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第七話

「アルト、強すぎない?」


 マリーナはアルトの戦いを横目に見ながらつぶやく。

 勇者だった時のアルベルトも確かに強かった。しかし、一騎当千というわけではなく、割りかし泥臭い戦い方をしていた。

 しかし今は、圧倒し華麗に立ち回っている。返り血一つすら浴びてない姿は、女のマリーナでさえ目を奪われるものがある。


「私のアルトだから当然です」


 前を進み遺跡に入っていくフェリスが小さな胸を張るように言い放つ。

 その後ろを、マリーナが呆れながらついていった。


「私のって何よ……?」

「アルトは私の一番の従者です」


 ふんすふんすと鼻息が荒い。

 なるほどねとマリーナは心の中で黒い笑みをつくる。


 どうやらフェリスはまだ自分の気持ちに気がついていないようだ。根がお子様なのだろう。

 これは後でまた面白い暇つぶしができそうだと、顔に出さないまま考えた。


 遺跡の中は暗闇で包まれている。それでも見えるのは、自分が魔族になったからだろう。

 わざわざ炎魔法で周りを照らさないで良いのは、便利だなと心で感心する。


 最初魔族に囚われたときはこの世の何よりも絶望だった。しかし、今はそれでよかったと思えるほどには毎日が楽しい。

 やはり自分の中にも変化が起きてしまっているのだろうか。胸の前で右手の拳を作り、フェリスに気づかれないように力を込めた。


「外から物音がするぞ!」

「敵襲だそうだ急げ!」


 遺跡奥から光が揺らめくように動いている。どうやら中にも人がいたらしい。

 やっばと、マリーナの尻尾はピンと立ち上がった。


 残念なことに遺跡の内部は一本道だ。隠れることはできない。

 正面からかち合うしかないと、大きくため息をつく。


「誰だお前たち!」


 案の定光に照らされて、二人は見つかってしまう。

 前を歩くフェリスの尻尾が不安そうに揺れていたが、杖を取り出して握りしめていた。

 マリーナも戦うしかないかと、覚悟を決めて杖を取り出す。


「誰でもいい、侵入者は殺せ」

「魔族だから遠慮はしねぇからな!」


 教会の人間とは思えない言葉遣いの荒さに、マリーナは呆れ返る。


「まったく……我欲だらけ。ほんっと、人間ってサイテー」


 口元に手を当てて、煽るように「ぷぷぷー」と吹き出した。マリーナの尻尾は挑発するようにゆらゆら揺れている。

 その横のフェリスがなんか言いたげなジト目をしているが、見なかったことにした。


「なんだこのムカつく魔族!」

「燃やしてしまえ!」


 人間たちは魔法の詠唱を瞬時に終わらせて、大きな炎を放ってくる。


「やっば……」


 迫る火力に煽られて、マリーナは死を覚悟した。

 しかし──


「『防御魔法(プロテクト)』!」


 その魔法は、フェリスが展開した魔法に弾かれて散った。

 煙が晴れた先で、人間たちが慌てている。


「防御魔法だと!?」

「魔族の分際で光魔法!?」


 その気持分かるぞ。と、心の中で同調しながらも、マリーナは最大限の嘲笑をする。


「魔族が展開する魔法も破れないなんてダッサー! 魔法ヨワヨワのザーコ!」


 これでもかと煽るマリーナに、またフェリスがジト目を向けていた。


「マリーナさん、少しは手伝ってください……」


 その言葉には、呆れとも諦めとも怒りとも取れないため息が混ざっている。


「えー仕方ないなぁ」


 恩を着せるように言ってから、手の中で杖をくるりと回す。それから杖先を人間たちに向けた。


「『強化魔法(ブースト)』」


 その魔法を受けた人間たちが目を白黒させる。白いローブを破るほど筋肉が盛り上がっていく。


「うおおおお! 力が漲る! 今なら何でもできるぞ!!」

「馬鹿女め! こっちを強化してどうする!?」


 叫ぶ彼らをただマリーナはニヤニヤと見つめていた。


「マリーナさん、何をしてるんですか?」


 本当に心底分からないといった顔だ。しかし、マリーナは杖をしまう。


「勝負あったから。先に行くわよー」

「……え?」


 展開された防御魔法を超えて、マリーナは歩き始める。その後ろから、訳が分からないって顔でフェリスが魔法を収めてついてきていた。


 筋肉の盛り上がりが止まらない。男たちの雄叫びがいつの間にか叫びに変わっていた。


「強化魔法を禁術に指定した理由」


 動けなくなった男たちを無視して横をすり抜ける。


「攻撃魔法より低魔力でも使えちゃうんだけど、強化しすぎると肉体のほうが耐えきれないのよねー」


 背中に当たるのは、骨や筋肉が軋む歪な音。その音を無視するようにただ足を進める。

 マリーナは振り返ることさえもしない。


「結果、やり過ぎると爆発してしまうわけ。怖いでしょー? だから、“あたしは善意で禁術に指定してあげたのよ”」


 遠くから悲鳴とともに何かが爆ぜる音が聞こえた。きっとそれは、間近で見ていたら子どもがトラウマになっていた光景であろう。

 マリーナは涼しい顔で振り返る。


「少なくともフェリスには使わないし必要ないみたいだから安心しなさい」


 フェリスの瞳の揺らぎは、安心できないとでも言っているかのようだった。

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