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二十三話 運命の女の子

 ベルナデッタという運命の女の子と出会った後のこと。


 私はもう、ベルナデッタのことしか考えられなくなっていた。

 いつもなら絶対に間違えないような問題を間違えて、家庭教師に「珍しいですね」と言われてしまったくらいには。


 ただ、彼女に幻滅されるのは絶対に嫌だったし、少しでも頼りになる男と思われたくて……筋トレの量を増やした。


 ベルナデッタの笑顔が見たい。

 ただそれだけだった。




 そして、初めてベルナデッタに出会ってから一ヶ月が経った頃。


 今度は、メイウェザー子爵邸に招待された。


 ____また、ベルナデッタに会える。


 それだけで、姉からどんな嫌味を言われても気にならなかった。


 そんな私の様子が姉は益々気に入らないようだったが、本当にそんなことはどうでもよかった。




 そして、お茶会当日。


 私が馬車から降りた途端、こちらへ駆け寄ってきた彼女は天使のようだと思った。


 そして美しいカーテシーを披露しながら、鈴のような声で口を開いた。


「キャントレル伯爵子息、ごきげんよう。またお会いできて光栄に存じます。前回は素敵な時間をありがとうございました」


 本当に、素敵な女の子だ。


 私も何か気の利いた言葉を言わないといけない。それはわかっていたのに、身近にいた同世代の女性は姉だけで。


 結局、婚約者候補に何を言ったら喜ばれるのかなんて知らない私は、なんとか頭の中で文章を組み立てる。


「メイウェザー子爵令嬢、お元気そうでなによりです」


 あぁ、なんてつまらない挨拶なんだろうか。

 彼女は笑ってくれているけれど、不快な思いをさせてしまっているかもしれない。


 でも、何を言ったらいいのか、本当にわからなかったんだ。





 それからベルナデッタがガゼボに案内してくれて、私達は椅子に腰掛けた。


 その直後、ベルナデッタが何やらそわそわした様子で私に話しかけてきた。


「ユージン様、私……今日もお菓子を作ってきたんです。食べていただけますか……?」


  ____なんて優しいのだろうか。


 本当に、心から嬉しい。

 でもこの気持ちを直接言うのは気恥ずかしくて、「あぁ」という素っ気ない返事しかできなかった。


 今思えば、私は最低だったと思う。




 自己嫌悪に陥りながら、せめてもの償いとして小包を丁寧に開ける。

 すると、きらきら輝く宝石のような一枚のクッキーに惹かれて、恐る恐る手に取った。


 ____まるで、ステンドグラスみたいだな……。


 私はそのクッキーを陽の光にかざしてから、ゆっくりと口に運んだ。


 さくさくした食感に、薄い飴のパリパリとした食感と甘みが合わさって、ものすごく美味しい。


「お、お口に合いましたでしょうか……?」


 ベルナデッタが上目遣いで尋ねてきた。

 君が作ったものなら、なんでも口に合うに決まっている。


 そんなことを思いながら、私は気になっていたことを質問した。


「この、中が緑の飴で出来ているクッキーは君が考えたのか?」

「は、はい! ユージン様の瞳をイメージして作りました。ユージン様の瞳は、とてもお綺麗ですから……」


 ____ドクン、と心臓が大きく跳ねる。


「……そ、そうか……。俺の瞳は、綺麗に……見えるんだな」


 私がベルナデッタの瞳を美しいと思っているように、彼女も私の瞳を綺麗だと思ってくれているのか。


 そのことが、こんなに嬉しいなんて……。


 顔が熱くなるのがわかって、思わず顔を背けてしまう。

 照れた姿を見て幻滅なんてされたら、耐えられないから。



 沈黙が流れる。 



 でも、その沈黙すらも心地よかった。

 そんなことを思っていた次の瞬間。

 庭の方からパタパタと誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。


「おねぇさま〜! わたしといっしょにあそんでください!」

「ビ、ビアンカ……!?」


 七、八歳くらいだろうか。

 そのくらいの幼い少女がこちらへ来て、ベルナデッタに声をかけた。


 ベルナデッタは大層驚いた顔をしているものの、その瞳には愛情が感じられた。


「? おねぇさま、この方は?」

「この方は、キャントレル伯爵子息、ユージン様よ。ほら、ビアンカもご挨拶なさって」

「はい! お初にお目にかかります。ビアンカ・メイウェザーと申します」


 ……メイウェザー子爵家には娘が二人いると聞いていたが、この少女がその妹か。

 確かに、明るい雰囲気がベルナデッタにどことなく似ていて可愛らしい。


 ____ベルナデッタと結婚したら、彼女とも家族になるのか。


 私はベルナデッタとの結婚生活をその時初めて想像したわけだが、思わずそれだけで笑みが溢れてしまった。


「……ユージン・キャントレルです。よろしく」

「はい! ぜひ仲良くしてくださいませ!」


 君はベルナデッタの妹だからな。

 つまりは、私の未来の義妹というわけで……。


 それなら、できる限り優しくしてやりたいと思った。

 今思えば……私は、ビアンカに自分を重ねていたのかもしれない。


 姉に大切にされなかった自分を、ビアンカに優しくすることで慰めようとしていたのだと思う。


 ____そのせいでベルナデッタを傷つけることになるなんて、私はちっとも気付いていなかった。

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