【薬指にキス】
本作品を書く上で支えになったサイト様です。素敵なお題をありがとうございました。
サイト名:恋したくなるお題(配布) 管理人:ひなた様
http://hinata.chips.jp/
Side-B
博士課程を修了して海外ポスドクの職に就いた。気づいたら30を目前にしていた。一時帰国した時に学生時代からずっと付き合っている地方公務員という手堅い職に就いた悠人からプロポーズをされた。「結婚しても知世さんから研究は取りません。なので結婚して下さい。」ようやく着慣れ始めたスーツ姿の悠人の手は震えていた。その震えた手をゆっくり握りプロポーズの言葉を受け止めた。22歳の時からつけ始めたペアリングを外し、一粒のダイヤが輝く指輪をはめる。二人で宝飾店でチェーンを買い、長年つけていたペアリングをネックレスにした。「これからはずっと一緒だよ。」悠人は耳元で囁きそっと薬指にキスをした。キスはいつも悠人からだ。それだけは変わらなかった。
Side-A
何もできない自分がもどかしい。分娩台で想像できないような痛みと戦っている知世さんに思いを馳せる。切断されたくないと言って渡された結婚指輪を握りしめる。朝の5時32分。産声が聞こえた。助産師さんが「女の子です」と告げた。真っ先に知世さんに向う。「頑張ったね。ありがとう。お疲れ様。」疲れ切った知世さんは微かに笑う。薬指に指輪の代わりにそっと口付ける。名前は二人で考えた。「花織」花を織った様な美しい娘になるように。二人の日常は三人に変化する。職場の机の上に家族三人で撮った写真を飾る。冷やかされても気にしない。大切な人達なのだから。FIN.
最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
無事に着地できて良かったです。
この作品は私の学生時代が詰まっています。
無数にある選択肢の中で同じものを選択した者同士に抱く感情はときには恋愛になります。
その恋愛はかけがえのないものです。
過ぎ去ったものは淡く、いつかは消えていきます。
降り続ける雨は無いように。
喜びも悲しみも糧になる。
一つの恋愛が終わる度に永遠を焦がれる。
永遠は無いというのに。
観覧車は光をまとい回り続ける。
それが日常だから。
この作品のスピンオフがあと数話残っています。
またお会いできることを心待ちにしております。
2017年5月17日 長谷川真美