Side-B【君からのキス】
夏の終りは君がいる。君との二回目の夏が過ぎていく。君と一緒にいられるだけで嬉しい。たとえそれが勉強だったとしても。私と付き合ったからといって学業が疎かになったらそれは許せない。だからこそ心を鬼にして接する。幸いな事に悠人の大学の課題は私の専門分野の有限要素法だった。教えていくうちに数学の世界に連れて行かれた。好きな物事に周りを忘れて没頭する癖はなかなか直せない。ありがたい事に悠人もその傾向があるため受け入れてくれている。好きな人と好きな物に没頭できる贅沢を悠人は教えてくれた。それを悠人は分かっていない。無意識だからこそ与えられる事ができる幸福の一つかもしれないのであえて言わない。勉強会は明日で最後だ。二人で会っている時間はあっという間に過ぎていく。1日の終わりにいつものメールをする。明日の勉強範囲を眺めて眠りにつく。
朝8時に悠人を学校の最寄り駅に車で迎えに行く。駅から学校までのバスは一時間に二本しかない。悠人は免許を持っているがペーパードライバーだ。運転は好きなので支障はない。運転しなれた道を走る。駅に着くと悠人が待っていた。以前、悠人を待たせてばかりで申し訳ないと思い時間に関する考えを聞いたが基本五分前には着いていると言っていた。合わせようとしたら悠人は笑いながら私が定時の五分前に着たらその五分前には着くようになるから変えなくてもよいと言った。お互い挨拶をして学校に向う。実験棟に車を横付けして研究室のドアを開ける。先生と研究関係者がいた。先生から用事を頼まれない内に図書館に逃げ込む。図書館の自習スペースは隣り合わせの席は空いていなかった。そのため背中合わせの席に座った。時間潰しにバックに入っていた輪講で使う論文を読む。気がついたら悠人が後ろにいた。とっさに振り向く。すると、キスが待っていた。軽く静止をするが止まる事なくキスは続く。慣れない姿勢に体が震える。君からのキスはいつも不意打ちだ。開いた窓からは風がそよぐ。長い光が差し込む。自習コーナーには人はいなくなっていた。悠人の肩にアキアカネが止まる。手で捕まえ外に返す。勉強は終わった。だが名残惜しかったのでドライブに誘う。答えは嬉しそうな笑顔だった。
ドライブの終着点は学校の近くの海にした。海水浴シーズンは終わったので海岸は二人きりだった。自販機で缶コーヒーを買い階段に並んで座る。秋の初めの海風が顔を撫でる。しばらく波を見つめる。うち寄せては返す波の運動。その月と連動しているいつから始まったかわからない運動はいつまでも続いていく。隣りに座っている悠人にふと体を任せる。悠人の体温と早鐘になっている心臓の音を感じる。交わす言葉はなかった。どちらから始まったか分からないキスをする。頭をそっと撫でられる。時間が止まる。悠人がどこか不安げな顔をしていたのでキスで答える。そのキスにまた君からのキスが待っていた。君から始まったキスは君がいつも終わらせる。それが二人の約束だった。FIN.
公私共に忙しく最終更新から一ヶ月近く経ってしまいました。
更新が遅れて大変申し訳ございませんでした。
更新ができるほどには回復しました。
今度こそ定期的に更新できるよう頑張ります!!
2017年5月16日 長谷川真美