三十二話 弱い私にさよなら
私が静かな声で告げると、ユージン様は一瞬びくりと肩を震わせてから……覚悟を決めたような瞳で私を見た。
「……なんでも、言ってくれ」
「はい。もし『嫌だ』と言われても言わせていただくつもりでした」
私は冷静に、淡々と話を続ける。
もう怯えない。逃げない。
私は、強い女性になるの。
____弱い私とは、今この瞬間におさらばするのよ。
私は大きく息を吸って、言葉を紡いだ。
「まず一つ目の条件です。これから私が話すことを受け入れられないのでしたら、潔く私と離縁してくださいませ」
「……り、離縁……!?」
ユージン様が大きく目を見開く。
でも、私はそれに構わず口を開いた。
「はい。私達は政略結婚ではありますが……いくら高位貴族のユージン様相手でも、許せないことはあるのです。元々私は、一年経ったら離縁するつもりでしたもの」
「……わかった。だが、俺は君を愛している。そのことは、覚えていて欲しい」
「…………はい、わかりました」
よし、出だしは順調ね。
でも、本番はここからよ。
「では二つ目です。……ユージン様、あなたにはお姉様がいらっしゃいますよね。私のお義姉様となられる方が」
「姉上が、どうかしたのか……?」
「今から私が言うことは、簡単ではないことは承知しております。____そのうえで、言わせていただきます。お姉様との縁を切ってくださいませ」
「な、なんだって……!?」
____まぁ、そうなるわよね。
でも、さっきまでのユージン様の話を聞く限り……ユージン様がこうなったのは、お義姉様の影響が大きい。
それに、これから私は伯爵邸で暮らすことになる。
そのうえで、ユージン様に散々嫌味を言っていたお義姉様が、私を気に入るとは思えない。
……おそらく、ユージン様が受けていた以上の嫌がらせを受けることになるはずだわ。
きっとユージン様は、そこまで気が回っていなかったでしょうけど……。
「縁を切るって……どうすればいいんだ……?」
「今までユージン様がされてきたこと、言われてきたことを、ちゃんとお義母様とお義父様にお話するのです。……今まで、ずっとお一人で抱え込んでいらしたのでしょう?」
「……あぁ」
「…………私は、お義姉様のことが許せません。ユージン様を精神的にじわじわと追い詰めていた方のことを、好きになれるわけがない。それはきっと、ご両親も同じですわ」
私がそう告げると、ユージン様は呆然とした表情をしながら、「そんなこと、考えたこともなかった」と小さく呟いた。
……まるで、呪いね。
でも、その呪いは私が解くわ。絶対に。
「お義姉様がどうなるかは、正直わかりません。……婚約破棄になってしまうかもしれないし、勘当されてしまうかもしれない。ですが、それほどのことをお義姉様はしてきたのですよ」
「…………」
私の言葉を聞いて、ユージン様は黙り込んでしまった。
……恐らくだけど、ユージン様には理想があったのだと思う。
姉弟仲良く暮らす、そんな理想の家族が。
でも、家族だからといって、血が繋がっているからといって……仲良くなれるとは限らない。
「……お話を聞いていて思ったのですが……。ユージン様は、私のことを『妹のことが大好きで、妹のことを一度も僻んだことの無い優しい人間』だと思っていませんか?」
「…………実際に、そうだろう」
「それは……半分正解で、半分不正解ですわ」
____私がそう呟くと、ユージン様は心底驚いたような顔をした。




