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十一話 初デートくらい私を見てよ

「わぁ、街ってこんなに人がいるんですね……!」

「ここは特に活気づいているからな。露店なんかもあるが……行ってみるか?」

「はい、ぜひ!」


馬車から降りたら、そこには私の全く知らない世界が広がっていた。


老若男女問わず沢山の人々が笑っていて、皆イキイキと仕事をしたり買い物をしたり……。


……私も、子爵令嬢じゃなければこんな自由な未来があったのかしら、と思ってしまうくらいには、輝いてみえた。



ユージン様に連れられて、ある露店に近付く。

そこには、色とりどりのクッキーが並べられていた。


「ユージン様は本当に、クッキーがお好きなんですね」


私がクスッと笑いながら言うと、ユージン様は少し考えた素振りをしてから、小さく呟いた。


「前は、甘いものは控えていたんだ。でも……君のお菓子があんまりにも美味しいから、好きになってしまった」


____好き、という言葉に心臓が跳ねる。


わかってるわ。これは、クッキーが好きになったという意味で、私を好きになったという意味ではない。


でも、私のことも少しくらいは、クッキーを通して好きになってくれているのかしら……?


そう思うと、役に立たないと思っていた私の特技も捨てたもんじゃないな、と思う。


私、お菓子作りが得意で、本当に良かった。




ユージン様は露店のクッキーをしばらく眺めた後、何も買わずに「行こうか」と声をかけてきた。


「購入はされないのですか?」

「……君の作るクッキーの方が、美味しそうに見えたから」

「あ、ありがとう、ございます……」


ユージン様は、顔をフイ、と逸らしてそう話してくれた。


思わず、私の顔が熱くなるのがわかる。きっと今の私の顔は、真っ赤だわ。


まさか、こんなに良い雰囲気でデートできるなんて思っていなかった。

この後も、このまま幸せな時間が続けば良いのだけれど……。


____しかし、そんな私の願望は、呆気なく砕かれることになる。


***


「ベルナデッタは、緑色やペリドットが好きなのか?」

「はい。……その、ユージン様の瞳によく似てらっしゃいますから」

「……そ、そうか」


……引かれてしまったかしら。

ユージン様は相変わらず表情が読めないから、何を考えているのかよくわからないのよね。


でも、耳が微かに赤くなっているから……嫌われているわけでは、ないのかしら。

……怒って赤くなっているのかもしれないけれど。


「それなら、この近くに良いジュエリーショップがあるんだ。寄ってみるか?」

「はい、ぜひご一緒したいです」


別に宝石が欲しいわけではなかったけれど、ユージン様が提案してくれたのが嬉しくて……。

私は、二つ返事で了承した。




ユージン様に連れられて入ったジュエリーショップは、それはそれは外装が立派な建物だった。


中の宝石も質の良い物ばかりで……子爵令嬢の私には、目が眩むような眩しさだわ。


そわそわと店の中をうろつく私と違い、ユージン様は堂々と一つのネックレスを見つめていた。


紫色のアメジストが見事に輝いていて美しい。


「ユージン様は、こういう色がお好きなのですか?」


私が問いかけると、ユージン様は少し焦ったような表情をしながら口を開いた。


「いや、その……この紫の宝石の色が…………ビ、ビアンカによく似合いそうだなと思ったんだ」


そう言いながら、ユージン様が私の瞳を見る。


____あぁ、やっぱりここでもビアンカなのね。きっとユージン様は、私越しに彼女を見ている。


さっきまで雲の上にいるかのような気分だったのに、一気に現実に叩き落とされた。


確かに彼女はピンクの髪にピンクの瞳だから、紫のアメジストも似合うでしょうけど……。

彼女には、ピンクダイヤモンドが一番似合うと思う。


それに…………私の瞳はアメジストによく似た紫色なのに、ユージン様は私ではなくビアンカを連想するのね。


せっかくの、初デートなのに。


今日くらいは、私を見てくれてもいいじゃない……。


「……お言葉ですが、ビアンカにはピンクダイヤモンドが一番似合うと思いますわ」


少し拗ねながら私が言うと、ユージン様はなんともいえない表情をした。


「そ、そうだな。なら、ビアンカへのお土産は隣にあるピンクダイヤモンドのネックレスにしよう。せっかくだから、このアメジストのネックレスは君に贈るよ」


____まるで、私はついでみたいな言い方なのね。


いえ、実際についでなのだわ。

だって、私の誕生日プレゼントにはいつも、ビアンカへのプレゼントも同封されていたもの。


ビアンカへのプレゼントにも、なぜか私宛のプレゼントが同封されていたけれど……。


これじゃ、ユージン様の婚約者がどっちなのかわからないわね……。


……それでも、ユージン様からの初めての贈り物が嬉しくて、心が弾んでしまう自分が悔しくてたまらない。


何も言えずに黙っている私を心配したのか、ユージン様が「具合でも悪いのか?」と声をかけてきた。


具合は悪くないのです。

悪いのは、傷ついて泣きそうになっている私の心なのです。


でもそんなことはとても言えないから、私は笑いながら「なんでもございませんわ。ユージン様からの贈り物、とても嬉しいです」と答えた。


あからさまにほっとするユージン様を見て複雑な気持ちになりながら、私はユージン様からアメジストのネックレスを受け取ったのだった。




____憂鬱な初デートは、まだ終わりそうにない。

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