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9…ボルザーク(3)最期という名の始まり

皇城が慌ただしい。

騎士たちが謎の生き物たちを回収しており、今まで安全な所に隠れていた従者たちが出てきて片付けを始めたところだ。


自分たちが回収している生き物は全てセリーヌが仕留めたのだと知り、先ほどから騎士たちは少しずつセリーヌから距離をとっている。

なぜか人がどんどん自分から離れていくのを不思議そうにしているセリーヌ。

少し離れた所から彼らの様子を嬉々として見ているユスラが、それを暴露した張本人だけれど。


少し経ち、従者たちに止められつつ自室の片付けをしているセリーヌとユスラ。

2人が楽しそうに話している様は、先ほどまでとは打って変わって穏やかで幸せそうな空間だ。

邪魔にならないようにと気を遣った従者たちが、先ほどそっと部屋から去っていき、今は2人きりで片付けている。


「ここはそこまで散らかってないからすぐ終わりそうね」

「あらぁ本当ね。心配で来てみたけど、やっぱり大丈夫だったわねぇ」


突然の訪問者に、セリーヌとユスラは緊張して瞬時に振り返った。

長身で線が細く長髪の綺麗な男性が宙に浮いている。


「ボルザークか」


ボルザークはユスラに手をひらひらと優雅に振り、音を立てず着地した。


「あら、この娘なのね、お前の伴侶は。まぁぁぁぁっ! きれいな娘ねぇ」


当然だという顔をユスラがしているので、セリーヌは苦笑いするしかない。


「神がこんなところに何の用だ」


ユスラのツンとした対応に慣れているのか、ボルザークは態度を崩さずユスラへ視線を向けて大きくため息をついた。


「お前も難儀ねぇ。ま、こればっかりは永遠に終わることはないのでしょうねぇ」

「……ああ」

「あら、なぜ終わらないの?」


会話に入ってきたセリーヌへの返事の代わりに、ボルザークは悲しそうな切なそうな顔をして弱く笑った。

セリーヌとユスラを交互に見つめて、小さくため息をついた後、別人のような真剣な眼差しになったので思わずセリーヌもユスラも姿勢を正した。

神の神らしい雰囲気に気圧されるように。


「良い? 全てを疑うの。でも、あなたたちは常に信じ合いなさい」


ユスラは驚いた顔をしてボルザークを見返した。

神が人に助言をするなんて、未だかつて聞いたことがなかったのだ。

ただの気分か、大きな事が起ころうとしているのか……


「感謝する」

「ありがとう。私はユスラを一瞬も疑ったことなんてないわ」


2人が笑顔で見つめ合ってるのを見たボルザークは、今度は優しく笑った。

そして「幸運を」という言葉をポツリとこぼし、何かをつぶやきながら去ってしまった。


「あ……まだ聞いてみたいことが沢山あったのに」

「神は神を裏切れない。今のが精一杯だったんだろうな」

「そうなの? 心配してくれたって言ってたわ」


フンっと鼻で笑ってはいるが嫌そうでないユスラを見て、セリーヌは優しく表情がほころんだ。


「彼は優しい神なのね」

「……ああ。珍しいけどな」


得意そうな顔をしたセリーヌが、ユスラを見ながら寄り添ったのだが……

すぐにそっと2人は小さく一歩離れて、気まずそうに視線をそらした。


「えっと、クロ、あの、ボルザークって、歴史書に出てくるトゥーラン皇国の9人いる神のうちの1人の名前よね」

「そうだな。神なんだろうか……確かに、出てきたと思うけど、何か想像の、こう、何か、遥か斜めいってた」

「ふっ、ふふ、あんな感じだなんて」


ティアナは先ほどのボルザークを思い出して楽しくなってしまい、笑いが止まらなくなっている。

クロードはその様子を嬉しそうに眺めながら笑ったが、頭から1つの疑問が離れない。


「どうして、人間のユスラが神のボルザークにあんな馴れ馴れしくできるんだ」




突然景色が変わり、心地良いはずの夜風が程よくティアナの髪をなびかせた。

なぜかバルコニーのベンチで2人が休んでいる。

驚いたティアナとクロードは悩む暇もないことに戸惑いながら辺りを見渡した。


「き、急にシーンが飛んだりするのね。対応するのが大変だわ」

「あ、ああ、驚いた。何なんだ……」


すると、ティアナが何かに気付いたらしく立ち上がって、バルコニーにあるガラス張りの豪華な大きな扉に様子をうかがいながらそっと近付いた。


「何してるのかしら」

「そういえば……にぎやかだな」


このバルコニーは皇城内で最も広いホールの一部分だ。

ティアナが中をのぞくと、部屋はきらびやかな装飾がされて賑やかに輝いていて、それに負けないほど着飾った面々が楽しそうに歓談しているのが見える。


「何かの夜会ね」


クロードのもとへ戻りベンチに座って夜風を2人で楽しんでいると、再び過去が始まった。


コンコン

窓をノックする音にそっと振り返ると、笑顔のビアンキとラルフがのぞいていた。


「どうした、ベンチで休んで。大丈夫か?」

「ちょっと酒に酔っただけだ」

「嘘つけ、ザルが」


ユスラもビアンキとラルフが来たのが楽しいのだろう、お酒も手伝っていつも以上に笑いながら会話をしている。


……静かに


それを見ながらセリーヌも幸せそうに笑っている。

いつも通りの4人での会話が心地よさそうだ。


「最近は特に何もなく静かで良いな」

「にぎやかだったのが嘘みてぇで」

「……ああ」

「このまま落ち着いたら良いわね」


なびく髪を軽く押さえながら言うセリーヌに、3人は静かに応えた。



……悟られないように



「お邪魔しちゃ悪いから行くか」


ビアンキがラルフの肩を叩いて立ち上がると、ラルフは面倒くさそうにゆっくり続いた。



……少しの隙を見逃さない



「ああ、そうしてくれ」


ユスラはセリーヌを抱き寄せて、2人を見やりながらわざとらしくため息をついた。

2人は笑いながら「後で戻ってこいよ」と言い残し、会場の光の中へ吸い込まれていった。



……油断した、その時に必ず


少しの間ベンチから会場の喧騒を2人で眺めた後、セリーヌが嬉しそうにユスラの方へ向いた。


「ユスラ、愛してるわ」


美しく笑いながら、ユスラに伝えるセリーヌの心からの言葉。

ユスラが最も愛おしいと思う響きで、何度でも聞きたくなると毎晩言っている言葉だ。



……やっとだ、やっとだ!!



いつものようにユスラが幸せそうにセリーヌを見てキスをしようとしたが、一転、ユスラの目がどんどん大きく開いていった。

セリーヌのきれいな首に横線が入ったのだ。




それは、セリーヌの頭部と胴が離れた瞬間だった。








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