三話 憂鬱なファーストミート
私は一度目を瞑ってから、ゆっくりと深呼吸をする。
それから少し憂鬱な気持ちで瞼を開くと、扉の奥に呆然と立ち尽くしている人物が目に入った。
私は小さな声で、そっと声を掛ける。
「……ユージン様、どうかなさいましたか?」
「…………君は……ベルナデッタ、か……?」
ユージン様はまるで信じられないといった様子で、私の名前を呼んだ。
「はい、本日よりあなたの妻になります、ベルナデッタです。……何か私の格好でおかしいところでもありましたでしょうか?」
……素直に「似合っているでしょうか」と聞けばいいものを、相変わらずこんな可愛げのない聞き方しかできない。
本当に、自分が嫌になるわ。
こんな時、きっとビアンカだったら可愛く聞けるのに……。
中々返事が返ってこないので俯いていると、絞り出したような小さな声が聞こえてきた。
「……まぁ、その、ま、馬子にも衣装だな」
ユージン様は私の問いかけに対して硬直した姿勢のまま、私の顔も見ずにそう答えた。
____馬子にも衣装、か。
まぁ、似合っていないと言われなかっただけ、良かったのかもしれないわ、これで……。
そんなことを思いながら、もう一つ気になっていたことを問いかけた。
「そういえば、この部屋に入る直前、ビアンカともすれ違ったのではないですか?」
すると、彼は私以外に見せるにこやかな笑顔でこう答えたのだ。
「あぁ、ピンクのドレスがビアンカの髪色によく似合っていたな」
「……はい、私もそう思います」
「それに、俺の衣装も『よく似合っている』と褒めてくれたんだ」
____やっぱり、彼はビアンカに対してはこんなに優しい笑みで褒めるのね。
わかっていたはずなのに、胸がじくじくと傷んだ。
それに、私より先にビアンカは彼の姿を見て、その姿を褒めたのね……。
あんなに姉想いの素敵な子なのに、胸がチクリと痛む。
彼の結婚相手が、私ではなくビアンカだったらこんな想いはせずにすんだのかしら。
尤も、ビアンカの方にはそんな気はさらさらないようだけれども……ね。
「……そろそろ、式が始まる時間です。行きましょうか」
私が彼に声を掛けると、ユージン様は少し口篭ってから、決心したように口を開いた。
「その……君から見て、今日の私はどうだろうか?」
「……素敵ですわよ。本当に、こんな殿方と一緒になれるなんて、私は世界一の幸せ者ですわ」
「そ、そうか……!」
この言葉に、嘘はないわ。
……ただ少し、確かな苦い想いが混じっているだけ。
「では……行こうか、ベルナデッタ」
「はい、ユージン様」
私達はこれから、結婚式を挙げる。
一体どんな式になるのか、それはわからないけれど……
____全てが終わったその後で、彼に伝える言葉だけは、ハッキリ決めている。
私は彼の手を取ってゆっくりと階段を降りてから、二人で式場の大きな扉の前に立った。
彼と私による愛のない結婚式が、始まろうとしている。




