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8…ボルザーク(2)皇帝と皇妃

「クロ、おはよう」

「おはよう。ティア眠れた?」

「ええ、まぁ思ったよりは」


昨夜、寝室の支度に来た従者たちとの会話から知ったことなのだが、2人は同室でいつも一緒にいる夫婦で恋人だとか。


寝る場所をどうするかで話し合ったために就寝時間が遅くなってしまったし、同室に異性がいるなんて幼い頃から長らくなかったので、2人とも今日は少し寝不足ぎみだ。

顔を見るのも少し気まずくて、どちらも挨拶の時に目を合わせられなかった。



どうやらこの夫婦は皇帝皇妃で、子ども2人を安全な神殿に預けて、セリーヌを何かから守ることに集中しているらしい。

そのため夫は神経質な性格になっていて妻以外には寡黙だ。

昨夜セリーヌはふわふわと笑って従者たちと仲良くお喋りをしていたが、夫は黙って座っているだけだった。


夫の名前はまだ分からないけれど、ティアナとクロードは候補を2人ほど絞り出せた。


「セリーヌは2人、建国時の皇妃と80代目第2皇妃……」

「ああ、今の皇帝が184代目だったよな」

「そうよ。ロンが185代目……また、会えるわよね」

「必ず」


不安そうなティアナを見て、普段は使わない必ずという強めの言葉をクロードが言い放ったのだ。

ティアナはそれに気付いて、切なそうな顔をして「ありがとう」とつぶやいて背筋を伸ばした。


そして、ティアナとクロードはとにかく今と現状を探ることに集中すると決めたのだ。

杯との関係も全くわからないままだけれど、そうしていけば帰るための手がかりが得られるかもしれないと信じて。





昼食をとった後に、会議があると言われたので執務室へ向かおうと2人が支度をしていると、昨夜に勢いよく話をするだけして出ていった2人が再び現れた。


「そろそろ行くぞー」

「今ベルトを取りに隣の部屋に行ってるわ」


隣の部屋へ視線を移しながら、セリーヌはいつものように穏やかに2人に話しかけた。


「今日は全員が来るのよね?」

「……あ、ああ」


なぜだかバツが悪そうに2人はモゴモゴと返事をしている。


バンッ

不機嫌そうな夫が扉を開けて隣の部屋から入ってくると、その瞬間、のんびりしているセリーヌとは裏腹に男たちの緊張感が高まった。


少しの間沈黙が続き、皇帝が口を開いた。


「星の塔か」

「あ、ああ、今日も星の塔だ」




男衆が城内といえど全員出払ってしまったので、セリーヌはいつもよりのんびりとしたティータイムを迎えた。

セリーヌが侍女たちを下がらせると、締め切られた空間に他の誰もいなくなったので、ティアナの自由がきくようになった。


「何がどうなってるのかしら……1人きりはやっぱり不安だわ。クロは何をしてるのかしら」


ティアナは本を手に取った。

この部屋の本棚で見つけた、この時代には唯一であろう真新しい歴史書だ。

クロと2人どちらとも、この歴史書は見たことがない物だ。

きっと何かで紛失してしまった書物で、ここでしか読めないティアナたち歴史オタクにとっても超レアアイテムだ。



集中して読んでいると、ノックの音がしていないのに扉が開く強い音がした。

セリーヌが素早く緊急信号を魔法で打つと、返事がすぐ返ってきた。

その間に顔を隠した大勢の間者たちに囲まれてしまった。

ふぅっとため息のように一呼吸して「時間稼ぎしなきゃ」とつぶやきながら魔力を練っている。


セリーヌが間合いを取って考えていると、先ほど星の塔という場所へ向かった3人が到着した。


「あら、思ったより早かったわね」

「現状は?」

「今囲まれたとこよ。皆、操られてるみたい。何とか助けられないかしら……ビアンキ」

「少し時間をくれ」

「分かったらラルフに伝えて」


ティアナもクロードもビアンキとはクロードの公爵家名だと直ぐに気付いた。

ラルフも同等の公爵家名なので、つまりは2人が初代公爵だろうということにも。


「初見、洗脳というより神経系に働く何かだな。動きが異様だ」

「分かったわ。とりあえず私たちで動きを止めるから、2人で準備してて」


そう言うとセリーヌは護身用の剣を抜き、既に抜刀している夫と2人で全員の命を取らず戦闘不能にしていった。



「ラルフ! 皆の解呪と治療を!」

「分かった! 姫様は本当に優しいな」


終焉が見えたので、気を緩めた全員が笑顔になった。


その時、息絶えていたはずの間者がゆっくりと起き上がり、全員をゾッとさせた。

それが間髪入れることなくセリーヌに飛び付いてきたのだ。


「しまっっ……」


油断していたセリーヌは珍しくモロに受けてしまい、すぐ後ろの壁に勢いよく鈍い音を立ててぶつかってしまった。


「うっ……」

「「「セリーヌ!!」」」


頭を打ってしまったセリーヌは一瞬気を失って倒れ込んでしまった。





ぼんやりと気が付いたセリーヌは、すぐ血相を変えて夫の魔力がする方へ振り向いた。


「……ュス……」


セリーヌは自分の周りの現状を見て震え始めた。


夫の形相は想定通りの、まるで修羅の如くだ。

ほとんどの間者たちは形を留めることなく散らばっており、辺り一面が血の池になっている。

それをしたであろう本人が両手に魔力を集め、極限まで圧縮しているため、空間まで歪み始めて今にも弾けそうなのだ。


「……ユス! ユスラ!! 私は大丈夫!!」


セリーヌが青ざめながらも、出ない声を必死に振り絞って叫んで自分の無事をユスラに伝えると、圧倒的に終わりを迎えようとしていたその空間が少しだけ緩んだ。


ユスラがまだ立ち上がれないセリーヌのもとへ急いで駆け寄り、ひざまずいて妻の顔を、返り血まみれの両手で何よりも優しく包んだ。

無事を確認した途端、力が抜けたのかセリーヌにもたれるように抱きついた。


セリーヌが立ち上がれないのは、気絶したからというよりユスラの作ったこの惨状を見てしまったせいなのだけれど……


「良かった……」

「ごめん、ね。ありがとう」



【ユスラ】

名前を聞いて、ティアナもクロードもいつの時代の誰になっているかが確信できた。


ユスラ・トゥーラン


建国時の皇帝の名前だ。

セリーヌはもちろん初代皇妃だと確定した。

2人についての文献がほとんど残っていないため、歴史オタクのティアナもクロードもお手上げなくらい謎だらけの時代で、人物も然り。


建国以降、ユスラをミドルネームに使うことになり、ティアナの本名はティアナ・ユスラ・トゥーランという。



この時代から、戻れるのかしら……


ティアナの脳裏にそんな疑問が浮かび血の気が引いたけれど、クロードと一緒ならどこでも生きていけるという想いで、震える手を握りしめた。

この震えは、セリーヌのものなのか自分のものなのか分からなくなってきていることに気付くことなく。



建国時は情勢が不安定だということだろうか、翌日にも何かしらの襲撃があった。

どこの誰からのものかも分からないまま戦闘が始まり、そのまま話が進んでいくことに、ティアナとクロードは観客のような主役のような何とも言い難い気分で入り込み始めている。


今回はおびただしい数の謎の生き物が城を囲み、侵入してきた。

突然、セリーヌが腕をつかまれそうになったのだが、ティアナは一瞬で自分の目の前からきれいに吹っ飛んでいくのが見えた。


「あら、私をどうするのかしら?」


セリーヌは蹴り上げた足をキレイに着地させ、服をパンパンと払いながら当然という顔をしている。


「……」


えっ、クロードがあっちの方で見てる!

いやちょっと待って!

これをしたのはセリーヌであって私じゃないわ!!

私もビックリよ!!


「お姫様はおてんばだから」


これは、おてんばとかいう問題の話じゃないと思うの。

昨日といい今日といい……

足に魔力をためて、蹴る瞬間に一気に一点解放していたのは高難易度だし、何より体術も素晴らしいわ。


「俺らいつも守られてるよな」


のん気にビアンキとラルフが見守っている。


あなたたち2人はセリーヌより背も高くて恰幅も良いのに情けないと思わないの?!


「ふふ、私の可愛い弟たちを守らなきゃね」


フワリと笑うセリーヌは、いつもより何よりも美しく、美しすぎて弟たちと呼ばれた彼らも背筋が凍ってしまいそうになっている。


「指示者は誰かしら」

「……」

「少しでも痕跡があればと思ったけれど……上手に隠しているわね。残念だわ」


セリーヌは小さく「可哀想だけど」と付け加えて、何のためらいもなくお次は剣と魔法でかなりの数を一網打尽にしてしまった。

美しい演舞のような剣さばきは、敵陣含め見るものを魅了するほどだ。


あちらの方でユスラは悠長に見守っていて、先日とはまるで大違いだ。

今しがた恋に落ちたかのように愛おしそうに笑って眺めている。






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