表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホーネット町田です

作者: ザクザク

25歳、会社員の哲夫は、今日も深夜残業を終えて帰宅した。疲れきった哲夫は、すぐに眠りにつく。

 哲夫は、寝る時にラジオを小さくつけておく癖があった。流れるラジオの音を聞き流していると、眠りに入りやすかった。

 次の日の朝、哲夫は車の大きなエンジン音で、目が覚めた。外を通る車が、空ぶかしをしたのだろう。うるさいな、と思いながら、しぶしぶ目を開けた。

 すると目の前には、哲夫の家のすぐそばの町並みが広がっていた。哲夫の視界は、道路をふらふらと漂っている。いったい何がおきたのだろうか。

 哲夫はもがいたが、体が動かない。というより、自分の体は無く、視界だけが空中をゆっくり漂っている感じだ。

「なんだこりゃ! 助けて!」

 哲夫は叫ぶが、声も出ない。ただ、ゆっくりと自分の視界が風に流されるように、漂って行くだけである。

 視界が、近所の家の前にさしかかった。

「ワン! ワン!」

 その家で飼われている犬が、哲夫にむかって吠えてきた。と、同時に哲夫の視界は、犬から急激に離れて行った。哲夫の周りにワンワンという音がこだましている。まるで犬の吠え声に吹き飛ばされたようであった。

 哲夫が、そのまま漂っていると一台のバイクが走ってくるのが見えた。バイクは、哲夫に向かってつっこんでくる。

 ぶつかる! と思ったが、バイクは哲夫を擦りぬけて走り去ってしまった。

 その代わり、哲夫の視界は「ブルルル……」というバイクの音と共に、道路を進み出した。

 哲夫の周りには、バイクの音が響き、だんだんと小さくなっていくのだった。

 今度は、車が走ってきた。今度も車にぶつかりそうになったが、車は哲夫を擦りぬけて、走り去った。哲夫は、「ブロロロ……」という車の音と一緒に、道を進んで行く。

――もしや……?

 哲夫は、同じような事を繰り返しているうちに、一つの可能性を思いついていた。

 それは突拍子のないことだった。

 だが、哲夫の身に起きている状況からすると、それが一番、正しい事のように思えた。

 哲夫は、寝ている間に、別の物になってしまったのではないか?

――俺は、もしかして……

形も無く、目にも見えない、曖昧なもの。

――「音」になっちまったんじゃないか……?

 さまざまな音を発するものに近付くたびに、哲夫は、その音となり、空中を飛んでいるのだ。ピンボールの玉のように、哲夫は様々な音になり、はじかれていく。

 車のエンジン音、クラクション、店先の有線放送、ありとあらゆる音に姿変えて、漂って行く。

 そのうち、哲夫は、通学中の学生二人にぶつかった。

 学生は、歩きながら話をしている。今度は哲夫は、その声になった。そのとき哲夫は、人の声になると、その人物に、哲夫の好きな言葉をしゃべらせられることに気付いた。

 それから、哲夫は、学校につき、いろいろな学生の声になり、「馬鹿」「好きだ」「先生、質問」など、でたらめな事をしゃべらせて、いたずらをした。

 学校が終わると、哲夫は、学生と一緒に電車に乗った。電車で都会につき、恋人の会話や、ヤクザの抗争など、いろいろな場所に紛れ込み、滅茶苦茶なことをたくさんしゃべらせた。

 そのうち、哲夫はテレビ局に辿り着いた。

 芸能人や、ニュースキャスターの声になると、哲夫は、面白がって、奇天烈な発言をしまくった。生放送の番組は大混乱になった。

 さんざんいたずらをして、哲夫は楽しんだが、夜になると辺りは静かになり、物音が余りしなくなった。

 静まり返った街の夜空を、哲夫は漂った。

 このまま、自分は、ずっと音としてさまよい続けるのだろうか。

 そう思うと、哲夫はむなしくなり、眠くなってきた。

空に飛行機の音が響いていた。このまま飛行機と一緒に、遠くの国へ行くのも悪くないな、と思った。

やがて、哲夫の意識は眠りに落ちていった。


ブロロロ……、とバイクの音で目が覚めた。

辺りは、朝で、相変わらず、哲夫は、バイクの音になっていた。

バイクの運転手がバイクを止めた。見ると彼は新聞配達をしている。ガチャンと、ポストに新聞が入れられた。

哲夫は、その音になり、家の方に漂っていく。なんと、そこは哲夫のアパートだった。

(おーい! 俺! 帰って来たぞ!)

 哲夫は、グーグーいびきをかいて寝ている自分の体がある部屋へと漂っていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 音になるという発想は面白かったです。なんか一般読者のくせに申し訳ないですが、まぁいわれてみれば物語の山場を作って読者を引き込べきだと思います。 笑いなり、風刺なり、感動なり、挿入できる可能性…
[一言] 目が覚めたら『音』になっていた、という発想は良かったと思いますが……、小説を通して伝えたいテーマが見えてきませんでした。 音になった。色々やってみた。戻ってきた。ということを目の前で抑揚も無…
[一言] 特に興味を引くところがなかった。
2007/01/19 17:11 通りすがり
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ