表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/43

十九話 衝撃

「それではお父様……行きましょうか」

「あぁ……本当に感慨深いよ。幸せになるんだぞ、ベルナデッタ……」

「……はい、お父様」


幸せになんて、きっとなれない。

そうわかっているのに、お父様の顔を見たらそんなことは言えなくて……。


私は、張り付いた笑みで頷くことしか出来なかった。


バチパチパチ!と盛大な拍手の音が響く。

当たり前だけど、参列者は皆幸せそうな笑顔だった。


私達の幸せを、本気で願ってくれているのだわ。

その光景を見て、罪悪感で胸が痛くなる。


____コツ、コツ、コツ…………


細長いヒールで、バージンロードに足を踏み入れる。


足取りは、重い。

けれど私を支えてくれているお父様のおかげで、なんとか歩くことが出来ていた。



ユージン様が、私の方を見て少し先で待ってくれている。


____ユージン様のあんな表情、初めて見たわ。


緊張していて、でも少し……なんだか幸せそうに見える。

どうして? 相手はビアンカではなく、私なのに……。


……この幸せな空気にあてられているのかしら?

きっとそうね。そうに違いないわ……。


だって、ユージン様が私との結婚を喜んでいるなんて……有り得ないもの。


____コツ、コツ……。


ゆっくり歩いていたけれど、遂にユージン様の前まで到着してしまった。


私が父の腕から手を離すと、父は名残惜しそうな表情をしながら立ち止まる。


それから、小さな声でユージン様に「娘を頼みます」と告げた。


その言葉に胸がじゅくじゅくと膿んだような気持ちになる。


ユージン様は真剣な表情でこくりと頷いてから、私に手を差し伸べた。

私はその手を恐る恐る取って、笑顔だけは崩さずに再び足を前に出す。


「きゃっ……」


____歩く速度が上手く合わなくて、思わず転びそうになってしまった。


そんな私を、ユージン様が咄嗟に支えてカバーしてくれた。

……その手は、私の冷えた手と違ってとても温かい。



もう一度、バージンロードを歩み出す。

すると、段々と足並みが揃ってきて、バラバラだった足音がひとつに重なった。


そうして、なんとか神父の前まで到着する。

……聖歌隊の歌が心地よい。


____私、気付かないうちに緊張していたのね……。



神父が私達の顔を見つめながら、低い落ち着いた声で問いかける。


「ユージン・キャントレル。あなたは、ベルナデッタを妻とし、神の教えに従い、富める時も貧しい時も、病める時も健やかなる時であっても、相手を愛し、敬い、慈しみ、死がふたりを分かつまで、貞操を守ることを誓いますか?」

「はい、誓います」


ユージン様が迷いなく答えた。

それから、横目でチラリと私の方を見る。


その瞳には……慈しみの心が感じられて、私は少し動揺してしまった。


そんな私達の様子に気付いていないのか、神父は続けて私に問いかける。


「ベルナデッタ・メイウェザー。あなたはユージンを夫とし、神の教えに従い、富める時も貧しい時も、病める時も健やかなる時であっても、相手を愛し、敬い、慈しみ、死がふたりを分かつまで、貞操を守ることを誓いますか?」

「…………はい、誓います」


私は少しだけ迷ってしまったけれど、それでも笑顔で誓った。

神に嘘をつくなんて、許されないことだとわかっているけれど、仕方がないものね……。


「父と子と聖霊の名によって、この婚姻を宣言します。アーメン」


会場が祝福で包まれる。

皆、私達の結婚を心から祝ってくれている。


そのことが、酷く申し訳なくて、泣きそうな気持ちになった。


「それでは、指輪の交換を」


神父の問いかけで、ユージン様が指輪を丁寧な所作で手に取った。


……手が、尋常じゃないくらい震えている。

そのせいで中々私の薬指に嵌らなくて、思わずクスリと笑ってしまった。


その瞬間、ユージン様は幸せそうに微笑んで、私の指に指輪を嵌めてくれた。


____私は思わず、ユージン様のその表情に大きく心臓が跳ねてしまった。


なんだか私までドキドキしてしまって、指が震えてしまう。

そんな私に対し、ユージン様は「大丈夫だ」と小さく声を掛けてくれた。


____やめてよ、こんな時に優しくしないで。これ以上、あなたを好きにさせないで……。


私は涙が零れそうになるのをなんとか堪えながら、ユージン様の薬指に指輪を嵌めた。


ユージン様はうっとりとした表情で、自身の薬指を見つめている。

……そんな表情、初めて見たわ。



指輪の交換が無事終わったのを確認した神父が、「それでは、誓いの口付けを」と告げた。


……私とユージン様は、今まで一度も口付けを交わしたことがない。


だからきっと、今日も唇の横にキスをするとかして、誤魔化すのでしょうね。


だって、ファーストキスはビアンカに取っておきたいだろうから。



ユージン様が私のベールをそっ……と摘んで、ベールアップをした。


私は目を瞑る。


それから____私の唇に、柔らかいものが重なったのがわかった。


一瞬私には何が起こったのかわからなかった。


……けれど、まさか……これは、ユージン様の唇なの……?


思わず目を見開くと、ユージン様のペリドットのような瞳とぱちん!と目が合った。

思わず見惚れてしまうような、美しい瞳。


呆然としている私とは対照的に、ユージン様は満足気な表情をしながらゆっくりと唇を離す。





…………それからのことは、正直あまり覚えていない。


それくらい、あのキスが衝撃的すぎたのだ。

だが、なんとか式は無事に終えることが出来たのだろう。



____気付けば私は、新婦の控え室で一人ソファに腰掛けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ