第七話
「あ、葵くん」
一瞬涼花先輩かと思ったが、期待虚しく白先輩だった。
しかしちょうどいい。涼花先輩から事情を聞こうとしてうまくいく気がしないし、ここで昨日のことを尋ねよう。
「昨日の話、聞いてほしいんだ」
俺から提案するまでもなく、白先輩が話を振る。俺は相槌を打つ。
「最初、わたしはまず涼花に、戻ってこないか尋ねた」
白先輩は思い出すように宙を睨む。
「まあ、当然涼花は戻らないって答えた。次にわたしは、理由を聞いた」
軽い瞬き。
「『わたしが戻っても、大喜くんは喜ばないし、葵くんには勝てない』。涼花は、そう言い切った。虚ろに空を見ながら」
情景が容易に浮かぶ。
目の前の白先輩には、視線も興味も送られていなかったことだろう。
「大喜くんも涼花に辞めてほしかったわけじゃないだろうし、葵くんだって涼花に勝ってるとは思ってないと思う、ってわたしは言ったけど……」
溜息と共に、地面を睨む。
「そんなの白の想像じゃん、って」
そこからの言葉は、なかった。
きっと平行線の議論が続けられたのだろう。
その話を聞いて真っ先に、涼花先輩は自分勝手だと思った。
後から始めた者に抜かされる絶望と、自分が一人を潰してしまった絶望。
涼花先輩はその両方を知っている。それは辛いことだとは思う。
だが、俺の気持ちもわかっているはずなんだから、救ってくれよ。
「葵くん」
「——はい」
「涼花を、救って」
やっぱり俺のせいなんだと、はっきりと理解する。
だから、涼花先輩にとって正しいことかはわからないけれど——
俺が、連れ戻すしかない。
「わかりました」
どちらにせよ、話し合いが足りない。
俺たちは、わからない。涼花先輩がどんな心情で部を去ったのか。歩み寄る案はなかったのか。