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二十話 すれ違い

 ____ユージン様のことが、わからない。


 どうして、私にキスをしたの?

 どうして、あんなに緊張していたの?

 どうして、あんなに優しい瞳で私を見ていたの……?


「……ファーストキスだったのにな」


 結婚式でファーストキスだなんて、本来ならとってもロマンチックなはずなのに。


 ユージン様がビアンカへの想いを抱えていると思うと……素直に喜べない自分がいる。


 その一方で、ずっと好きだったユージン様とのキスに喜んでいる自分がいるのも事実で……。


 ……正直もう、頭がぐちゃぐちゃになっていた。




 そんな時だった。


 ____コン、コン、コン……。


「ベルナデッタ、私だ。……入ってもいいだろうか」

「その声は……ユージン様ですか?」

「それ以外に誰がいる」


 ……よりにもよって、どうして今ユージン様が訪ねてくるの。

 今ユージン様の前で、いつもみたいに取り繕える自信なんて、ないのに……。


 でも新婦が新郎の訪問を断るのもおかしい気がするし、何よりユージン様を追い返すのは申し訳なくて……


「…………どうぞ、お入りください」


 ……私は、ユージン様の入室を渋々了承したのだった。





 それから少し時間を置いてから、ユージン様が扉を開けて部屋に入ってきた。


 ユージン様も、私の暗い返事を聞いて部屋に入るのを躊躇っていたのだと思う。

 ……気を遣わせてしまったわね……。


「どうぞ、お座りになってください」

「……失礼する」

「ゆ、床ではなくて……。私の隣に、お座りになってください」


 びっくりしたわ……。

 突然、その場で正座しだすのだもの。

 しかも、真顔で。


 ユージン様って、もしかして……私の知らない一面が結構あるのかしらね……?


「今度こそ、失礼する」


 ユージン様はそう言ってから、一度私の目を見て、逸らして……もう一度私の瞳を見つめた。


 ……なんだか、緊張しているのかしら?

 いつもと少し様子が違うわ……。さっきの結婚式とも。


 ユージン様は一度口を開いて、しばらく固まった。……かと思えば、少ししてからようやく言葉を紡ぎ始めた。


「今更だが……君にずっと言えていなかった言葉を、今日こそ伝えたいと思ったんだ」


 ____ドクン、と心臓が脈打った。


 きっとビアンカのことだわ。

 どうしましょう、まさか結婚式の後にそんな話をされるなんて。


 流石に結婚式の後に「ビアンカのことが好きなんだ」なんて言われたら、耐えられないわ。


 ……いえ、でも、よく考えれば丁度良いチャンスじゃない。


 言われるのが怖ければ、私から言ってしまえばいいんだわ。


 そう思って、私はユージン様の勇気を踏みにじるように手で制してから、急いで口を開く。


「私からもお話したいことがございました。ユージン様の仰りたいことは、もう理解しています」

「そ、そうか!」


 ユージン様がパッと顔を明るくさせる。

 ズキンと痛む胸には気付かないフリをしながら、私は言葉を続けた。


「はい、ですから……体裁のためにも一年だけ婚姻関係を続けたら、離縁いたしましょう。そして、ユージン様はビアンカと幸せになってくださいませ」

「………………は?」


 ユージン様が、心底何を言っているのかわからない、というような顔をして固まってしまった。


 ……私、そんなにおかしなこと言ったかしら。


 いえ、まぁ確かに、この貴族社会で自分から離縁を言い出すなんてびっくりするわよね。


 そう思って自分を納得させていた直後。


 ユージン様が突然立ち上がってから、私を勢いよく抱きしめた。


 …………な、なぜ?


「あ、あの、ユージン様……!?」


 訳がわからず混乱していると、ユージン様が小さく絞り出すような声で___信じられないことを呟いたのである。






「……どうして、そんなことを言うんだ……? 私はこんなにも、君を愛しているというのに……!」

「……え?」


 ____この方は一体、何を仰っているの?

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