18…ルボロ(2)輪廻に
夜に虫の音が響く季節は、心地良い風も吹いているものだ。
先日までの熱帯夜と打って変わって、草花も虫も過ごしやすさを楽しんでいるかのようだ。
そんな夜半過ぎ、ユスラは1人で庭園を何かを探すようにゆっくりと歩いている。
先ほどと比べて少し目線が高くなっているので、クロードはどういうことかと考え込んでいたら、先ほどガラスに映った自分を見てどうやらかなりの時間が経っていることが分かった。
遠目に人影が見えると、ユスラは足早にそちらへ向かった。
「よお」
ルボロがやはり来たかという顔でため息をつきながら、すぐ近くにあるガーデンテーブルに腰掛けた。
そんな様子を微塵も気にすることなく、ユスラはそれのベンチの方へドカッと座り込んだ。
「気が狂いそうだ。あいつを見つけて殺してやりたい」
突風が吹き、風が強くなってきた。
ユスラが自嘲気味に笑いながら不穏な台詞を言うと、ルボロは横目で見ながらもう一つため息をつき、防御壁で2人を包んだ。
ユスラの魔力が暴走しそうで、このままだと辺り一帯が吹き飛んでしまうかもしれない……自分とユスラを閉じ込める形にしたのだ。
また庭園は静けさを取り戻し、虫の音が聞こえ始めた。
「神殺しは永久に罪人になる……それに、まず勝てないだろう。やめとけ」
大きく舌打ちをしたユスラが、イライラを隠さず天を仰いだ。
星がキラキラと美しく輝いている。
そんな光景に、ユスラは遣る瀬ない気持ちが大きくなるばかりだ。
1つの星をユスラは目標と定め、指を向け魔力を込め始めると、ルボロはやれやれと深くため息をついて目を閉じた。
「神を殺せば永久に罪人。神に殺された者は罪人と見なされ来世に神が監視するため核が目立つようになる……馬鹿げた話だな!!」
次の瞬間、ユスラは強大な魔力を放った。
通常ならばルボロの防御壁を壊し、軽く大地震並みの地響きくらいはするものだが……周辺は片時も揺れることもなく、今もただ虫たちがきれいに合唱している。
「……流石だな。魔力に結界をまとわせて放ったのか」
「はっ、こんなもの! 何にも役に立たなかった」
自暴自棄のユスラに、あきれながらも優しい目で見守っているボルザークを、クロードはいささか違和感を抱いた。
「神は単独行動を好む。お気に入りを作るなんてことは無い……もうその時点ですでに狂気だ。神の狂気に核ごと巻き込まれてしまう。セリーヌや以前のオウカのように」
「断ち切るためには神が自らを消失させるしかないんだろ……人が為せることは無いのか」
そう言ってユスラは舌打ちをして空をにらんだ。
そんなユスラを横目に、ルボロは伏せ目がちに淡々と話を始めた。
「あの日は……セリーヌが何とか抵抗したからか、何があったのか分からないが、なぜか命はあった」
ルボロは本当に理解できないと言いたげな態度で頬を触り始めた。
「そこが今までの数々の事例と全く違うところだ。信じられない。あいつがしくじるとは思えない。できない何かがあったのか、起こったのか……」
まだよく分かってはいないクロードだが、神の何かしらの事に巻き込まれてしまった人たちがいて、それを数々と言うことは、オウカやセリーヌの数人だけではきっとないのだろうと推測した。
一体どれだけの人がどんな目に遭ったのか……
「きっと今後やりきるだろう。神のあいつがセリーヌを殺し、核を目立たせて……来世もすぐ分かるように」
「ああ……馬鹿げた話だな」
ルボロが先ほどのユスラの言葉を借りて投げやりに言うと、ユスラはルボロへ視線だけ向けた。
「……お気に入りでなくなることは?」
「ほぼ無い。永遠に外れることは難しいだろう」
微塵でも良いから希望が見たくて聞いたのに、どうやらこの神は神のくせに全くすがらせてはくれないらしい。
無表情で淡々と応えるルボロがいつになく憎い。
「次の生も待ち構えているなんて、狂気の沙汰だ……神に待ち構えられるなんて打つ手無しだ」
クロードも同感だと思いながら、言い表せない怒りに似た感情が自分の底から湧き上がってくるのを感じた。
これは自分のものなのか、当時のユスラのものなのか、推し量ることもできず。
「……何年かかっても構わない。俺は断ち切る方法を探す。死んでも死に切れない」
ユスラの台詞が響き、虫の音だけが大きく静かに残った。
「何なんだ!!」
グシャッと自分の髪の毛を鷲掴みにして、先ほどからロナルドはまばたきができていない……
「ここは何なんだ?!」
やっとのことで3人になり、自分の体が自由に使えるようになったロナルドが驚きと困惑で目を大きくして叫んでいる。
そんな可愛い弟の姿をティアナはほほ笑みながら見ているのだが、クロードは2人を苦笑いしながら眺めていた。
「まただな……」
「今回はロンもいるのね」
ティアナとクロードのそんな会話を聞いて、更に目が大きくなったロナルド。
ロナルドは目が乾かないのかという疑問が先に出てきて、クロードは自分に笑ってしまう。
「え、待て待て。これ初めてじゃないのか?! だからこんなに冷静でいるのか」
「え、ええ」
「ティアと俺は以前1回だけ……」
開いた口がふさがらないを体現しているロナルドをよそに、ティアナは何かを思い出したようだ。
「さっき、出会う前にね、私は他の場面にいたの。2人はどこにいたの?」
街中でルボロと出会った時より前は、ティアナは1人でいたのだ。
その間に2人はどの時代のどこにいたのか、情報共有も兼ねて話題にしたようだ。
「俺たちは気付いたら……さっきの場面の大通りにいて、ティアがいないから大急ぎで2人で探してた」
「そう……その時、私だけもっと昔にいたみたいなの」
ティアナはクロードとロナルドに、オウカという人物とルボロがいたことをザックリと説明した。
一瞬迷ったけれど、なせだかオウカがルボロと良い仲のようだったことは言えなかった。
これは簡単に口にしてはならないような気がしたのだ。
今でも胸の痛みを感じるほどの2人の関係を、簡単に暴くことはできなかった……
「あ……ルボロは外見が変わっていないわ」
そう、ルボロは何十年も何百年も同じ容姿でいたということだ。
「皇国の神の1人に、ルボロ神がいるよな」
「神は不変だよな」
「ボルザークにルボロ……神がこんなに現れるなんて、なぜかしら」
どうして今なのか。
3人は何も分からないまま、夜が更けた。




