十三話 嫌いになんてなれない
「……ビアンカ……?」
「はい、ビアンカです。お姉さまにどうしてもお話ししておきたいことがあって参りました。部屋に入れていただけませんか……?」
____どうして、今日なの?
今の私は、それどころじゃないのに……。
「……ごめんなさい、今日はもしかしたら、あなたに酷い言葉をかけてしまうかもしれないから……」
「それでも構いません! 絶対に今日のうちにお話しをしたいのです。どうしてもだめでしょうか?」
……いつものビアンカなら、きっとこれで身を引いていた。
でも、今日の彼女はなんだか様子が違う。
声もいつもより凛としていて、強い意志を感じる。
____私は、ビアンカを信じることにした。
ベッドから起き上がって扉の前まで歩き、ガチャリ、とゆっくり扉を開ける。
「……入っていいわ。二人でソファに座って、いつもみたいにお話しましょう?」
ビアンカは、私の方から扉を開けたことに驚いたのだろう。
目を見開いて一瞬硬直していたけれど、すぐに真剣な顔に戻って頷いてくれた。
ソファに並んで座る。
これまで何度もこのソファに二人で座って雑談をしてきたのに、今日はなんだか距離が遠い。
「……ビアンカ、話ってなにかしら?」
緊張して拳を強く握りしめているビアンカの手を包み込みながら、なるべく優しく問いかける。
彼女は一度深呼吸をして、それからゆっくりと口を開いた。
「……お姉さまの様子を見て、思ったんです。もしかしてお姉さまは、ユージン様と私の秘密を知ってしまったのではないですか……?」
「秘密って…………文通のことかしら」
「……はい、そうです。ユージン様に、お姉さまには絶対に秘密にするよう言われていました」
いつもの柔らかな声とは違う、ビアンカの強ばった声。
その声色が、その文通がただの恋文ではないことを教えてくれた。
「どうして、そんなことを?」
「それは……すみません。私の口からは言えません。ですが、誓ってこれはお姉さまへの裏切りではないのです! 絶対にいつの日か、ユージン様からその理由を直接言わせてみせます!」
ビアンカが私の手を強く握り返してきた。
私も、それに応える。
「だから……それまで、私を信じて……いえ、私とユージン様を信じて、待っていてくれませんか……?」
そう言って、ビアンカは一粒の涙を流した。
____本当、困っちゃうわよね。
私は昔から、ビアンカの涙に弱いのよ。
「……わかったわ。でも、これからは文通はやめて欲しいの。それだけは、私のわがままを聞いてくれる?」
私がそう言うと、ビアンカはようやく嬉しそうに笑ってから、「はい!」と元気よく返事をしてくれた。
それからは、二人でいつもみたいに雑談をした。
会話の内容は、もちろん今日のデートについて。
ジュエリーショップでの出来事を話したら、ビアンカが「本当にあのお方は……」と、なんともいえない表情をしていたのが面白かった。
「そういえば、お姉さまのネックレスはどこにしまってあるのですか? せっかくなら実物を見てみたいです!」
「あぁ……それが、どうやら帰る途中で落としてしまったみたいなの」
「え!?」
「ユージン様もネックレスをつけるのは初めてと仰っていたから……上手く引っ掛けられてなかったのかもしれないわ」
まぁ、仕方ないわよね……と続けようとした瞬間。
ビアンカが私の手をガシッと掴んで、興奮したように叫んだ。
「探しに行きましょう! 今すぐ!」
「え、えぇ!? もう暗いし、無理よ!」
「でも、お姉さまにとって大切なものでしょう!?」
「それは……そうかもしれないけど……でも、いいのよ。元々縁がなかったと思って、諦めることにしたから……その気持ちだけで十分よ」
「……お姉さま……」
ビアンカが顔をくしゃりと歪めて、今にも泣きそうな顔をする。
本当に、この子って素敵な子だわ。
……一瞬でも、二人の仲を疑ってしまったのが馬鹿みたいね。
ユージン様の気持ちはともかく、ビアンカが私を裏切るはず、ないのに。
____ガチャ!
「ベルナデッタ! お客様がいらっしゃったから、今すぐロビーまで迎えに行ってきなさい!」
愛おしいビアンカの頭を撫でていると、唐突に父が部屋に入ってきた。
「お、お父様!? お客様って、一体どなたですか……? 大変申し訳ないのですが、私は今日はそんな気分では……」
「いいから、早く行ってあげるんだ! ほら!」
「え、えぇ……?」
優しい父が、私の意向を無視してまで命令するなんて本当に珍しい。
一体誰がいらっしゃったのかしら……。
「お姉さま、いってらっしゃいませ」
「ビアンカまで……わかりました、お迎えにあがります」
そう言って、私は重たい身体を引き摺るように部屋を出て、階段を降りた。
____その先に、いたのは……
「……ユージン様…………?」




