二十四話 もっと君を好きになった
ベルナデッタの妹、ビアンカとの挨拶を終えた直後のこと。
メイウェザー子爵家の侍女と思われる女性が、忙しなくこちらへ走ってきた。
「ビ、ビアンカ様! お二人は大切なお話をされているのです。ビアンカ様は引き続きあちらで私と遊びましょう?」
……優秀な侍女だな。
ちゃんとこのお茶会の真意を理解している。
この縁談はキャントレル伯爵家にももちろん利があるものだが……。
私とベルナデッタが結婚した際には、メイウェザー子爵家に多額の援助をすることが決まっている。
恐らく、この縁談の重要性は子爵邸内で共有されているのだろう。
ベルナデッタの妹は少し不満気な表情をしていたが、すぐにニッコリと淑女らしい笑みを浮かべた。
それから再びお辞儀をして、「大変失礼いたしました。キャントレル伯爵子息、またお会いできる日を楽しみにしております」と言ってから、すぐに立ち去って行った。
……賢い娘だな。
姉上も、あれくらい私に理解があれば……。
____いや、姉上のことを考えるのはやめよう。せっかくのベルナデッタとのお茶会なのだから。
だが、それでも私はどうしても姉上のことを考えてしまって……。
妹の後ろ姿を眺めながら、ゆっくりとベルナデッタに問いかけた。
「あの子が、君の妹のビアンカか。まだ幼いのに聡明そうな子だな」
「はい、ビアンカはなんでも出来て……昔から私の自慢の妹なのです」
「……へぇ」
私の問いかけに対し、ベルナデッタは笑顔で即答した。
____このベルナデッタの言葉は、一体どこまでが真意なのだろう?
姉上も、友人達の前では私のことを褒め称える。……だが、もちろんそこに本音など混ざっていない。
そんなことを考えていると、ベルナデッタが再び笑顔で話し始めた。
「ビアンカは、可愛いだけじゃなくて歌や楽器も上手なんですよ。マナーも完璧で、頭も良くて……あ、あと虫も触れちゃうんです! かっこいいですよね!」
____私は、この時心底驚き、心を撃ち抜かれてしまったのだ。
それと同時に、少しでも彼女の言葉を疑ってしまった自分を恥じた。
今日一番の笑顔で話をするベルナデッタが愛おしくて、つい私も声をあげて笑ってしまう。
____あぁ、彼女は……なんて美しい心の持ち主なんだろうか。
恐らく、あの様子を見るに……きっとこの姉妹も、姉のベルナデッタより妹の方が優秀なのだと思う。
でも、ベルナデッタはそれで妹に冷たくするどころか、こんなに妹のことを楽しそうに笑っている。
____あぁ、私も姉上にこんな風に接してもらいたかったな、なんてことを思った。
私はベルナデッタに笑顔で問いかけた。
「君は、妹のことが好きなんだな」
「はい、大好きです! ビアンカは本当に素敵な女の子ですから。……姉の私が、何一つ勝てるところがないくらい」
……そんなことは絶対にない。
少なくとも、君は妹のことを褒め称えることが出来る。
実際、妹があんな風にベルナデッタに駆け寄ってきたのが、何よりの証拠だ。
しかし、ベルナデッタは不安気な顔をしながらも話を続けた。
「で、ですから……妹にはぜひ、ユージン様みたいな素敵な方と幸せになってほしいのです。私とビアンカのどちらが嫁ぐことになっても、家同士の繋がりは保たれますから」
____なんだって?
信じられない言葉に、私は耳を疑った。
何を言うか頭で考える前に、勝手に口が動く。
「……君は、お菓子作りができるだろう」
「…………え?」
ベルナデッタは私の言葉に心底困惑しているようだったが、私は構わず言葉を紡ぎ続けた。
「それに、妹のことだって大切に思っている。違うか?」
「? そんなの、当たり前のことですわ」
「……そうか、君にとってはそれが当たり前のことなんだな」
……やはり、彼女は姉上とは全然違う。
妹は……ビアンカは、私と違って幸せ者だな。羨ましいものだ。
「私にも姉がいるが、そんな風に褒められたことなど一度もない。君は自分を卑下しすぎだ」
「そう……でしょうか……」
そう言って、ベルナデッタは曖昧な顔で笑う。
どうして彼女はそんなに自分に自信がないのだろう。
君はそんなにも、美しい心を持っているのに。
「もっと自信を持つべきだ。君には長所が沢山あるのだから。それに……」
……私は君を好いている、と言おうとして、やめた。
先程の発言から考えるに、彼女は私のことを特別に想っているわけではないのだろうから。
ベルナデッタが「どうかしましたか」と問いかけてきて、私は考え事をしていたのを誤魔化すように咳払いをした。
「私が誰と結婚するかは、私自身が決めることだ。君は気にしなくていい」
____だから、私はベルナデッタと結婚する。たとえ君が、私のことを好きではなくても……。
……本当は、彼女も私のことを好きでいてくれたら、どんなに良かっただろうかと思ったけれど。
「……そうですね、失礼いたしました」
ベルナデッタが悲しそうな顔をして謝ってきて、お茶会はお開きとなった。
……やはり、私との結婚はそれほど気が重いのだろう。
でも、すまない。
私は君を諦められないんだ。
だから私は、少しでも気持ちを伝えるために、ベルナデッタのことを知るために……手紙を書いた。
____ベルナデッタ、それから妹のビアンカ嬢に向けた手紙を一通ずつ、だ。




