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イメチェンしたから出会いを下さい

作者: 真田 蒼生

中学3年の時だった。


『ごめんなさい』


前から思いを寄せていた女子に告白し、ひどく怯えながら断られたのは。

振られるのはいい。だがなぜ怯える。不審に思った俺は、彼女に尋ねた。


『ご、ごめんなさい……あなたは……こわいんです。……ごめんなさい!』


最後にもう一度謝罪し、彼女はたまらずその場を走り去ってしまった。

ショックを受けながらも、俺はそのまま帰宅し、家の鏡で、自身の姿を確認した。

180㎝ちょっとの身長は威圧感を持ち、髪は金色に染め、ワックスを使って立たせている。来ている服は着崩し、顔は整ってはいるが、目つきは鋭く、いつもにらんでいるようだと家族にも言われる。外面だけならまだ救いようはあったが、当時の俺は内面もはっちゃけていた。教師には反抗し、喧嘩はする。近所では筋金入りのヤンキーと認識されていた。

なるほどこれでは怯えられても仕方がない。そして、好きな子に怯えられたことは、俺が決意するには十分だった。


ワイルド系(ヤンキー)がだめならクール系(がり勉君)になってやる!』


そんなおかしな決意をするあたり、思っていたより受けたショックはデカかったようだ。

そうして俺、八雲やくも 雅貴まさちかは、大規模なイメチェンを開始した。


ーーーーー


終業のチャイムが鳴り響き、通っている高校の一日が終わりを告げる。


「うぁー……やっと終わった。マサは今日の授業はわかった?」


そう尋ねてくるのは、向かいの席のクラスメイトである、主人公だ。……いや、ほんとに主人公って名前なわけじゃないぞ? 名前は確か……匂坂こうさか 大和やまとだ。すらっとした長身に甘いマスクと、学校中の女子の人気と男子の嫉妬を集めている奴だ。それでいて周りにかわいい女子たちが集まってくるのだからどこぞのゲームの主人公と呼んでも差し支えがない。


「当たり前だろう」


とりあえず聞かれたことに返答しておく。


「本当に? いや……マサはやっぱりすごいなぁ」


大和は感心したように言ってくる。ふっ、何をいまさら……。

現在の俺は、髪は黒に染め直して髪型はワックスで七三分けに。目つきはどうしようもなかったので伊達メガネでカバー。制服は一番上のボタンまでピッタリと留めている。見た目は完璧がり勉君だ。そして内面も、猛勉強により成績は学校のトップ3までに上がり、放課後は生徒会で副会長をしている。どこからどう見ても完璧ながり勉君だね。

ヤンキーの友人にはやり過ぎだと言われたが、何事もほどほどではなくやり過ぎくらいがちょうどいいのだ。このあたりの思想はヤンキー時代から変わっていない。


「やっほー大和―」

「兄さん、授業はどうだった?」

「あぁふたりとも……いや、今日も大変だった」


そういいながらこちらへ来たのは幼馴染と妹だ。あ、主人公の……な?

主人公と同じクラスになってからというもの、こいつらは毎日放課後にこの教室にきて主人公と話し込んでいる。それはいいのだが……


「ねぇ、八雲君はどう思う?」

「先輩、どう思います?」


なぜか俺に向けて絡んでくるのだ。しかも片方が俺に尋ねるともう片方もすぐに同じことを聞いてくる。まるで取り合っているように。そのたびに俺は適当な相槌を返しているのだが、次第に両者がにらみ合ったりする。まぁ、こいつらが言いたいことは手に取るように理解している。つまりこういうことだろう?


「それじゃ俺は生徒会に行ってくる」

「えっ……」

「あっ……」

「あぁ、頑張れよ」


主人公と話したいから退けと。そういうことだろう?

なので毎回俺は生徒会を理由にその場から離脱している。なぜかそれであの二人は残念そうな顔をするのだが……まぁ気にするようなことじゃないな。さて、今日も生徒会頑張ろう。



「こんにちわ」

「あぁ八雲君。こんにちわ」


生徒会室に入って、迎えてくれたのは生徒会長だ。挨拶をした後自分の席に着き、仕事に取り掛かる。なになに?


「『在校生の夜遊びについて』?」

「あぁそれ? 最近うちの生徒が夜の街で遊んでて困ってるらしいのよ」

「はぁ……」


まぁこのあたりはゲーセンとか遊ぶとこたくさんあるからなぁ。遊びたくなる気持ちはよくわかる。……だがそこは私服に着替えるとかやってうまくごまかせよ。……あぁ、顔でばれるのかね?


「まぁ生徒会としてはできることはないでしょうね」

「……そうね」


会話はそれで終了し、活動終了の予鈴がなるまで、俺たちは黙々と作業を進めた。



「あー……だっる」


帰宅し、ラフな格好になった俺は、ベッドに寝転んでいた。

中学まで解放感ある服装をしていた俺にとって、髪と服をきっちりとしているのは精神的に疲れるのだ。じゃあやめればいいと言われたら、そうなのだが……目標がある手前やめるわけにはいかないのだ。


「ぜってぇ彼女作ってやる……」


もともとは彼女がほしいためにやり始めた活動だ。なのに彼女ができないままやめてしまっては、これまでの努力の意味がなくなる……え? 素を見せたら別れることになるって? ……聞かなかったことにしとくわ。


「あ、そういえば会長……」


ふと、今日の生徒会のことを思い出した。在校生の夜遊びの話が出た時、会長は何やら思案していた様子。あの会長時々突拍子もないことやりだすからな……自分が直接行って遊んでる生徒に指導とか……ありそう。


「……ま、暇だしな」


なんとなく胸騒ぎがした俺は、自分も街に行ってみることにした。



結果は案の定だった。


「な、なんだお前ら!」

「……っ」

「邪魔くせぇな兄ちゃん。俺らはそのこと遊ぼうとしてんの」

「てかイケメンじゃん。むかつくわ……やっちまおうぜ」


街の中をぶらぶら歩いていると、会長と、なぜか主人公が不良に絡まれていた。主人公はどうでもいいが……まぁあのままほっといたらだめだろうな。


「おいお前ら」

「あぁん?」

「んだおまえ?」


そのまま近づき、声をかける。不良二人は俺の方を向き、威圧してくる。おおぅこの感覚久しぶりだわ。


「いやなに、楽しそうなことしてっから俺も混ぜてもらおうかなってな」

「んだと?」

「うぜぇ、消えろ!」


そういって不良のうちの一人が殴り掛かってくる。俺はそれを受け止める。


「んなっ!?」

「はい正当防衛」

「何を……うがっ!?」


そこからは早かった。中学のころ何度も喧嘩していたから、素手の二人組なんかおそるるに足らず。適当にあしらって追い返してやった。


「さてと……」


俺の方を見て警戒している主人公と会長を見る。まぁ、今の俺は髪はセットなんてせずにバラバラ、服装はラフなモノ、メガネはかけていない。学校の俺とじゃ身長と声以外似てるところないからな。同一人物だろうとは思わんだろう。……まぁ、保険をかけておこう。


「ん」

「な、なんだ?」

「なにって、金だよ金」

「んなっ!」


勝手に助けて金を請求するという下種行為をしておけばこちらを完全な不良だと思うだろう。


「まさか無償で助けてもらえたなんて思わないだろ?」

「お前ーー」

「ーーいいよ匂坂君。それで、いくらですか?」

「会長さん!」


会長が前に出て、請求額を聞いてくる。んーそだなぁ……。


「500円」

「え?」

「ん?」


なんだ? 高いってか? たしかに500円でもぼったくりだとは思うが……これ以上低くすると舐められるし、高くすると良心が痛む。


「えっと……それだけ……ですか?」


会長が恐る恐る聞いてくる。

それだけ……だと?


「お前500円なめんなよ。それ一枚でマクロナルドで昼にセット買えるんだぞ」

「あ、うん……ごめんなさい」

「それに野口とかだったら下手したら帰りにこまんだろが」

「え、あ……それもそうね。じゃあはい、これ」

「毎度あり」


会長から500円玉を受け取り、その場を去ろうとする。


「あ、まって!」

「……なに?」


その途中で会長に呼び止められた。振り向くと、会長は上目遣いでこういってくる。


「貴方、ちょっとこのあたりを案内してくれない?」

「は?」

「さっきみたいなのに絡まれるのもあれだし、頼まれてくれないかしら?」

「いや帰れよ」

「それはいやよ」


即答された。んー……まぁ、500円もらったし、いいか。


「わかった」

「ほんと? ありがとう」


会長は笑顔でそういう。……初対面の不良にこんな対応をしていいのか会長よ。

そして、俺は会長が満足するまで、街を案内させられるのだった。途中で遊んでいる生徒を見つければ、すぐに注意していた。ちなみに主人公は空気だった。

次の日、注意された生徒たちに嫌がらせか。『会長は彼氏がいる』といううわさが流された。本人は顔を真っ赤にするだけで否定はしないらしい。まぁ、主人公のことなんだろうな。一部では不良の男だったって話だが……俺そこまで会長と話してないし。



「あぁ、だからお前遅刻したのか」

「そうなんだよ……いやぁ焦った」


寝坊が理由で遅刻してきた主人公と話をしながら、今日の授業の復習をする。もう少しすればまた幼馴染と妹が来ることだろう。主人公ばかり女子とフラグ立てやがって……。

あーあ、せっかくのイメチェンが全く意味を成してくれない……。だれか、出会いを下さい。

想い

妹、幼馴染→メガネ雅貴

会長→ヤンキー雅貴

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― 新着の感想 ―
[一言] にもかかわらず、好きな人がいる今日この頃。 懲りないなぁ……。
[一言] 俺も彼女ほしい……(中学時代三連敗)
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