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八話 選ばれたのは

 ____ドクン、と心臓が脈打った。


「ユージン様から……私たち宛にそれぞれお手紙……?」

「はい。こちらでございます」


 そう言って侍女から差し出されたのは、確かに私とビアンカに向けた二通の手紙。


「おねぇさまはわかりますけど……どうして私まで?」


 ビアンカが不思議そうに首を傾げる。

 けれど、私達には何ら不思議なことではなかった。


 だって、ユージン様はビアンカの話をしている時、あんなに嬉しそうにしていたんだもの……。


 きっと婚約者は、私じゃなくてビアンカに決まったのでしょうね。

 この手紙は、そのことを謝罪する手紙……なのかしら。


 そんなことを考えながら、封を開ける。


 震える指で封筒の中から一枚の便箋を取り出すと、そこに書いてあったのは……


「……『また君のお菓子が食べたい』……え、これだけ……なの?」


 見間違いかと思ったけれど、確かに便箋はこれ一枚で、書いてあるのもこの一行のみ。


 ユージン様、あまりにも私に興味が……なさすぎるのではなくて……?

 お菓子だけは気に入ってくださってるみたいだけれど……。


 ____ビアンカの手紙には、なんて書いてあったのかしら。


 ふとそう思って、ビアンカの方を見た。

 すると、ビアンカは少し顔を赤らめながらも笑顔で手紙を読んでいる。


 ……便箋が、二枚もあるわ。


「ユージン様って、わかりやすい方なのね……」


 私がそうぽつりと呟くと、ビアンカにも聞こえてしまっていたらしい。

 照れたように微笑みながら、「私もそう思いますわ」と嬉しそうに言った。


 心臓が、苦しい。


 それでも、ユージン様からもらったこの手紙が、嬉しくて嬉しくて堪らない。

 それが、例え一行だったとしても……。


 どうしてこんな恋なんてしてしまったの、私……。


 涙が浮かびそうになるのを必死で堪えていると、突然書斎の扉が開いた。


「ベルナデッタ、ビアンカ! 二人とも揃っているな。キャントレル伯爵からおめでたい書状が届いたぞ!」


 入ってきたのは父だった。


 おめでたい書状……そんなの、大体想像がついてしまう。

 きっと、婚約者が正式に決まったのだわ。


 楽しそうに「わぁ!」と声をあげるビアンカの隣で、私は拳を強く握りしめて俯いた。


 父はそんな私の様子には気付いていないようで、嬉しそうに言葉を続ける。


「キャントレル伯爵子息から正式な婚約の申し出があったんだ」


 ほら、やっぱり。

 なら、相手もきっと…………


「よかったな、ベルナデッタ! これからも、ユージン様と仲良くするんだぞ!」

「…………え?」


 ____私? ビアンカではなく? なぜ?


 私が衝撃のあまり呆然としていると、ビアンカが心の底から嬉しそうに「ご婚約おめでとうございます!」と拍手してくれた。


 私はどうしても気になって、ビアンカに問いかける。


「ありがとう、ビアンカ。……だけど、さっきユージン様からの手紙を見て照れているように見えたのは、一体なんだったの……?」


 すると、ビアンカは手紙の内容を思い出したのか、また少し顔を赤らめながら首をブンブン横に振った。


「ご、ごめんなさい! おねぇさまにはお伝えできません! でも、決しておねぇさまを傷つけるような内容ではないのです!」

「そう……なの」

「はい!」


 ビアンカは真っ直ぐな目をして頷いた。

 この子は、こんな嘘をつくような子じゃない。


 なら一体、ユージン様はビアンカに何を伝えたの?

 どうして、ユージン様は私を婚約者に選んでくれたの?


 嬉しいけれど、ユージン様のことがわからない。


 晩御飯は婚約祝いですごく豪華なメニューだったけれど、私には気になることが多すぎて……何も味わうことができなかった。




 ____ユージン様、あなたは一体何をお考えになっているのですか……?

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