二十一話 ユージン・キャントレルという男
「ユージン様……仰っている意味が、わからないのですけれども……?」
私が震える声で問いかけると、ユージン様が私を抱きしめる力が強くなった。
「そのままの意味だ。私は君のことだけを愛しているんだ。だから、離縁するなんて言わないでくれ……」
縋るような声。
ユージン様のこんな弱々しい声を、私は初めて聞いた。
「…………説明してください。ちゃんと、一から。じゃないと到底信じることなんてできませんわ……!」
私が少しの怒りを滲ませながらそう言うと、ユージン様はようやく私を解放してくれた。
それからもう一度床に正座をして、私の目を真っ直ぐ見つけながら口を開いた。
「最初から、全部話す。君に思っていたこと、君に話したかったことを、全て」
____あまりにも真剣なその姿に、私も覚悟を決めて話を聞くことにしたのだった。
***
私がキャントレル伯爵家の嫡子として産まれたのは、今から十九年前のことだ。
私は長男ではあったが、同時に二つ上の姉がいる弟でもあった。
両親はとても優しい人だったが、姉は昔からやたらと私に厳しい人だった。
……恐らく、弟の私に嫉妬心があったのだと思う。
自分で言うのも何だが、私は比較的昔からなんでもすぐに覚えてしまう性質だった。
一方で、姉は勉学もマナーもダンスも、あまり得意ではなかったように思う。
そのため、必然的に家庭教師や両親から褒められるのは私ばかりで、姉は叱られることの方が多かった気がする。
そんな姉が私のことを疎ましく思うのは、必然だったのだろう。
姉は常に私に冷たい態度を取っていて、姉弟仲は正直最悪だったのだ。
だから、私は同世代の女性のことがあまり得意ではなかった。
何を考えているかわからないし、正直めんどくさいとも思っていた。
そんな私が運命の出会いを果たしたのは、十一歳の時だ。
婚約者候補である、メイウェザー子爵令嬢とのお茶会が開催されたのである。
私は全く持って、期待していなかった。
きっと女性なんて皆同じだ。彼女も、姉のように人に嫉妬心を燃やしているのだろう。
そんな風に勝手に決めつけていた。
しかし、馬車から降りてきた彼女をみた私の身体に、まるで雷に打たれたかのような衝撃が走ったのである。
艶のある黒髪、控えめだが上品なドレス、透き通った美しい肌、真っ直ぐとこちらを見据えるアメジストのような瞳。
____なんて、美しい女の子なんだろう。
それが、私の人生最初で最後の一目惚れだった。




