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「――おい!この居酒屋は害虫にも酒を飲ませるのか!」




全員が揃い乾杯し、2~3杯目を楽しく飲んでいた中。


離れた席から、半笑いでバカにしたように怒鳴る男。


シンとなる店内。


集まる視線。


固まる体。




(そうだ、…僕。…僕は、害虫だ…)




「おっ!ほんとだー!害虫がビール飲んでる~!」


怒りよりも後悔や情けなさが一気に脳裏をぐるぐるとよぎる中、明るい声が店内に響く。


パッと目を向けると、さっきの発言をした人間の頭を酔っぱらった先輩が陽気にペチペチと叩いていた。


『せん…ぱい…?』



「――ナニすんだこの女ァー!」


男が先輩に向けて手を上げようとする。

さっきまで固まっていたのが嘘のように、咄嗟に動く体。

俊敏さは人間に負けない。

先回りし、糸でくるくると男を巻く。

4本の腕で大事に先輩を抱き留める。


この間、3秒。


場が凍っている中、森野君がスタスタと動けない男に近付き、懐から名刺を取り出す。


「えーと…○○社の…営業さんかぁ。ストレス溜まってんだろうけど、公の場で大手の営業さんがあんな発言しちゃダメだよなぁー。」


店内に響くような大声で森野君がそう告げると、慌てて逃げるように男とその連れが店を出ていった。



――…パチ…パチ……パチパチパチパチ


気付けば、先輩と先輩を抱き留めた僕、森野君に向けて店内のお客さんと同僚たちから拍手が送られていた。


それから正気に戻り、未だ腕の中だった先輩を離し謝り倒し、あまり話した事のない同僚達から褒められ引っ張りだこにされ、あっという間に打ち上げは終わった。




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