきなり乱入してきてビビリまくりですね!

 僕も遠慮なくシュリーガンがかじったあとのあるチキン、食べます。

「ご、ご、ご、御兄弟の、その、お兄様の方ですか?」

「そうだよ?」

「似てなさすぎだと思うんですけど……」

「失礼だな嬢ちゃん。どっからどうみても兄弟だろ、ほら、顔だってそっくりだし」

 僕の肩を抱くなシュリーガン。近い近い近い顔が!

「は、はあ……、失礼しました」


 そのあと、全員無言で食べ続けます……。

 シュリーガン、いるだけで凄まじい威圧感です。

「ご馳走様でした……」

 そう言って食べ終わったあの子が、そそくさと席を立って、お店に戻っちゃいました。


「いやあ助かったよ兄ちゃん」

「そんなこと言われたの初めてですな。俺と一緒に食うと飯がマズくなるってヤツのほうが断然多いですがね」

「それを面と向かってお前に言うやつがいるってのが驚きだよ」

「そりゃあ付き合ってみれば俺がいいヤツだってのは誰でもわかるでしょ」

 ……わかるかなあソレ。ベルさんはわかってるみたいですけど。

 シュリーガンにはそんなこと平気で言いあえる友達がいるってことですね。なんかそれ、うらやましいな。


「今の女の子、なんなんです?」

「フライドチキンの店の子」

「いいなあ弟、モテモテで。ほっといても女の子が寄ってくるんですな」

「そんなの迷惑でしかないよ。僕、もう奥さんいるんだから」

「もったいねえ……。殿下ならハーレムも作り放題でしょうに」

 お前なあ、そんなの何人もいたってしょうがないじゃない?


「読むんだったらこういう本もいいですぜ!」

 そう言って本を一冊出して前に置きます。

「めっちゃ強い冒険者が女を次々にパーティーに入れてハーレム作ってモテモテってやつでさあ!」

 願望丸出しだねシュリーガン。


「……僕はお前が本を読むんだってことにビックリだよ……」

「なにを失礼な」

 はいはい。読むものはもっと選んだほうがいいよシュリーガン。そんなの読んでるとベルさんに嫌われちゃうよ?




次回「22.それぞれの恋愛観」

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― 新着の感想 ―
[一言] シュリーガンにはつくづくシールをぺたぺたしてあげたい(ご褒美)
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