第二話
先輩は、目前に迫る文化祭冊子にも作品を提出しないらしい。
対して俺は、やる気満々。この文芸部に入って初めての冊子なんだから、手を抜くなんて考えはひと欠片も浮かばなかった。
「あ、でもみんなの作品は読みたいから、活動には顔出すね」
「嬉しいです。様子見るくらいでいいので、たまには顔出してくださいよ」
「……まあ、いいよ」
先輩は乗り気じゃなさそうだったが、断ると面倒なことになるとわかっているのか、素直にうなずく。
「別に嫌々ってわけじゃないよ。小説を読むのは好きだし、相談に乗るとかも結構好きだから」
俺のことをどう思っているかは明言しなかったが、言わなくてもわかることをわざわざ聞いて落ち込んでも仕方ない。
「じゃあ俺もう部活行きますね」
「文芸? わたしも一緒に行く」
実は案外嫌われていないのかもしれない。
「葵くんは、もう作品できた?」
「プロットとかは大体できたんですけど、肝心の原稿はまだ全然です」
「ってことはわたしが今日口出すのは構成とかになるのかな」
俺は無言でうなずく。
こんな反応をしてはいるが、実力者のアドバイスを受けられるというのはかなり珍しい機械で、楽しみだ。
期待に胸を躍らせながら部室にやってくると、いつも通りアットホームな雰囲気で活動に励む部員たちが目に映る。
「おー、やってるね。久しぶり」
「先輩! 来てくれたんですね」
俺と同じ一年生の女子部員が、先輩と顔を合わせて喜んでいる。他の部員も同じような考えみたいで、来てくれた先輩に心から感謝する。
「ごめん、これ見てくれる?」
最初に先輩にアドバイスを求めたのは、先輩と同じ二年生。
先輩が画面の前に移動したのを確認して、俺も自分のパソコンを開く。
「葵くん、ちょっと見せてよ」
後ろから声をかけられて振り向く。
「アドバイスはもう終わったんですか?」
「うん、すぐ解決したよ。それより葵くんのプロット、見せて」
せっかく先輩が意欲的に手伝ってくれるのであれば、協力してもらわない手はない。素直にパソコンを差し出し、先輩が一通り目を通す。
「きみ、すごいね。細かいところ以外、気になるところはないよ。執筆経験あるんだっけ?」
「いえ、ないです」
「そっかあ、完敗した気分だよ……。で、細かいところなんだけど――」
先輩に褒められたのが心の中では嬉しくて、先輩が話し始めるのを聞きそびれるくらいには俺は心ここにあらずだった。