一話 理想と現実の狭間で
幼い頃から、私には夢があった。
それは、理想の結婚式を挙げること。
何度も何度も幸せな未来の自分を想像することで、厳しい教育もマナーのレッスンも乗り越えることができたのだ。
『家族やたくさんの友人にお祝いしてもらえること』
『ステンドグラスが美しい教会で式をあげること』
『宝石が控えめにあしらわれた、自分好みのウェディングドレスを着ること』
『新郎と新婦が、互いに深く愛し合っていること』
____これらが、私の人生で唯一の夢だった。
子爵令嬢として生まれた私にとって、結婚して跡継ぎを産むことは何より大切な役目。
だから……結婚式の一日くらいは、誰よりも幸せな花嫁でありたかったのだ。
そして今日、私の夢がようやく叶おうとしている。
……ある一つの条件だけは、どうしても叶わなかったけれど。
新婦の控え室で、鏡に映る自分を一人でぼーっと眺める。
映っているドレスは私好みの上品なもので、首飾りもそれはそれは美しかった。
____コンコン、とノックの音が響く。
「入っていいわよ」
「失礼します! わぁ、お姉さま、すごく素敵ですわ……!」
「ありがとう。あなたのドレスもよく似合ってるわ」
「えへへ、せっかくのお姉さまの結婚式ですもの! 気合いを入れてきちゃいました!」
一人きりの控え室に入ってきたのは、妹のビアンカだ。
ビアンカが身に纏っているピンク色のドレスは、彼女の柔らかで優しい雰囲気によく似合っていた。
「お姉さま、本当に綺麗ですわ……。どうか、幸せになってくださいね」
「……そんな、まだ式も始まってないのに泣いちゃダメよ? 可愛いあなたの化粧が落ちちゃうわ」
「いいんです、今日の主役はお姉さまなんですから」
ビアンカは涙を浮かべながら、うっとりとした表情で私を祝う。
「……それにしても、幼なじみで昔からの婚約者であるユージン様とご結婚だなんて……おとぎ話みたいですわね」
「…………えぇ、そうね」
「ユージン様もとても素敵な方ですから、お姉さまをきっと世界一幸せにしてくださいますわ。早くお二人が並んでいる姿がみたいです!」
そう言って、屈託もなく笑うビアンカに、私は張り付いたような笑みを返すことしか出来なかった。
……なぜなら、私の理想の結婚が叶わなかったのは、最後の項目のせいだから。
でもそれは、私側の問題ではない。
だって、私はずっとユージン様のことを慕っていたんだもの。
問題は、彼の方にある。
____そう、私の婚約者様は……この可愛らしいビアンカのことが昔から好きなのだと、私は知っている。
これから私は、妹のことが好きな婚約者と結婚式を挙げるのだ。




