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Side-B 【温度差のあるキス】

 学内カップルが羨ましい。生協で人目を構わずイチャつくカップルを見て心の中で舌打ちをする。そう思わざる得ない日々が続いている。10月に悠人の誕生日祝いをして以来、12月に誕生日を迎える事を自分でも忘れるぐらい研究が忙しかった。メールも届くばかりでなかなか返信が出来なかった。溜まっていくメールを夜中に携帯ではなくPC宛に返していく。メールは次第に何も言うことなく減っていった。自然消滅。縁起でもない言葉が浮かぶ。春から修士課程に進む。配属が決定している研究室は不夜城で有名だ。今でも忙しいのに更に研究が大変になると予想される恋愛の事を全く考えずに選んだ進路を恨めしく思う。寝不足の頭ではマイナスの事ばかりしか考えられない。暖かくて柔らかい布団で寝たい。ゆっくりお風呂に浸かりたい。悠人の事を考えられなかった。自分の事だけで精一杯だった。


 何度目の夜を研究室で迎えたのか分からなくなった朝に携帯が短く震えた。悠人からだった。慌てて研究室の外に出る。懐かしい声が電話越しに響く。用件を急いで聞く。悠人は実習工場に向かう事を指示した。研究室生にそっと外に出る事を告げる。声が電話越しではなく近くに聞こえる。実習工場に向うと声はさらに大きく聞こえる。幻聴かと思ったら目の前に携帯電話を持った悠人がいた。「陣中見舞いだよ」と左手の薬指に私とお揃いの指輪をはめた人が現れた。愛想を尽かされたと思ったので嬉しさは言いつくせない。思わず涙が零れる。悠人が驚く。悠人は涙をそっと拭き取り、外に出る事を促した。パソコンをずっと眺めている充血をした目に作業服姿を見られて恥ずかしかったが喜びが勝った。頭をくしゃくしゃに撫でられ、悠人はいつももより荒っぽいキスをした。その乱暴なキスは会えなかった分だけ熱いような気がした。思わず涙がまた零れた。何も言うことなく、強く抱きしめられた。温かい体温と心臓の鼓動を感じる。どれだけの間、抱きしめられたのだろうか。「知世さん。誕生日おめでとう。」抱きしめられながら誕生日を告げられた。


 彼からのキスにいつもとは違う温度差を感じた理由にやっと気づいた。メールが一週間も前から途切れ、携帯に電話をしてもドライブモードの乾燥した言葉が響くばかりだった事。最後のメールの返信を昼になるまで待てずに始発で学校まで来たことを彼は泣きそうな声で言い続けた。忙しさに任せて、辛い思いをさせていた事を後悔した。別れを切り出されても仕方がない状況の中、悠人はこれからも待っている事を選択してくれた。悠人はさっきまでの荒っぽいキスではなくいつもの甘くて優しいキスを残していった。待たす事の辛さを文字通り痛感させられた小雪が舞い始めた冷たい朝だった。

FIN.


投稿強化週間となっております。

投稿をしている現在では梅雨が近づいていますが、物語はこれから冬になり春で終わります。

知世さんと悠人は材料力学系の研究を行っているため梅雨の時期でも実験棟で実験や研究室でプログラミングができるのが高専時代には生態系保全のフィールドワークを主体に研究をしていた私には羨ましい限りです。その分、大学学部時代はガッツリプログラミングを利用した研究をしました。天候に左右されない分、不夜城になりやすいのが欠点でした。当時は辛かったですが今となっては良い思い出です。本日はもう一話お付き合いして下さい。


2017年5月16日 長谷川真美


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