表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

第四話

 先輩は結局退部してしまったが、その先輩が期待した相手である俺は、より一層活動に力を入れるようになった。


 でも、今改めて考えると、俺は先輩の名前も知らないのに先輩のために活動している。それは少し不自然だ。


 先輩の名前を知らないというか、覚えていないだけではあるけれど……。


「辞めちゃった先輩って、名前なんでしたっけ」


 俺は別の先輩に訊いた。他の先輩も、よく俺の質問に答えてくれるし一緒に考えてくれる。優しい先輩だ。


「徳川鈴花。あんな仲良かったのに、名前知らなかったの?」


 意外そうな表情で先輩は笑う。


「先輩の名前、一人も覚えてないです」


「……じゃあわたしも自己紹介するね。結城白。よろしくね」


「白先輩ですね、よろしくお願いします」


 白先輩に挨拶だけしてから、俺は一旦部室を抜け出す。


 目指すのは、プール裏の緑地。運が良ければ、そこに先輩が残っている。


 そしてどうやら今日はラッキーだったらしく、先輩が座っているのを見つけられた。


「先輩」


「……葵くん。部活は?」


「先輩がいる部活のほうがいいので、抜けてきました」


「わたしは、戻らないよ」


「でも俺は戻ってきてほしいです」


 やっぱり、自我は出していかないと伝わらない。


「先輩、小説は嫌いになったんですか」


 困惑と、戸惑いと、それから決意。


「――うん」


 一言の返事に込められた重みは、俺を押しつぶして余りあるくらいだ。


「……出直してきます」


 今日、これ以上先輩の顔を見ていられる気がしなかった。


 先輩は、小説が嫌いになったと言った。


「本当、なんですか……」


 一人呟く。


 うん、とたった一言口に出すのにかかった時間、その時の見ていられないほど歪んだ表情。


 それが俺の期待なのか、先輩の気持ちなのか。


 部室に戻ると、白先輩が出迎えてくれた。


「どうだった?」


「変わりませんでした。しかも、小説が嫌いになったみたいに言われてしまって」


 白先輩は、俯いた。


「涼花……」


 先輩も、なにか思うところがあるのだろう。


「わたしも、涼花と話してくる」


 それだけ言って、白先輩は走り出してしまう。


「涼花先輩は、プール裏にいましたよ!」


 俺が白先輩に叫ぶと、遠くから感謝の声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ