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二十六話 私の悲しみはなんだったの

 

 ***


「……という、わけなんだ……」


 昔話を終えたユージン様が、チラリとこちらの様子を窺ってくる。


 私はというと……頭を、抱えていた。


 ユージン様がビアンカではなく私を好いている、というだけでも衝撃だったのに……。


 まさか、私と同じく出会ったその日から好きでいてくれたなんて……!


 ……正直、嬉しい気持ちは否定できない。


 でもそれよりも……信じられない、いや、信じたくないという気持ちの方が今は強い。


 だって……それを簡単にすんなり信じてしまったら、今までの私の苦しみは一体どこに行くというの?


 何度も泣いた私の悲しみは、どうやって消化すればいいの?




 複雑な感情で頭がぐちゃぐちゃになっている私の様子を見て、ユージン様が心配そうに声をかけてきた。


「……ベルナデッタ、どうしたんだ……?」

「どうしたもこうしたも、ありませんわ……」

「そ、そうか……。でも、私は一切嘘はついていない。それだけは、わかってほしい」

「……はい。とりあえず、お話はわかりました」


 わかったけれど、納得はしたけれど……。

 それとこれとは話が別だわ。


 それに、あれだけ苦しんだ『ビアンカとユージン様の文通事件』が、まさか私のことを知るためだったなんて!!


 私はふぅ、と息を吐いてから、ユージン様に問いかける。


「ユージン様、一つお聴きしてもよろしいですか?」

「あぁ、なんでも聞いてくれ」

「私のことが知りたかったのなら、どうして私と文通をしてくれなかったのですか? ビアンカと文通をしていると知った私が、どんな気持ちになるか考えたことはないのですか?」


 ____正直な、私の心の叫び。


 ユージン様は息をぐっ、と詰まらせてから、くしゃりと顔を歪めて口を開いた。


「……あの頃の私は本当に未熟で……とにかくベルナデッタに嫌われたくない一心から、君に踏み込めずにいたんだ」

「……」

「だから、ビアンカに『ベルナデッタには絶対に内緒にしていてくれ』と言って、毎月君のことを手紙で聞いていた。だから……問題はないと思っていたんだ。そもそも君は私の事なんて好きじゃなかっただろうし、と……」

「…………私、それを知って悲しかったです。ビアンカの説明のおかげで、なんとか心を保つことが出来ましたけど……」

「……すまない」


 ユージン様が、ゆっくり頭を下げる。

 ……この方って、素直ではあるのよね。


 だからこそ、そんな行動に出てしまったのかしら……。


 それに、話を聞いて思ったけれど……まさかユージン様は、私がユージン様を好きだとは微塵も思っていないのではないかしら?


 そう思わせてしまった結果がこの行動なら……正直、私の態度にも問題は……あったのかもしれない。


 私は深呼吸をしてから、ユージン様にゆっくり話しかける。


「……頭をあげてください。元はといえば、私がユージン様にビアンカの話ばかりして、私自身の話をしなかったのも問題だったのだと思いますから……」

「いや、君のせいではない! 私が君に聞けていれば良かったんだ……」

「ですが、私も『ユージン様はビアンカが好きだから』という先入観で接してしまっておりましたのもの」


 少しでもユージン様の気持ちを信じていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。


 ____そう思ったけれど、そこで私はふと、とあることに気付いた。


「……では、ユージン様がやたらとビアンカの存在を気にしたり、ビアンカのことを褒めていたのはなんだったのですか……?」


 ユージン様は一瞬目を逸らしたけれど、すぐに私の目をしっかりと見て、こう告げた。


「君が、ビアンカの話をする時が一番楽しそうだったから……。それに、君を直接褒めるのはなんだか気恥ずかしくて、妹のように思っていたビアンカを先に褒めることで……その……誤魔化していたんだ」

「…………あなたって、本当に…………」


 どうしてそんな紛らわしいことばかりするのですか?と言おうとして、やめた。


 多分、ユージン様はこういう方なのだ。


 そしてそれには……恐らく、ユージン様の姉の存在が関係している。

 きっとユージン様は、姉を恐れるばかりに女性との接し方がわからなくなってしまったのだわ。


 ……ある意味、女性恐怖症だったのかもしれない。


 ____まぁ、ユージン様とお姉様の関係が悪いことなんて、私は全く知らなかったわけだけれど……。


 ビアンカは三つも歳が下だったし、将来の妹だから女性として見ていなかった……ということなのかしらね。


 ……あぁ、頭が痛くなってきた。

 でも、ちゃんと最後まで話を聞かなくちゃ。


「……ユージン様、私にはまだ聞きたいことがございます」

「なんだ? 今ならなんだって答えられる」

「初デートのことを覚えていますか?」


 私がそう尋ねると、ユージン様は苦虫を噛み潰したような顔をして答えてくれた。


「……あぁ、初デートなのに、君を悲しませてしまったからな。よく覚えているよ」

「では、その初デートの時……ユージン様が何をお考えになっていたのかお聞かせください」

「……わかった」


 そうしてユージン様は、再びゆっくりと話を始めてくれた。


 ***


 ____あれは……ベルナデッタが十四歳、私が十五歳になった時のことだった。

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