三十四話 一発
ユージン様が、ごくりと生唾を飲んだのがわかった。
「三つ目は……これからは、思っていることをちゃんと口に出してください」
「…………それだけか?」
「その『それだけ』が出来ていないから申し上げているのです。……ユージン様なりに、私のことを愛していることはちゃんと伝わりました。ですが、それはさっきの話を聞いて初めてわかったことです」
「……」
ユージン様が唇を噛み締める。
私はそんなユージン様と目線を合わせるために、ソファから降りた。
そして、正座をしているユージン様の正面にしゃがみこむ。
「ですが……私も今まで、ユージン様に自分の気持ちをお伝えしたことがございませんでした。……思えば私達、婚約者らしい話を全くしないでここまで来てしまったのですよね」
「それは……そうだな」
「だから、これからはどんな些細なことだと思っても、ちゃんと考えていることを話し合いましょう。……白い結婚ではなく、ちゃんとした夫婦になるために」
私が微笑むと、ユージン様は縋るような瞳で私を見た。
「り、離縁したいんじゃなかったのか……?」
「それは、条件を受け入れられないのでしたら……という話です。私もユージン様のことを慕っておりますから」
私がそう告げると、ユージン様は「え……?」と震えた声を漏らした。
____待って、私、もしかして……。
「……お伝えしたこと、ありませんでしたっけ……?」
「…………ないな。私の片想いだと……ずっと思っていた」
……これじゃ、ユージン様のことを悪く言えないわね。
やっぱりユージン様の態度には、私が気持ちを伝えていなかったから……というのもあるのだわ。
「私達、両想いなのに勘違いして遠回りしていたんですね……」
なんだかそう考えると……本当にこの八年間、何をやっていたのかしらね。
でも、だからこそ。
これからはそんなことにならないように、変わらなきゃならないのだわ。
私も、ユージン様も。
「三つ目の約束、受け入れていただけますか?」
「あぁ、もちろんだ。そして……ベルナデッタ、愛している。……今まで本当に、すまなかった」
「はい、私もお慕いしております」
今にも泣きそうなユージン様の表情を見ながら、私も自分の想いを伝える。
____でも、これだけでは流石に終わらせるわけにいかないわ。
「……では、四つ目。最後に一つだけ、私からお願いがございます」
「……お願い? 約束ではなくて……か?」
「はい。今からすることは、あまり淑女として褒められた行動ではないですから……」
私が笑いながらそう言うと、ユージン様は何かを察知したようだった。
明らかに、先程よりも表情が固い。
……まぁ、そうなるわよね。
だってユージン様にとっては……これが初めての経験になるでしょうから。
「一つ確認したいんだが……君は本当に、私のことが好きなんだよな?」
「それとこれとは話は別です」
「……そうか、そうだな。むしろ、今までのことを考えるとこれだけじゃ足りないくらいか……」
ユージン様は覚悟を決めたようだ。
しっかりとした口調で、私に宣言した。
「……わかった。全力で頼む」
「もちろんです」
私は笑顔を崩さないまま、ハッキリと告げた。
「では……しっかり目を瞑って、歯を食いしばってください」
そして私は、大きく手を振りかざしてから……
____パシンッ……!
…………ユージン様の傷一つない綺麗な頬に、思いっきり平手打ちをしたのだった。




