21…ルボロ(5)仲良いね?
確かにふかふかのベッドで眠っていたはずだったのに。
目が覚めると草原のど真ん中なんて。
ロナルドが現実を受け入れるには、もう少し時間かかかりそうだ。
「ここは……」
同様のティアナもクロードも寝ぼけまなこでやっと立ち上がろうてしている。
「皇城の裏……?」
「そうみたい、ね」
「動物がいたら前と同じだな」
「ふふっ。まさかね」
ティアナとクロードの話を、ロナルドはわけが分からないという顔をしながら聞きている。
「やだ……いるわ。見て、クロ」
少し遠い場所に、黒色の何かがのんびりとたたずんでいる。
そして、こちらに気づいたのだろうと思った瞬間、やはりなぜか目標をこちらにしたらしい、走り始めた。
のんびりとしていたわりに、それなりに速い。
思わず3人で走って逃げているのだが、ティアナはふとあることに気付き、叫びのような声でクロードに話かけてみた。
「もしかしてっ、前と同じようにすれば、帰れるのかしら?!」
「あー、まー、たしかに! そんな気がするけど。ははっ、嫌だなー」
思わず笑ってしまったクロードにつられて、ティアナまで笑ってしまったけれど。
すぐに2人は真顔になって、息を切らしながら立ち止まった。
そんな行動をもちろん意味が分かっていないロナルドは、振り返って転げそうになっている。
そんな弟をしっかりと掴み、ティアナはクロードの腕にしがみついた。
「なっ?! 何で止まった?!」
「ロン信じて。これで帰れるわ……きっと」
「はあぁ?! 姉さん何言ってんだ?! うぉおっ」
ドンッッッ!!!!
突進してくるミニブタに突撃されたにも関わらず、全く痛くない。
ティアナが目を開けようとした瞬間……
マタアラワレルダロウ
「やっぱりそうよ! クロも聞こえた?」
前回も、ヤギのボルザークに当たられるとメッセージのようなものが聞こえてきたが、今回も同様だったことに気付いたティアナ。
「……聞こえた。条件付きで聞けるようになっているのか? こんなこと可能なのか」
「姉さんクロ、ここは!!」
ティアナとクロードが難しい顔をして模索していると、目を白黒させていたロナルドが驚いて声を上げた。
「戻ったぞ!!」
光に巻き込まれた皇城の歴史書の部屋に、3人揃って座り込んでいる。
すると、奥の方から何やら近付いてくるのが見えた。
白靴下模様がチャームポイントの黒いミニブタが、愛想良く尻尾を振りながら歩いてくる。
なんだかご機嫌だ。
「もしかして……」
何やら察したクロードとミニブタが目が合うと、ミニブタらしからぬニヤついた顔をしてフンッと息を吐き出した。
「想定できているな? まぁ当たりだ。名は、ルボロだ。俺は今……豚か何かか?」
予想した名前が当たったのに信じられない、そんな様子のティアナとクロード。
そして状況を見守るしかないロナルド。
それをルボロは見上げて愉快そうに眺めている。
「きっとミニブタね……本当に、ルボロなのね?」
ティアナがそう言うと、黒豚が何とも言えない表情を作った。
何かしてしまったかと心配になっているティアナを見て、ルボロは困ったような優しい顔になり、彼女が聞いたことのある台詞を贈った。
「頼むから、お前はどうか生き抜いてくれよ」
コンコン
ガチャ……
「あ、もう来てる?」
ティアナが扉を開けると、ボルザークと談笑をしているようなクロードとロナルドが見えた。
クッションが飛び交っていたような気がするけれど、ティアナは気のせいと自分にいい聞かせて笑顔を作った。
何せこちらで各々この姿で、初対面かもしれない場面が今から始まろうとしているのだから。
そんなティアナの緊張をよそに、その後ろから何だかご機嫌そうなルボロが尻尾を振りつつ「よぉ」と言いながら部屋に入ってきた。
ボルザークは目が飛び出んばかりになっている。
まさに青天のへきれきだったのだろう、一瞬息が止まったように見えたヤギは、苦しそうに大きく息を吐いてから今度は目一杯空気を吸った。
どれくらい経っただろうか、ボルザークはやっと喋れるようになり、近付いてくる黒豚に斜め上から分かりやすくガンをつけ始めた。
まるで臨戦態勢のヤギだ。
ミニブタよりヤギの方が少しだけ背丈は高いので、とりあえずは強そうに見える。
「ああああ?! 何でブタが私の部屋に来るのよ!! ブタは豚箱にでも入ってなさいよ!!」
そんなボルザークを見て愉快そうに笑っているルボロに感心しながら、ティアナはまだ緊張しながら行く末を見守っているのだが……
「まぁ、少しの間だけでも。ここ広いし、場所そんな取らないだろ」
クロードがそう言うと、ボルザークが今度はクロードにオラつき始めた。
しかし、平気なルボロはひょうひょうと話かける。
「何で俺たちはこんな姿で…………っ。あー、喋れないな。あいつのせいか。ははっ、可愛いことをする」
何かを喋れなくなっていることに気付いたルボロは、なぜだか嬉しそうに微笑んでいる。
「黙りなさいよ、このブタ! ふっ、あははは、ブタがお似合いじゃない」
「うるさい、この性格ブス。ヤギになっても治らないのか」
「はああ?! てめーよりマシだクソがっ」
「喋り方が男になってるぞ」
「お黙り!!」
2人もとい2匹の掛け合いが絶妙で、誰も合いの手を入れることができず見入っている。
「え? なっ……喋ってる」
はたと、ティアナとクロードや動物たちが振り返ると、そこに1人後退りしながら驚愕しているロナルドがいた。
「待てロン、ボルザークは現れた時からずっと喋ってたぞ?」
「いや、普通にただ鳴いてた。クロは適当に相づち打って会話してるとばかり……」
視線がヤギに集まると、ボルザークはやれやれと何か言いたげにしたけれど、大きくため息をついて首を振った。
どうやら、また何か言えないようだ。
「帰ってきて聞こえるようになったのよね?」
「ロンを見るからに、そうみたいだな」
ティアナとクロードが状況を確認しているが、当の本人のロナルドは全く聞いていない。
「まぁぁ、ようこそ?」
「さすが先輩、鳴き声みたいな喋り方だな、ははっ」
「お前は本当にお黙り」
硬直しているロナルドをよそに、2匹は愉快に会話を再開した。
「ボルザーク……あんな喋り方だったのか。母さん知ったらどう思うかな」
ポツリとロナルドがつぶやくと、それを聞いていたボルザークがロナルドの方へ勢いよく向いた。
「あの子、すでに知ってるわよ。喜んでたわ、あんの変わった転生者」
「何かしら? てんせい、しゃ?」
「あー……何でもないわ。忘れなさい」
聞いたことのない単語が出てきたので、ティアナたちは首を傾げてけげんな顔をしながらボルザークを見ている。
一瞬やってしまったという顔をしたボルザークは、珍しく咳払いをしてよそを向いて反すうをし始めた。
いよいよヤギだ。
動揺していたロナルドが何かを思い出したようで、口を開いた。
「あ、とりあえず仲良さそうだから、同居で」
一瞬でヤギでもそんな顔ができるのかとティアナが感心するくらい、ボルザークがものすごい顔になった。
クロードの「前も見たな、このブッサイク芸」の発言に気付くこともできないくらい驚がくしたのだろう、必死にロナルドにガン付けし始めた。
「この下り見て仲良いって判断できるお前は皇太子のくせに頭悪いんかあぁぁ!! 状況判断能力、皆無があぁぁ!! 皇太子やめろや!!」
ロナルドがケタケタ笑っている。
その隣に、やれやれという台詞が聞こえてきそうなルボロが尻尾を振りながらやって来た。
「ボルザークってお喋りオネエだな」
「ああ、記憶ある限りそうだな」
「旧知の仲なのか?」
楽しそうなロナルドにルボロが愉快そうに返事をし、2人は和気あいあいと話し始めた。
どうやら会話のテンポが合っているようだ。
神と同じ名前と記憶を持つ2匹目の動物が、ボルザークの部屋に仲間入りした。
「何でっ! お前と! 同室なのよぉ!!」
「ははっ。よろしくな」
膝から崩れ落ちるボルザークを横目に、ルボロは少し満足そうにそのままロナルドの隣に座り込んだ。
ボルザーク以外がみんな楽しそうに笑っている。
ピンクの杯の隣に置かれた黒い杯がキラキラと光っていた。




