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三十六話 ここからはじまる

 ____それから私達は、お互いの両親を新婦控え室に呼んで、今までのことを話した。


 いえ、正確に言えば……ユージン様が何度も頭を下げながら、全て話してくださった。




 それまで私達の関係が上手くいっていると信じていた両親達は、それはそれは驚いていたけれど……。


 私の母は、一番に私を抱き締めてくれた。

 今まで辛かったわね、気付けなくてごめんなさい……と。


 思わず私は母を強く抱き締め返しながら、声を上げて泣いてしまった。



 そしてなんと驚くことに……あの温厚な私の父が、ユージン様のことを殴ったのである。


 その後、間髪入れずに自分の頬を思いっきり殴り出したので、思わず止めに入った。


 父曰く、「ベルナデッタの苦しみに気付けなかった自分が親として情けない」……と。


 それからビアンカは……深く深く、頭を下げていた。


「私のせいで混乱を招いてしまったこと、深くお詫び申し上げます」


 ビアンカは凛とした声でそう告げてから、「どうか私のことも殴ってくださいませ」なんてことを言い出すものだから……。


 私はビアンカのほっぺたをムギュ、と抓んでやった。


「迷惑をかけたのは、私も同じだからお互い様よ。……幼い頃から複雑な立場に置かれて、大変だったでしょう。私の知らないところで頑張ってくれて、ありがとう」


 私がそう言うと、ビアンカは再度深々と頭を下げながら、「ご寛容なお心遣いに感謝申し上げます」と声を震わせながら話してくれた。


 ……彼女も、色々と思うところがあったのだろう。

 ビアンカとはこの先一緒に暮らすことは出来なくなってしまうけど、これまでのことをちゃんとお話する機会を作らないとね。



 ____ちなみに、ユージン様のご両親はしばらく放心されていた。


 が、しばらくしてから私に謝罪をしてくださって、離縁を選ばなかったことを深く感謝された。


 ……ご両親は、これから私と一緒にユージン様の教育とお義姉様の処分を頑張ってもらわなくちゃね。


 最後に、ユージン様のお義姉様だけど……。

 なんと彼女は、その場で伯爵家を勘当されてしまった。


 当然婚約は破棄。

 それだけでなく、お義姉様は修道院に行かせると、お義父様がその場で宣言した。


 お義姉様は最後までユージン様に謝ることをしなかったけれど……。

 無事に縁が切れたから、ユージン様はそれで満足みたい。


 私はちょっと消化不良だったけれど……。

 ユージン様は「姉上もどうか幸せに」と告げていたから、私からは何も言わなかった。





 ……こうして、挙式直後とは思えないやり取りが交わされた後、私達の結婚式は無事に終わったのだった。


 ***


「なんだか、長い一日でしたね……」

「あぁ……。私の人生でこんなに殴られたのは初めてだな……。だが、良い薬になった。なんだか目が覚めたような気分だ」

「ふふ、帰ったら治療しましょうね」

「私としては、しばらくこのままでもいい気がするが……。美しいベルナデッタの夫がこの腫れた顔では、格好つかないからな」

「…………もう、吹っ切れた途端にそういうことを仰るのですね?」


 無事に式が終わった後、二人で伯爵家の馬車に乗り込んだ。


 私は今日から、ベルナデッタ・キャントレルになったのである。

 なので当然、帰る家も今日からキャントレル伯爵家なわけで……。


 正直キャントレル伯爵夫妻と上手くやっていけるか、少し心配だったのだけど……。

 さっきの様子を見る限りだと、大丈夫そうね。


 そんなことを考えている途中、ふとあることを思い出して、ユージン様に問いかける。




「そういえば、一般的には、今夜は結婚初夜ですね」

「……き、君はどうしたい?」

「そうですね……私としては、一年間はお預けさせていただきたいです。まだ心の整理が着いていませんし、もっとお互いに心の距離が縮まってからが良いと思います」

「それは……そうだな」


 ユージン様が神妙な顔で頷いたので、それがなんだかおかしくって……私は悪戯っぽく言葉を続けた。


「それに、ユージン様にはしばらくの間、女心について叩き込む必要がありそうですから……ね?」

「…………お手柔らかに頼む」

「ふふ、どうでしょう」



 ____穏やかで、なんてことのない会話。


 こんななんてことない会話を、私は長年待ち望んでいた。

 やっと私もユージン様も、お互いを見て話し合えるようになった。


 私達は結婚式というひとつのゴールを経て、ようやくスタートラインに立つことができたのだわ。


 ……ここまで、長かったけれど……私がユージン様に恋した八年間は無駄じゃなかった、そう思えるような日が来るといい。



 ____私達の物語は、これからようやく幕を開けるのだった。

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