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六話 一方通行の運命

 キャントレル伯爵邸で行った、ユージン様とのお茶会の後のことだ。


 簡潔にいうと、私は浮かれていた。

 頭の中はいつだってユージン様でいっぱいで、家庭教師の言葉もマナーレッスンも全然頭に入ってこなかったくらい。


 その代わり、ユージン様に褒めていただけたクッキーだけは、前よりもっと美味しく作りたくて何度も練習を重ねた。

 その甲斐あって、調理人もびっくりするくらい綺麗なクッキーを作れるようになっていた。


 ユージン様の瞳をイメージした、緑のステンドグラスのようなクッキーを編み出したのである。


 ……まぁ、そのおかげで、成績は少し下がってしまったけれど……。

 恋は盲目というやつで、私は本当にユージン様にまた笑っていただけるなら、なんでもよかったの。



 そして、ユージン様とのお茶会から一ヶ月が経った頃。


 今度は、メイウェザー子爵邸にユージン様を招待することになったのだ。


 私はもう、楽しみで楽しみで仕方がなかった。

 またユージン様にお会いできる。また、私のお菓子を食べていただけるかもしれない。


 それだけで、家庭教師からどんなに厳しい叱責を受けても笑顔でいられた。


 心優しいビアンカは、そんな私の姿を見てとても心配してくれていたけれど……。



 そして、お茶会当日。


 馬車から降りてきたユージン様は、まるで白馬の王子様のように輝いて見えた。


 私はユージン様の元へ駆け寄り、今度こそ完璧なカーテシーを披露しながら、挨拶をする。


「キャントレル伯爵子息、ごきげんよう。またお会いできて光栄に存じます。前回は素敵な時間をありがとうございました」


 よし、今度は完璧だわ!

 心臓はドキドキしているけれど、それよりもときめきとワクワクの方が大きい。


 ユージン様は相変わらずの無表情のまま、どこか緊張した面持ちで口を開いた。


「メイウェザー子爵令嬢、お元気そうでなによりです」


 少しだけ、素っ気ない言葉。

 でも、ユージン様が挨拶してくれた。それだけで私は天にも昇る心地だったのよ。



 早速ユージン様を庭の東屋まで案内して、ユージン様が着席されたのを見てから私も席に着いた。


「ユージン様、私……今日もお菓子を作ってきたんです。食べていただけますか……?」


 ドキドキしながら問いかけると、ユージン様は「あぁ」と返事をしてくれた。


 私は侍女に持ってもらっていた小包を受け取り、ユージン様に差し出す。

 ユージン様は小包を丁寧に開けると、少し目を見開いて硬直してから、一枚のクッキーを手に取った。


 ____私が作った、ステンドグラスのようなクッキーだ。


 クッキーの真ん中をくり抜き、中に飴を流して固めている。


 ユージン様はそのクッキーを陽の光のかざしてから、ゆっくりと口に運んだ。


「お、お口に合いましたでしょうか……?」


 ドキドキしながらそう尋ねると、ユージン様は私の目を見つめながら質問で返してきた。


「この、中が緑の飴で出来ているクッキーは君が考えたのか?」

「は、はい! ユージン様の瞳をイメージして作りました。ユージン様の瞳は、とてもお綺麗ですから……」

「……そ、そうか……。俺の瞳は、綺麗に……見えるんだな」


 私が答えると、ユージン様はそれだけ言ってフイ、と目を逸らしてしまった。

 ……どうしよう、引かれてしまったかしら?


 その耳は、少しだけ赤い気がしたけれど……でも、気のせいにも思えてしまう。


 沈黙が流れる。 


 気まずいわ、と思って私も無心でお茶を飲んでいると、突然庭の方からパタパタと足音が聞こえてきた。


「おねぇさま〜! わたしといっしょにあそんでください!」

「ビ、ビアンカ……!?」


 部屋でレッスンを受けているはずのビアンカが、笑顔で走り寄ってきたのだ。


「? おねぇさま、この方は?」

「この方は、キャントレル伯爵子息、ユージン様よ。ほら、ビアンカもご挨拶なさって」

「はい! お初にお目にかかります。ビアンカ・メイウェザーと申します」


 ……さっきまでおてんばな姿だったのに、あっという間に立派なレディへ切り替わる。

 私よりも完璧なカーテシーに、自然な微笑みだった。


「……ユージン・キャントレルです。よろしく」

「はい! ぜひ仲良くしてくださいませ!」


 そう言って、屈託もない笑顔で笑うビアンカを見て、ユージンは……。


 ____とても優しい眼差しで、笑っていた。


 これが、私が初めて見たユージン様の自然な微笑みだった。

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