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転生したら断罪の場でヤジを飛ばして石を投げるモブ平民だった

公爵令嬢は愛するモブ平民のために歪んだ断罪を用意する

作者: Vou
掲載日:2026/03/26

 彼は少し不機嫌だった。


「このところ、気持ちのいい断罪がないんですよね」


 最近、彼はよくそんなことを言う。


 彼の言う「気持ちのいい」断罪というのが正確にはどういうものかわからなかったが、きっと、観衆の熱気の中で、本当に悪いことをした人に、思いっきりヤジを飛ばしたり、石を投げたいのだろうと思う。

 しかし、実際には、悪いことをしてしまう人の中には、やむにやまれない事情があったり、王都の環境のせいで悪事に手を染めてしまう者も多く、純粋に非難だけされるべき悪人などという者はなかなかいない。


   ※


 公爵令嬢の私が、平民の彼を気にするなんて、王都の人々からすると奇妙に思われるかもしれない。だけど、私はどうしても彼から目が離せない。


 本当なのか知らないけれど、彼は自分のことを転生者だと言う。確かに人とはちょっと違う不思議なスキルを持っている。

 断罪見物が趣味という彼が投げる石は、本当の悪人に向かい、彼が発する罵声は断罪に隠された本当の罪を暴く。彼はそれを「断罪スキル」と呼んでいる。

 私自身もその断罪スキルで冤罪から救われた過去があり、それ以来、彼とは懇意になった。公爵令嬢が平民の男に近づくなど正気の沙汰じゃないだとか、断罪見物が趣味なんて本当にゲスな平民だ、なんてことも言われるけれど、私はまったく気にしなかった。

 「高貴」だと言われる人々なんて、見栄をはって、世辞を言って、心の奥では人の足を引っ張ることしか考えていない。そんなことばかり考えている王侯貴族なんかより、自分の気持ちに従って生きているような彼のほうが、私にはよほど魅力的だった。

 ユウマの求める「本物の」悪人がいるとすれば、王侯貴族の中にこそいるだろう、と思う。



「クローデリア様、聞いていらっしゃいますか?」


 目の前の貴族の男が言う。彼のことを考えていると、つい周りのことを忘れてしまうわ。

 この方は、王国監察院から派遣されてきた人物だったはず。確か……ロラン・アルベール子爵だったかしら。それこそ人の粗探しをして、足を引っ張ることを仕事にしている貴族の一人ね。


「失礼いたしました。何のお話だったかしら?」


 ロランが小さくため息をつく。


「エドワード・ヴァルムント財務卿のご令嬢、ミレイユ様のことです」


「ミレイユ様がどうされました?」


 ミレイユ・ヴァルムント伯爵令嬢……名家で数字に強く、代々財務卿を務めるヴァルムント伯爵家のご令嬢ね。このレーヴェンハイト公爵家とご近所で、家同士の付き合いはあるが、個人としてミレイユとの付き合いはほとんどないので、よくは知らない。


「王政府の税収を横領して、私欲のために使い込んでいるようなのです。何かご存知のことはないかと思いまして」


 ああ、そう。これが王侯貴族というやつなのだわ。私利私欲のために悪事に手を染めて、かと思えば他の貴族がそれを責めて引きずり落とそうとする。魑魅魍魎の住まう社交界——本当に辟易するわ。


 このロランも私が他の貴族を蹴落そうとすることを期待して聴き取りに来ているのね。


「私は何も存じませんわ」


 私がはっきりそう答えると、ロランは拍子抜けしたような顔で私を見る。()()()貴族であれば、噂話も含めてあることないこと吹聴するのでしょうけれど、残念ながら私にはそんな趣味はないの。


「ちょっとした噂話のようなことでもいいんです。少しでも手がかりが欲しいのです」


 ロランが食い下がる。


「なぜそこまでして人の粗を探したがるのかしら?」


 つい口からそんな言葉が出てしまった。

 ロランは一瞬怯んだ顔をしたが、すぐに真剣な表情になった。


「クローデリア様、もし私の態度で気を悪くされたのなら、申し訳ございません。しかし、王国監察院は王侯貴族の不正を暴くことを目的としています。王国民から税を受け取っている以上、信頼される王政府であり続けるために、そして王国をより良い場所にするために、我々は不正を正そうとしているのです。どうかそのことはご理解いただきたい」


 おや、この方は他の王侯貴族とは少し違うのかしら。


「わかりました。それならお手伝いできるかもしれません。もう少し詳細をお伺いできますか?」


 せっかくだから私もこの機会を利用させていただこうかしら。


   ※


「ユウマ、断罪の機会があるかもしれないわ」


 「ユウマ」というのが彼の名前だ。転生者らしい不思議な名前だが、私はその名前の響きが好きだ。


「断罪ですか? どんな断罪なんです?」


 ユウマが目を輝かせて尋ねてくる。


「王政府の税収を横領している貴族がいるようなのよ」


「王国民の血税を横領するとは許せないですね。そのお金を使ってどんな悪いことをしているのですか?」


「聞いた話では、愛人に貢いだり、奴隷を買ったり、気に食わない貴族を人を雇って殺しまでしたということよ。その上、王太子にもお金で取り入って、婚約までこぎつけたらしいわ」


「うわぁ、それはひどいやつですね。あの王太子も婚約者を取っ替え引っ替えひどいですね……」


 私自身も政略結婚で、王太子と婚約していたことがあった。冤罪の私に婚約破棄を突きつけてきて、もう縁は切れてはいるものの、いまだに思い出すと腹が立つこともある。


「断罪はいつなんです?」


「それが、まだ確証がなくて、断罪も決まっていないの」


「そうなんですか……」


 輝いていた彼の目が瞬時に光を失った。


「それで、ユウマのスキルで確認をしてほしいの」


 私がそう言うと、再び彼の目が少し光を取り戻す。


「ああ、そういうことですか。容疑者はわかっているのですか?」


「ええ、ミレイユ・ヴァルムント。伯爵令嬢よ」


   ※


 ヴァルムント伯爵家の屋敷はレーヴェンハイト公爵家の屋敷からは目と鼻の先だった。その近さも、ロランが聴き取りでレーヴェンハイト公爵家にやってきた理由の一つだったのだろう。


 ユウマとともにレーヴェンハイト公爵家の屋敷の庭で、ミレイユが出てくるのを待った。


 公爵家の屋敷では、平民のユウマは少し居心地悪そうにした。私は少し申し訳ない気持ちになりながら、お茶を出したり、他愛もない話をして時間を潰した。


 巻き込んでしまったのも申し訳ないのだけれど、私はユウマと同じ目的に向けて何かをするのが好きだった。

 そして、これはユウマに最高の断罪をプレゼントするためにどうしても必要なことだった。


 ユウマも少しずつ馴染んできて、緊張を緩めてきたころに、ミレイユが姿を現した。


「来たわ」


 ヴァルムント伯爵家から、若い女性の声が公爵家の屋敷にまで届いた。「あの子たちが喜ぶといいんだけど」とかそんなことを口にしている。愛人の子どもに何かプレゼントでもするつもりなのだろう。


 ユウマと私は屋敷の門まで出て様子を見ると、ヴァルムント伯爵家の屋敷の門につけた馬車にミレイユが乗ろうとするところだった。


「ユウマ、スキルをお願い。罪状は『王政府の税収の横領』よ」


 彼のスキルは設定した罪状を犯した犯人に投げた石が当たるというものだ。もし該当する犯人が彼の視認可能な範囲内にいなければ、石はユウマ自身に返ってきてしまう。だから、彼のスキルで犯人を特定したり、罪状を確定させることができるのだ。


 ユウマは頷き、腰に下げた石袋から小石を取り出した。当たっても痛くないように小さく軽い石を選んだようだ。


断罪の石投げ(コンデム・ストーン)


 スキルを発動したユウマの手から小さな石が放たれた。


 石はまっすぐミレイユのほうに向かい、彼女の頭に当たり、こちらを振り返ろうとしたので、私とユウマは顔を引っ込めた。


 そして二人で顔を見合わせ、頷いた。


   ※


 王城前広場の断罪台には、すでに多くの観衆が集まっていた。


 王政府の税収を着服し、私腹を肥やし、悪事に費やす悪人となると、民衆にとっても怒りをぶつけやすい罪人だ。

 ユウマの目も期待に輝いている。その姿を見ると、私はとても幸せな気分になる。


 と、そのとき、人混みに押されて、一人の子どもが倒れているのを、ユウマが後ろから抱き起こし、「気をつけな」と声をかけていた。


「なんで子どもが一人でこんなところに来ているんですかね?」


 まるで自分が子どもを助けたことを気取られないように、子どもを責めるような口調でユウマが言った。その口ぶりとは裏腹に、その後もずっと子どものことを気にかけているようだった。

 彼は自分が善行を人に認められるよりも、下世話なただの平民であることをあえて主張しがちなところがある。


 ミレイユが横領に手を染めていることがはっきりすると、私はそのことをロランに報告した。私の証言に確信を持った彼は直ちに証拠を押さえ、断罪の場が用意されたのだ。すべて私の思惑どおり、ユウマのための「気持ちのいい」断罪が用意された。



 突如、観衆の歓声と怒号が大きくなる。


 今日、ここで断罪される主役のミレイユが断罪台に姿を現したのだ。

 続けて王太子レオンハルトと若き宰相ジークフリートが続いた。王国の規律を脅かすような大きな断罪では、必ず宰相自ら断罪を取り仕切るのだ。

 そして断罪台の裾にはロランを始め、王国監察官と思われる者たちも控えていた。


 断罪の口火を切るのは王太子レオンハルト。


「ミレイユ・ヴァルムント、ここに婚約を破棄する」


 貴族の令嬢の断罪を行う前には、まるで儀式のようにいつもレオンハルトが婚約破棄を行う。


 ミレイユは何も答えず、ただ悔しそうに唇を噛んでいる。


「簡単に婚約したり、破棄したり、ある意味才能なのかもしれないですね」


 ユウマがレオンハルトについて評する。


 私がレオンハルトと婚約してから、何度か話をする機会があったが、賢い方とは言い難かったものの、決して性根の悪い人だとは思わなかった。むしろ、政略的な婚約だったにも関わらず、愛情のようなものを持ってくれていたようにすら思える。

 人をすぐ好きになれるのも、確かに才能なのかもしれない。私は決して王太子のことを好きになることはなく、そのまま冤罪で行われた断罪のついでに婚約破棄されてしまったのだけれど。


 思えば私が男の人を好きになることなどなかった。こんなに気持ちになるのは、ユウマが初めてだった。



 断罪台の上では、ついに断罪の時が来る。


「それから、王政府の税収を横領していたことをここに断罪する!」


 レオンハルトが婚約破棄に続けてそう宣言すると、観衆が一斉に怒号を上げ始める。


 そして真打のジークフリートが前に出て、より罪状を詳細に確認する。


「ミレイユ様、王政府が王国民から徴収した大切な血税を、横領したことをお認めになりますね?」


 ミレイユは黙ったままジークフリートを睨んだ。


「黙秘されるならそれでもけっこうです。王国監察官が証拠も証言も確保しております。否定したところで、残念ながらそれを覆すことはできません」


 ジークフリートの言葉に、有罪を確信した観衆が叫ぶ。「腐敗貴族の贅沢を許すな!」「俺たちの金を返せ!」


 その叫びに呼応するかのように一斉に観衆の怒号が飛び交う。


「罪状は間違いないですし、盛り上がってきましたね! そろそろ俺もやりますよ」


 ユウマが興奮したように言う。とても楽しそうで、私も嬉しい気持ちになる。


断罪の石投げ(コンデム・ストーン)!」


 彼はスキルで石を投げる。罪状をしっかり乗せて石を投げるとより気持ちが昂るようだ。


 石はまっすぐに断罪台に飛んでいく。


 そして石はミレイユに当た……らず、横に立っていたジークフリートの頭に当たった。


「え?」


 ジークフリートが頭を押さえ、ユウマのほうを睨んだ。

 ユウマを見ると、彼も明らかに意図しなかったことに青ざめた顔をしていた。


「どういうことなの? ジークフリート様も横領をしているということ?」


 私はユウマに尋ねる。


「違うんです……。横領ではないんです」


「違う罪状を設定したの?」


「はい、この観衆の怒りにもっと相応しい罪状を……王国民の血税を不正に私欲のために使っているわけですから、『王国民を苦しめる罪』を設定したんです」


「それがジークフリート様に当たるというのはどういうことなのかしら……」


「ヤジも飛ばしてみます」


 ユウマは石投げ以外にも、悪人に的確な罵声を飛ばすスキルを持っており、これにより、真の罪状のヒントを得られる。


「『断罪の罵声(コンデム・シャウト)』! 王政府は税の使い道をちゃんと考えろ!」


 ジークフリート個人を責めているというより、王政府の執務を代表する者としてジークフリートを糾弾しているかのようだ。


 そのユウマの罵声に呼応するかのように、彼の傍にいた子どもが声を上げた。


「ミ、ミレイユ様をいじめないで! わ、悪いのは王国のほうだ」


 ユウマも私も驚いて子どもを見た。それは先ほどユウマが抱き起こした子どもだった。


 すると今度は子どもの声に呼応するように、ミレイユをかばい、王国を糾弾する声が少しずつ広がっていった。


「ミレイユ様は王国に代わってわしらを助けてくれとるんじゃ。責めを負うべきは王国じゃ」


「ミレイユ様は悪人なんかじゃない! 断罪をやめろ! 王国こそ断罪されるべきだ!」


 必ずしも大多数ではなかったが、そんな声がそこかしこで上がり始めた。

 いずれも貧しい身なりをした者たちだった。


 ユウマが最初に声を上げた子どもに尋ねた。


「君はなぜミレイユ様をかばうんだ?」


 子どもは突然声をかけられて驚いたようだったが、意を決したように口を開いた。


「ミレイユ様は僕のお母さんみたいな人なんだ。僕にはお父さんもお母さんもいなくて、誰も僕を助けてなんかくれないけど、ミレイユ様だけが食べ物や毛布もくれるんだ。ミレイユ様は悪い人なんかじゃない」


 そう言って子どもは泣き出した。


「ミレイユ様は王国民を苦しめてなんかいない。苦しんでいる王国民を助けようとして横領していたのかもしれません」


 ユウマが言う。


「そんな……私はなんてことを……」


 ミレイユが悪人ではないなんて……


「クローデリア様は何も悪くありません。ミレイユ様が有罪だとしてしまったのは俺なんですから。それに横領をしていたのは間違いないのですから、それを罰しないのも違うと思います」


 ユウマは私をかばおうとするが、どうしても罪悪感は拭えない。


「でも、俺は思うんです。もしかしたらミレイユ様のことはよく知らないですけれど、貧民の問題を皆に知らせるためにわざと見つかって断罪台に立ったんじゃないかって」


 断罪の会場は騒々しさを増し、ミレイユを擁護する声と、それでも非難する声とが入り混じっていたが、非難の声のほうが優勢だった。


 そのとき、ミレイユが観衆に向けて声を上げた。


「私が王政府の税収を横領したことは認めます。私は甘んじていかなる罰も受けるつもりです」


 その声に、一瞬観衆が静まり、再び怒号が湧き上がった。ミレイユを擁護していた者は沈黙したかのようだった。


「ですが、王侯貴族や裕福な王都民が贅を凝らしている裏で、貧しさや病で苦しんでいる人がいることも覚えておいてください。彼らのために税を正しく使うことを考えてください」


 ミレイユの言葉に再び観衆が静まり返る。ユウマの先ほどの言葉どおりかもしれない、と思った。


 しかしまた観衆から怒声が上がり始める。


「貧民に俺たちの金を横流しするとは何事だ」


「貧民は働かないから貧しくなるのだ。自業自得だ」


 そんな声が多く上がる。


 そこに、断罪台上の意外な人物が前に出てきた。


「困っている王国民がいるのであれば助けよう」


 そう発言したのは、王太子レオンハルトだった。


「ミレイユも悪いことをしたのでないのなら、断罪する必要はないだろう。何ならもう一度婚約するか?」


 そこにジークフリートがすかさずレオンハルトを制する。


「そうはいきません。横領そのものを無罪とするわけにはいきません。唯一、国王陛下だけは恩赦の権限がありますが、失礼ながら、レオンハルト殿下、あなたに恩赦の権限がございません」


「そう言うな、ジークフリート。俺が父上に言えば無罪放免だ」


「殿下、お優しいのはけっこうですが、王国法を軽々しく扱えば規律が……」


「難しいことはもういい。とりあえず、この場は赦してやれ」


 ジークフリートは諦めたようにため息をついた。王国法では、王太子は宰相よりも強い権限を持つ。ジークフリートもまた王国法に縛られる。


「……わかりました。今回ばかりは私の負けです。それでもミレイユ様が横領したことは見逃すことはできません。横領が起こらないような仕組みの整備を検討いたしましょう。そして、我々も今一度、税の使い方を見直しましょう。例えば王家の贅沢を減らし、救護院や孤児院に予算を回すなど、いろいろと改善の余地はあるかと思います」


 レオンハルトは一瞬たじろぐ。


「ま、まあ多少は無駄遣いもやめよう」


 そう言って改めてミレイユに向き直る。


「よかったな、ミレイユ。では改めて婚約をしようではないか」


「……贅沢をやめて、貧しい人々を助けてくださるのでしたら喜んで」


 王太子レオンハルトは顔を引きつらせて言葉を詰まらせた。



 王城前広場には大きな歓声が上がった。

 白けたような顔で広場を去る者も多かったが、その歓声には勝てなかったようだ。


   ※


「何だか全部仕組まれていたんじゃないかと思います。税の横領が許されるなんて信じられないですよ」


 そう言いながら、ユウマは笑みを浮かべていた。


 ひょっとしたら、ロランもジークフリートもすべての計画に携わっていたのかもしれない。いつも冷徹な断罪を行うジークフリートが、あんなにあっさりと横領を見逃すのは違和感がある。

 少しでも王国をよくしようと考える人々がそれぞれ役割を果たした、というところだろうか。

 場合によってはあのレオンハルトも……いや、それはないわね。王太子は彼らに利用されただけ。

 利用されたのは私もユウマもだけれど……


 考えに耽っていた私に、ユウマが言う。


「何だかすっきりしない断罪でしたけれど、気分は悪くないですね。『高貴な』人々の中には、心まで高貴な方もいるってわかりましたし」


 王侯貴族は、見栄っ張りの下らない人間ばかりだと思っていた私に、その言葉は大きな衝撃だった。


「クローデリア様みたいにね」


 ユウマの口から続けて出たその言葉に、私はさらに面食らってしまう。


「私?」


「そうですよ。俺みたいな小汚いモブ平民なんかにも親切にしてくださるなんて、心が高貴すぎますって」


 ……それは違う。私も薄汚い心を持った多くの貴族側の人間なの。あなたが私にとって特別なだけ。


「それにしても、横領は絶対だめですけれど、良い行いをしようとしている人が悪いことをしないといけないなんてひどいですよね。そもそも隠れて善行を行わないといけないなんて」


 あなた自身もそうよね。見ず知らずの子どもに手を差し出したり、奴隷の子に隠れて食べ物をあげたりしているのも私は知っている。


 この人は、目立たないところから人を断罪して喜ぶより、誰にも知られず人を助けることを優先する人なんだ。人の悪い側面より良い側面にばかり目がいってしまうから、本物の悪人の、本当に「気持ちのいい」断罪なんて、この人にはなかなか見つけられないのだわ。


 たぶん私だけが、彼のそんなところを知っている。ユウマ本人もきっと気づいていない。それはちょっとした優越感のようなものだ。貴族が見栄をはって優越感を感じるのと同じような気持ちが、私にもあるのだな、と思う。


 彼を喜ばせようと、こんな間違った断罪の場を用意してしまった私こそ断罪されないといけないわね。


 これはきっと、あなたに恋に落ちてしまった私の罪ね。


「ともかくも、とても良い一日をありがとうございました、クローデリア様」


 彼は気分がよさそうに笑った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし少しでも「面白かった」と思っていただけたら、

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のいずれか一つでもいただけると、めちゃくちゃ励みになります。


「彼」が主人公の「【連載版】転生したら断罪の場でヤジを飛ばして石を投げるモブ平民だった」もよろしくお願いいたします。


改めて、ありがとうございました!

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