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第六話

 正直な結果、フェリスの予想は斜め下を行く形で裏切られた。


 魔族が使っていた遺跡はあった。そこを住処にしている魔物も存在はして“いた”。

 ただし、すでに魔物たちは地面に倒れ伏して絶命している。


 残っているのは、教会の旗印と白いローブをまとった人間たち。

 草木の陰に隠れながら、三人は様子を見ることにした。


「はぁ、なんでここに人間たちがいんのよ? 活動域はまだまだ先でしょ?」

「その言い方、マリーナも随分と魔族寄りになったな」

「……うっさい」


 アルトの言葉を黙らせるように、マリーナは後ろから体重をかけてくる。後頭部に胸の柔らかい感触が当たるが、多分彼女自身は気がついていない。

 言わぬが花ってやつだろう。


「……あそこ、見たことある鎧の人たちがいます」


 フェリスが指差したのは、鎧姿の魔族たち。彼らは人間とともに遺跡の調査をしているようだった。

 アルトも見たことある。あれはルファ将軍の手下だった者たちが同じものを着ていた。


「つまり、北方の魔族たち……」

「……そうですね」


 フェリスが悲しそうに息をつく。

 マリーナとルファ将軍の一件以来、彼女自身も魔族は一枚岩ではないということを自覚した。それがとても悲しいのだろう。


「何々? 魔族の内情ってそんなにドロドロなわけ?」


 楽しそうに言うのは、マリーナだ。


「あっはー。やっぱり魔族って欲望に忠実なのね」

「まぁ、その欲望ど真ん中にいるのが、マリーナだけどな」

「なにそれ? 喧嘩なら買うわよ?」


 マリーナがさらに体重をかけてくる。アルトはかかる重さに、思わずため息を漏らした。


「それで、フェリス様どうしますか?」


 正直な話、北の魔族領は壊滅的だとは思う。

 人間と魔族が手を取り合ってる時点で、生き残ったものは何をされているか分からない。


 それが分かっているからか、彼女はアルトの服の裾をぎゅっと握ってきた。指は震えて尻尾も落ち着きなく揺れている。

 そんな彼女の手を、アルトは包み込む。


「私はフェリス様に従います」


 ゆっくりと、彼女の目を見て宣言する。

 フェリスを守る従者として、彼女を支えるために。


「私は様子だけでも見に行きたいです」


 そのはっきりとした答えに、アルトは頷いた。


「マリーナ、フェリスを連れて突破してくれるか?」

「はぁ、なんであたしが!?」

「私があいつらを引きつけるから、頼めるのはマリーナしかいないんだ」


 アルトの言葉に、彼女は眉をしかめる。後頭部を無造作に掻きむしって、「あーもー」と言葉を吐き出していた。


「分かったわよ。でも、魔法はあんまり使えないから戦えないわよ?」

「フェリス様を導いてくれるだけで充分」


 アルトは心の中で覚悟を決めるように立ち上がる。その服の裾をフェリスは軽く引っ張った。

 彼女の顔を見ると、少し心配そうに見上げている。


「大丈夫ですから、フェリス様は転移魔法陣の確認をしてください」


 フェリスは少し唇を噛み締めると笑顔を見せ、静かに頷く。


 アルトはいつの間にか手に剣を握っていた。柄から剣先まですべてが黒く染まりあがった剣だ。デザインは聖剣を模したものだが、明らかに異様な雰囲気を放っている。


 軽くジャンプを繰り返す。三回目の地面への着地とともに、大きく踏み出した。

 近くにいた教会の人間に剣を振るう。躊躇なく、命を奪うために。


 悲鳴と飛び散る血が重なった。その場にいた人間と魔族たちが一斉にこちらへと向く。


「敵襲! 魔族だ!」

「クソ、ここの存在は知らないんじゃなかったのかよ! やっぱり魔族の言葉は信用ならねぇな!」


 悪態をつかれている魔族は、顔を歪めている。それでも人間たちの側について、剣や斧を向けてくる。


「それがお前たちの選択なら遠慮しないからな」


 呟き、笑う。

 アルトにとって最悪の未来がこれでなくなった。


 人間が一方的にやられたのなら、必ずそれを口実に侵攻してくる。しかし、魔族と一緒に倒れていたのなら?

 お互いに殺し合った。共謀して戦争を仕掛けようとした。

 どちらにせよ、北方の魔族というこの土地ではありえない隊の死体があれば、人間側も魔族側も何かあると思う。

 結果、お互いに見なかったことにする隠蔽に走るだろう。


「悪いけどさ、全員ここで死んでくれるかな?」


 アルトの問いかけに、相手たちは鼻で笑う。


「ふざけんな。人数差を見てみろ」

「中々の美人だから、捕まえて売り物にしてやるよ」

「あーあー教会の人間とは思えない言い草だね」


 呆れるように首を振って、肩をすくめる。


「本当、なんでこんな奴らを“私は”信用していたんだか」


 アルベルト時代の無謀な突撃が脳裏に浮かぶ。嫌気が差して、彼女は大きくため息をついた。

 今の生き方のほうが、自分はよっぽど性に合っている。


 剣先を彼らに向けて、静かに構えを作る。


「遠慮しないからな、クズども」


 その言葉を合図に、お互いが動き出す。


 剣戟が鳴る。血が飛ぶ。悲鳴が飛ぶ。

 それは一方的な蹂躙劇だった。


「聖女ラフィエ様! ご加護を!」


 人間の一人の言葉を半ば無視するように、首をはねた。

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