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4…気に入らない

コンコン


ロナルドの部屋の扉がノックされる音がした。

どうぞという言葉とほぼ同時に扉が開かれ、正装を着たティアナと両親、ビアンキ公爵家の面々の姿が現れる……

そして、いつもより着飾っているロナルドを見るやいなや、全員が笑顔になった。


「ロン、おめでとう! いつも素敵だけど今日は格別ね」


ティアナがそう言うのを皮切りに、お祝いの言葉が飛び交う。

今日はロナルドの誕生日だ。


「ありがとう。来賓室まで行こうとしてたのに来てくれたんだ」



部屋前の広い廊下で、皇帝と皇妃がビアンキ公爵夫妻と話し始めた。

そちらの方をクロードがチラッと見やってロナルドに近付いてきた。

顔を近付けて「両親がうるさいから。笑わずに黙って聞いとけよ」と小声でロナルドに話しかけると、スッと姿勢を正した。

長身美男子の小公爵であるクロードはやはり立ち姿も美しいので、いつもと違う姿も相まってティアナもロナルドも見入っている。


「……この度はご成人おめでとうございます。ビアンキ公爵家を代表致しまして心からお祝い申し上げます」


状況を察したロナルドは小さく咳払いをした後に衣装を正し、クロードと同様に姿勢を正した。

少し口もとがニヤついているようにも見えるロナルドもキレイな挨拶を返した。

2人とも美しい好青年に成長しているし、教育の賜物か仕草も洗練されているのだ。


「クロ……いつの間にそんな立派な挨拶ができるようになったの」


感動して涙ぐみそうにまでなっているティアナに、物言いたげな顔をしたクロードがため息をついた。


「……ティア、俺もう17歳だから」



皇太子の20歳成人の祝賀パーティーの年に、ティアナとクロードは22歳と17歳になった。



年頃になると男女は別に行動するのだが、3人は例外として今も変わらずよく一緒にいる。

他の貴族令嬢がやってしまうと何かしらの騒動になるのだが、ティアナが皇女でクロードもロナルドも身分はトップオブトップなので成り立つ関係のようだ。

ティアナの穏やかな性格も相まって、誰一人何一つ不満や愚痴を言う輩は今のところ現れてはいない。







「あの狸野郎、俺への挨拶の謁見の時に顔引きつってたよな」


愉快そうなロナルドがドカッと椅子にもたれて腕組みをすると、ティアナがすぐたしなめた。


「じゃあ狸大臣」

「……さっきと全然変わってないわ」

「あいつ支持する人間に合わせて意見変えすぎなんだよ。すぐ手のひら返すし」

「まぁ……平たく言えば、言いくるめさえすれば簡単に使える奴ってことだな」

「クロードまでっ」


パーティーは盛大に催され、お開きとなった後にティアナの部屋で3人でお茶を飲み始めたところだ。


「……ん?」


クロードが目を細めてあちらの壁から視線を外さなくなった。


「クロ? 何? ちょっと恐いんだけど……」

「今一瞬……あの壁の一部が光った気が」

「どこだ?」


ロナルドを筆頭に見に行くと、そこは物心がつく前から異なった形の穴がある壁だった。

3人ともがこの壁はそういうものだと思ってきた。


「この穴があるあたりだった」

「ここの9つの穴……ずっと何か分からなくて不思議だったけど……ただのデザインよね」

「俺もそう思ってた」


そう言いながらロナルドが穴を確認するように触り、何かに気付いたような顔をした。


「穴は1つずつ形が違うけど……この穴、その杯の底と似てないか?」


ロナルドの視線の先には、ティアナが魔力測定の時に見つけた杯が飾られてある。


ティアナは「そうなの?」とつぶやきながら杯を持って横にむけ、底を穴に入れようとすると、ロナルドが焦るように手を取って止めた。


「姉さん待って! 何か起こったら危険だから」


クロードが穴に向かって目を細めている。


「今の……ピッタリだったよな」

「同じような杯が他に8個あるってことかしら」


今度はティアナが穴に近付いて見始めた。


「あら?」

「どうした?」


ティアナの頭に付くくらいクロードが近付いて一緒にのぞこうとしている。


ちょっ……近い! クロはご令嬢にこんなに近距離まで近付いたりするのかしら。

心配というか嫌だわ……嫌?



「あ! さっきの穴が光ってる!!」


クロードの言う通り、壁が薄く輝き始めた。

そして突然、光が強くなった。


!!!!


恐くなったティアナが目を閉じて背けると同時に、何かに包み込まれるような感覚になった後ふわりと浮いた。

ティアナがそっと目を開いて、クロードに抱きかかえられていると分かるのに時間はかからなかった。


近いっっ


「ティア、大丈夫??」

「だだだ、大丈夫、大丈夫、だい、じょう、ぶ」



そう言いながら、いつもより心臓がはち切れそうに打っているのを感じて、息をするのも忘れてしまった。


「……はっ」


ティアナはやっと呼吸しなければならないことを思い出して、肩で息をして整えようとし始めた。

それでも心臓は全く落ち着いてくれないのだけれど。

クロードに下ろしてもらえないまま、ティアナは全く自分を整えることができない。




ロナルドが薄い目でその様子を見ていると、わけが分からないと首を傾げているクロードと目が合ったので、イラッとした顔を隠すことなくフンッと鼻を鳴らした。

その態度が気に入らないクロードも負けじと視線を返している……


そんな2人の雰囲気に気付いたティアナが視線を向けると、目が笑っていない笑顔のロナルドと目が合った。

特に悪い事をしているわけではないのに背筋がゾワゾワするので後ずさりしていく。


「姉さん逃げるな」

「だって……」

「何?」

「……何もありません」


ティアナがしょんぼりしたところで、クロードが続く。


「ティア」

「ひゃっ、は、はいっ、な、何でしょう」

「どうして敬語?」

「……なな、な、何もありません」


心配してのぞき込むクロードのせいで、ティアナは顔が紅潮して涙目になっている。




そんなやり取りを見て、ロナルドはどんどん面白くなさそうな顔になっていく。


「ふん。まぁ他の奴よりマシか……いやダメだ、やっぱり。何にせよ気に入らない」



皇太子成人祝賀パーティーの余韻で、城内はいつもより浮足立っている。







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